あの日の遊園地
ミラーハウスに到着すると、入口で星野さんがうずくまっていた。
髪の毛をかきむしりながら、1人でケラケラ笑ってうなだれている。
「見つけたぞ!
裏野 清、今すぐその子から離れろ!」
「ヒャヒャヒャ、…や~だね!」
星野さんの口から、成人男性のような声が出た。
「この世に未練があるなら聞いてやる。」
冷静に、星野さん…いや、裏野 清を真っ直ぐ見据えているちぇるしー。
すると、清はいきなり泣き出した。
「…未練の多い人生だった。」
そう前置きして、語りだした。
「あれは、今から85年ほど前のこと。
家族に連れていかれた海外の遊園地で、僕は両親とはぐれてしまった。
そんな時、同じ年ぐらいの女の子に出会った。
彼女はとても優しく、太陽のような笑顔がとても魅力的な人だった。
…僕はその時、恋を知った。
彼女と2人きりで遊園地をまわった。
ジェットコースターに初めて乗った僕は、こんなにも楽しい乗り物があるのかと感嘆した。その時の感覚は、今でも忘れられない。
メリーゴーラウンドに乗ると、ゆっくりゆっくりと時間が流れた。見える景色全てが輝いていた。
アクアツアーでは、赤、黄、青、紫…色とりどりの熱帯魚を数えた。…数え切れないと、知っていながら。アクアジェットコースターで水を頭から被ると、春の生暖かい日差しを忘れるほど冷たくて、心地よかった。
ドリームキャッスルに入ると、そこは夢の国。2人で笑い合いながら3階のバルコニーに出て、外の世界を眺めた。彼女が、"現実に戻りたくないね"って言ったことを覚えている。
ミラーハウスに入ると、彼女はとても怖がった。そんな彼女に手を差し出すと、強く握りしめてくれた。"怖くないよ。本当に人が死ぬわけじゃないんだ、外の世界と違って"。そう言って、彼女を励ました。15歳の僕には、それが精一杯だった。
そして、最後に夜の観覧車に乗った。
ガラス張りの箱の外に広がっていたのは、火の海に囲まれた幻想遊園地だった。…ぼんやりと明かりが灯り、僕達を優しく包み込んでくれるような。
僕にとってその遊園地は、幻の桃源郷だった。
僕は、彼女と見つめ合った。
すると、その時だった。けたたましくサイレンが鳴り響き、同時に爆発音がして、僕達は引き裂かれた。
観覧車は、…夢の回転永劫回廊は、真っ二つに割れて崩れていった。
目を覚ますと、そこは病院だった。
どうやら僕は打ち所がよかったと、大人達が話していた。
それから戦争が激しくなり、あのどこか遠い国の遊園地も焼け野原になってしまった。
…僕は、――あの子がどうなったのか、知らない。
僕は、後悔した。もしあの時、彼女を抱きしめていたなら…!
時は流れ、僕は父親になった。けれど、子供が1歳の時、僕は病気にかかって死んでしまった。
…子供達には、隠していた。陰陽師のせいだとか言っているけど、それは全くもって違う。
――ごめんね、ごめんね…、和夫。一緒にいてあげられなくて…!」
「…。」
「……。」
「清さん、あなたのお話は分かりました。
けれど、死は避けられないものです。あなたは、あの世へ行くのが少し早かっただけなのです。
いつまでも忘却された夢にしがみついていては、光ある者の未来を壊してしまいます。
…ご冥福を、お祈りします。」
ちぇるしーはそういうと、九字を切り始めた。
「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、在、前。
ノウマクサンマンダ……。
――急急如列令!」
呪文を唱え終わると、ちぇるしーは指をはじき鳴らした。
「Left behind…Heft end, lib…。」
清さんは、最後に謎の言葉を残していった。
◇◆◇◆
暫くすると、星野さんは通常運転に戻った。
「…はっ?私は一体…?!」
「疲れて寝てたみたい。」
苦笑いしてそう答える私。
「…そうですか。」
(出た!塩対応!)
この塩対応こそ、星野さんだ。




