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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
嗤う幻想遊園地
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23/25

あの日の遊園地


ミラーハウスに到着すると、入口で星野さんがうずくまっていた。


髪の毛をかきむしりながら、1人でケラケラ笑ってうなだれている。



「見つけたぞ!


裏野 清、今すぐその子から離れろ!」



「ヒャヒャヒャ、…や~だね!」


星野さんの口から、成人男性のような声が出た。



「この世に未練があるなら聞いてやる。」


冷静に、星野さん…いや、裏野 清を真っ直ぐ見据えているちぇるしー。



すると、清はいきなり泣き出した。



「…未練の多い人生だった。」


そう前置きして、語りだした。



「あれは、今から85年ほど前のこと。


家族に連れていかれた海外の遊園地で、僕は両親とはぐれてしまった。


そんな時、同じ年ぐらいの女の子に出会った。


彼女はとても優しく、太陽のような笑顔がとても魅力的な人だった。


…僕はその時、恋を知った。


彼女と2人きりで遊園地をまわった。



ジェットコースターに初めて乗った僕は、こんなにも楽しい乗り物があるのかと感嘆した。その時の感覚は、今でも忘れられない。


メリーゴーラウンドに乗ると、ゆっくりゆっくりと時間が流れた。見える景色全てが輝いていた。


アクアツアーでは、赤、黄、青、紫…色とりどりの熱帯魚を数えた。…数え切れないと、知っていながら。アクアジェットコースターで水を頭から被ると、春の生暖かい日差しを忘れるほど冷たくて、心地よかった。


ドリームキャッスルに入ると、そこは夢の国。2人で笑い合いながら3階のバルコニーに出て、外の世界を眺めた。彼女が、"現実に戻りたくないね"って言ったことを覚えている。


ミラーハウスに入ると、彼女はとても怖がった。そんな彼女に手を差し出すと、強く握りしめてくれた。"怖くないよ。本当に人が死ぬわけじゃないんだ、外の世界と違って"。そう言って、彼女を励ました。15歳の僕には、それが精一杯だった。


そして、最後に夜の観覧車に乗った。


ガラス張りの箱の外に広がっていたのは、火の海に囲まれた幻想遊園地だった。…ぼんやりと明かりが灯り、僕達を優しく包み込んでくれるような。


僕にとってその遊園地は、幻の桃源郷だった。


僕は、彼女と見つめ合った。


すると、その時だった。けたたましくサイレンが鳴り響き、同時に爆発音がして、僕達は引き裂かれた。



観覧車は、…夢の回転永劫回廊は、真っ二つに割れて崩れていった。



目を覚ますと、そこは病院だった。


どうやら僕は打ち所がよかったと、大人達が話していた。



それから戦争が激しくなり、あのどこか遠い国の遊園地も焼け野原になってしまった。


…僕は、――あの子がどうなったのか、知らない。


僕は、後悔した。もしあの時、彼女を抱きしめていたなら…!



時は流れ、僕は父親になった。けれど、子供が1歳の時、僕は病気にかかって死んでしまった。


…子供達には、隠していた。陰陽師のせいだとか言っているけど、それは全くもって違う。



――ごめんね、ごめんね…、和夫。一緒にいてあげられなくて…!」



「…。」


「……。」




「清さん、あなたのお話は分かりました。


けれど、死は避けられないものです。あなたは、あの世へ行くのが少し早かっただけなのです。


いつまでも忘却された夢にしがみついていては、光ある者の未来を壊してしまいます。


…ご冥福を、お祈りします。」



ちぇるしーはそういうと、九字を切り始めた。



(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)


ノウマクサンマンダ……。


――急急如列令(きゅうきゅうにょりつりょう)!」



呪文を唱え終わると、ちぇるしーは指をはじき鳴らした。




「Left behind…Heft end, lib…。」


清さんは、最後に謎の言葉を残していった。




◇◆◇◆


暫くすると、星野さんは通常運転に戻った。


「…はっ?私は一体…?!」


「疲れて寝てたみたい。」


苦笑いしてそう答える私。



「…そうですか。」


(出た!塩対応!)


この塩対応こそ、星野さんだ。

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