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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
春一番の淡恋
4/25

ようこそ、廃墟部


講義が終わると、私はスキップしながら待ち合わせの噴水前へと向かう。


すると、そこには約束通り先輩の姿。



(か、カッコいい…!)


思わず見とれてしまう。いつ見ても、彼は私のタイプを具現化したようで、ドキドキする。



「よ。授業お疲れ。」


「ありがとうございます~!」


「じゃあ、行こか。」



私は、ぎこちなく先輩の斜め後ろについて歩いていく。


5分ほどスタスタと歩くと、ちぇるしーが口を開いた。


「この中だ。」



前を見ると、そこには大きな古い建物がドンと立っていた。


大学から横断歩道を渡ってすぐの所に、こんな立派な建物があるなんて新鮮だ。


5階建てで、レンガ造りの壁に蔦が這っている。



「せっ、先輩。もしかしてこれ、全部…」


そう言いかけた私に、先輩は笑いをこらえている。



「ばーか。んなわけあるか。この建物の一室だよ。


ここは、学習会館っつってな、大学に公認された部活の部室が集まってんの。」



「へぇ…!」



先輩に続いて、私は5階分階段を上がっていく。


息が切れてきた。



「ハァ……、エスカレータ……」


「ここはな、俺らの学費で成り立ってるから、普段は節約しなきゃならんの。


いきなりでキツいと思うけど、…がんばって。」



「そう…なのです…ね、ゼェ、ハァ…」



そろそろ休みたくなった時、先輩が足を止めた。


「ここだよ。」



「ゼー、ハー…」


目の前には、白いドア。そこに何やら"廃墟部"と書かれた緑色のネームプレートがかかっている。


壁には、ちぇるしーと、金髪の女の人の写真が貼られている。


(えーと、これは…?)



「お疲れ様です!」


大きな声を出し、元気にドアをガラガラと左へスライドする先輩。


続いて私も入っていく。



「あら、こんにちは~♡」


そこにいたのは、先程見た写真の女の人だった。


(す、すっごい美人…!)


その女の人は、艶やかなロングの金髪をなびかせて、こちらを見据えている。



猫のような目は大きく、紫を基調としたバッチリメイク。


長いまつ毛に、スラリと高い身長。


黒いレースのワンピースを着ている。


(も、モデルさんみたい…。)



ぼうっと見とれている私。その女の人にちぇるしーは目をやった。



(かおり)、こいつ廃墟部に興味あるらしい。」


「そうなのね~!


じゃあ、説明するから、よく聞いてね~♡」



(よ、呼び捨て…?!)


私は、何よりもこの2人の仲が気になってしまった。


サークルの部員に、こんな美人がいるなんて。…ちぇるしーは、隅に置けない男の人なのだ。


そう感じた瞬間、私は叫んでいた。


「私、…入部します!」



「えっ」


2人は、目を見開いた。



「ま、まだ説明してないのに、本当にいいの?」


薫と呼ばれた金髪のお姉さんが、心配そうにこちらの顔を覗き込んできた。


「はい。」


私が即答すると、ちぇるしーは笑った。


「なるほど…。春灯さんらしいな。


そんなに廃墟好きだったとは。」



「知り合いなの?」


何故かニヤニヤしながらお姉さんが訊ねた。


「うん、バイト先の教え子だよ。」


「あぁ、そういえばちえた、塾でバイトしてるって言ってたわね。」



(ちえ、た…)


どうやら、お姉さんはちぇるしーのことを"ちえた"と呼んでいるらしい。



「あ、自己紹介が遅れてしまったわね。


あたしは、国際学部2回生、(たちばな) (かおり)


呼び方は、薫さんでもなんでもいいわよ♡」



ニッコリとしている彼女に、ちぇるしーは冷めた目をして言った。


「お前は、後輩から"薫姉さん"って呼ばれたいんだろ。」


「あーもー、ちえた。…それは言わない約束よ!」



(へぇー…)



なかなか愉快なサークルだ。



「ちなみに、廃墟部は只今2名での活動をしているのよ。


…周りに興味ある人がいたら、どんどん勧誘しちゃってね★」


「分かりました…!」


薫さんは、悪い人ではなさそうな感じだが、まだまだ分からない。



(とにかく、ちぇるしー先輩に接近するチャンスよ、私!)


今の私にとって、薫さんは1番マークすべき人である。



「知ってると思うけど、俺は智瑠(ちえる) (たかし)だ。法学部2回生。



呼び方は…」


先輩がそう言いかけた時、私はここぞとばかりに口をはさんだ。


「ちぇるしー!」



「ま、春灯さんは、そうだったな。」


「チ、チェルシー?」


薫さんは、耳を疑ってから、可笑しくてたまらないという風にお腹を抱えている。


「何か、新しいわねぇ。


ちえたが…チェルシー、だなんて…。


まるで甘い飴…!」



「チェルシーじゃなくて、ちぇるしーな。平仮名の。」


「違いあるの?」


薫さんは、笑っている。


「おぅ。俺は、ちぇるしーなんだよ。」


「ふぅーん。」


薫さんは、よく分からないという顔をしている。



◇◆◇◆


すると、ガラガラとドアが開いた。



「失礼します。こちらが、廃墟部さんですね。」


静かだけれどもハキハキとした口調でそう言いながら、小柄な女の子が入ってきた。



「そうよ、ここが廃墟部。


あなたも入部志望の子?♡」



「そうです。私、こちらに入部させていただきます。」


その女の子は、真っ白な無表情の顔で淡々と答えた。



「なんと!


やったわね、ちえた!」


「初日に2人も入部してくれるなんて、天地がひっくり返るかもな。」


そんな先輩方は、嬉しそうだ。



「では、私はこれで。」


小柄で華奢な黒髪ロングのその子は、そう言い残して部室を出て行こうとした。



「あっ、待って!お名前だけでも教えてくれないかしら?


あと、この入部届を書いて、また持ってきてね♡」


星野(ほしの) 風子(ふうこ)です。」



冷ややかな目で入部届を受け取ると、星野さんはスタスタと去っていった。


まるで、"人と慣れ合う趣味はない"ような人だ…。



「あっ、あたし今日バイトなの!


そろそろ行くわねっ!お疲れ様!」


薫さんは、ドタドタと部室から走り出て行った。


「お疲れー!」


「お疲れ様、です!」



どうやら、大学のサークルでの挨拶は「お疲れ様」というらしい。(何だか新鮮だ。)



部室にちぇるしーと2人きりになった。



「…」


「……」



「あ、わり。俺、ちょっと用あっから行ってくるわ。


部室に人がいないとダメだから、春灯さん留守番しててくんない?」



「えっ、」


そう言い残して、ちぇるしーも行ってしまった…。



(何よ、せっかく先輩と2人きりで話せると思ったのにぃ…。)



部室に残された私は1人、改めて部室を見渡した。


6畳ほどの広さだ。真ん中には大きな木の机が置かれており、下には緑のラグが敷かれ、ナチュラルな雰囲気だ。


壁際に置かれた机には大きなデスクトップパソコンが2台置かれている。


大きい本棚には、廃墟の写真集や本、小説、マンガ、ノートなどが所狭しと並べられている。


壁には、パルテルカラーの額に入った廃墟の写真やちぇるしー、薫さんの写真が大量に飾られている。



(何だか、部屋みたい。…落ち着くなぁ。)



私は今、大きな窓際に置かれた白いソファに座っている。


静かな空間に、窓から流れ込んできた穏やかな春風が心地よい。



体が、柔らかいソファに沈んでいく。


(何だか、眠くなってきちゃった…。)



慣れない大学生活に疲れた私の体は、休息を求めているようだ。



そのまま、私の意識はフェードアウト…。


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