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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
春一番の淡恋
3/25

ユメミルオモイ

 

翌朝、大学に向かう私は1人、キョロキョロと辺りを見渡していた。


昨日の黒い星座柄の傘を、持ち主に返さなければならないという使命感。



大学はやっぱり、高校までと規模が違う。


毎日がこんな風に、お祭り騒ぎなのだろうか?


人でごった返している門をくぐり、噴水の前をぼっちでスタスタと歩いていく。



「軽音部入りませんかっ?」


「ドルサーでぇす♡よろしくね~♡」



目の前に差し出されるビラに向かって会釈し、講義室へと向かうことにした。


今の私にはまだ、先輩達と目を合わせる勇気がない。



すると、その時だった。


「廃墟部です。僕達と一緒に、思い出の色を紡ぎませんか?」


そんな宣伝が聞こえてきたので、私は不意にそちらの方へと目をやった。



(はいきょ、ぶ…?)



そんな名前、聞いたことがない。珍しいと思った。



すると、見たことのある男の人が目に入った。廃墟部と書かれた灰色の看板を手に、ビラを配っている。


(あっ、あれは昨日の…!)


とっさに、私はそちらの方へ駆け出していた。



「…あっ、あの、昨日はどうもありがとう…ございました…。」


「あぁ、春灯さん。返しに来てくれたんだ、ありがと!」



(また、私の名前…!)



いきなり名前を呼ばれた私。不信感と得体の知れぬ懐かしさに、胸がドキリと浮くのを感じた。



「あれ、…もしかして、忘れちゃった…?」


目の前にいる彼が、少し残念そうな低い声でそう言ったので、私はきょとんとした。


私は、彼をまじまじと見る。



春風になびく黒髪。


キリッとした目鼻立ち。


爽やかなはにかみ笑顔。


スラッと脚の長い細身なスタイル。


私より頭1つ高い身長。


オシャレに着こなした白いシャツと黒いパンツスタイル。


漂うインテリジェントな雰囲気。



「うっ、うーん?」


ダメだ。知り合いにこんなイケメンがいただろうか。(不覚にもクラッとしてしまった。)



「…ほらよ。」


彼は、手を眼鏡型につなげ、自分の目に当ててみせた。


「…もっ、もしかして…!」



頭の中に、ある考えが浮かんだ時、私の心はパンと弾けた。



「ち、ちぇるしー先生?!」


「…バレたか。ならしゃーなし。」


自分から仕向けたくせに、先生は少しきまり悪そうに目を逸らした。


「卒塾したとこなのに、忘れたのかと思って焦ったわ。」



(えっ、えっ、)


「エェェェーー?!」


次の瞬間私は、我を忘れて叫んでいた。大学からは大人しいキャラでいこうと思っていたのに…。



(あのちぇるしー先生と同じ大学だなんて…!)


そう、これはきっと夢。夢なんだ。


自分にそう言い聞かせて頬をパシパシと叩いたら、痛かった。



◇◆◇◆


「春灯さん、後で説明会来る?」


夢見心地でぼんやりしている私に、ちぇるしーは言った。


「…説明会?」


「そ。俺らの部室で、廃墟部について説明してやるよ。…春灯さん、興味あるんだろ?」


「…もっ、もちろん!」


(あちゃー。)


私は目を輝かせていたが、決して廃墟に興味があるわけではなかった。


…ただ、先輩に会えて嬉しかっただけなんだけれど、それがバレるくらいなら誤解された方がましだ。


「じゃ、講義終わったら噴水前に集合な。何限まで?」


「あ、3限です。」


「了解。15時に噴水前ってことで!じゃあな!」


そう言って、挨拶代わりに片手をサッと上げると、先輩は行ってしまった。


だんだん小さくなり、遠ざかっていく背中を暫く見つめていた。




「あ、」


ハッと我に返る私。


このままだと、流れで興味皆無の廃墟部に入ることになるかもしれない。


(…まっ、先生――今は先輩だけど…、と同じサークルに入れるなら何でもいっか。)


気を取り直し、ふわふわした気分で私は初めての大学の講義とやらを受けた。



(何だか、ワクワクする。)


新しい世界の扉がそこにあって、開く一歩手前の瞬間。


…もしくは、宝箱がそこに置かれていて、開けるその瞬間。


そんな気分だった。


そこに待っているものがどんなものかは分からないけれど、悪い気はしない。

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