6.Dream castle
※初アクションシーンにチャレンジしてみました。ボクシングは未知の世界なので、間違いがあれば教えていただきたく思います。
…。
……。
「?!」
ぱち、と目を覚ました私は、キョロキョロと辺りを見渡す。
どうやら、縄で縛って強制連行される途中で気を失ってしまったらしい。
「ココハドコ…?
ワタシハダレ…?」
暗くて狭い、アーチ状の檻のようなものの中に入れられている…?
錆びた黒い鉄の床、壁、そして天井。私は、相変わらず手足を縄で縛られている。
「くッ、逃げられたぞ!」
そう言いながらドタバタと目の前を走っていくのは、今まで関わった着ぐるみの群れとピエロだった。
(ナニ、アレ…?
逃げられたって、誰に?)
ぼんやりとしていると、館内放送が鳴り響いた。
「おやァ?
どうやら上手く脱出したようだね。――智瑠 孝、園田 玲夜、橘 薫、星野 風子…。
でも、ざ~んねん♪
この少女を、今から…殺ォス!」
「…え?!」
すると、バンと牢屋の扉が開き、そこに立っていたのは…。
「ピエロ!」
「クックックッ、…君は、ボクのモノ。」
(?!
これは、もしや――!)
そんなことを考える暇もなく、ピエロが枝切りバサミとメスを持って襲いかかってきた!
白く光る、それらの鋭利な刃物には血がこびりついている。
ピエロはそれをこちらへシュッシュッと振りかざし――!
(死ぬ――!)
…。
……。
ゆっくりと目を開ける。どうやら無事のようだ。
そこにいたのは…!
「ちぇるしー!…と、玲夜?!」
どうやら、2人がピエロを蹴飛ばしてくれたらしい。
「そやでぇ!玲夜様登場、ってな!」
「ここは、俺らに任せろ!
…ちょいと、目つぶっときな。」
「はぇ?!」
そう言われたものの、私は半目を開けて2人を見守っていた。目の前に広がっている光景を、半信半疑で見つめている。
起き上がり、ちぇるしーに向かって枝切りバサミを振りかざすピエロ。
左にジャブ、ジャブ、右にストレート!
華麗なちぇるしーのパンチ。
しかし、ピエロも軽い身のこなしでウィービングして避ける。
フック、ジャブ、ジャブ、ストレート…。
(ちぇるしー先輩…カッコいいです!)
現役空手部の玲夜も負けじと、空手の技を突いて果敢に攻めている。
蹴りを入れる玲夜。だが、ピエロはそれをマトリックスの要領で避けた。
2対1。さすがに不利だと思ったのか、ピエロの背後からわらわらと4体の着ぐるみが出てきた…!
(あれは!)
まさかグルだったとは。見覚えのあるウサギ、イヌ、パンダ、カエルがそれぞれの手にメスを持っている。
4体はそれぞれ、ちぇるしーと玲夜にメスを振り回しながら近付いていく。
ちぇるしーがパンチを入れる。弧を描くようなフック、フック、真っ直ぐ左にジャブ、ジャブ、真っ直ぐ右にストレート、左で弧を描くようにジャブ、突き上げてアッパー。
玲夜が蹴る、蹴る、突く、突く、投げる、投げ飛ばす!
そしてちぇるしーの必殺ガゼルパンチ!
…。
……。
決まった!KOだ。
着ぐるみ4体は、その場に倒れて動かなくなった。
しかし、まだ1人残っている。ピエロだ。
ピエロは、ニヤリと嗤いながら、牢の向こう側の影に隠れていた薫さんの方を見た。
「コイツが、…どうなってもいいのか!えェ?」
そして、走りながら大きな枝切りバサミを開いて思いっきり振りかざす!
「い、イヤァァー!」
…ダメだ、見てられない…!今から走ったって、ここから間に合いそうにない。
すると、玲夜がチーターのような目にもとまらぬ速さで駆けていく。
そして、横から思いっきり跳び蹴った!
「グゥっ!」
ピエロの手を離れる枝切りバサミ。
床に倒れ込むピエロ。
…まるでスローモーションのよう。
「…!」
両手で顔を押さえ、泣きながら座り込む薫さん。
「は、ハァ…ハァ…怖かった…。」
「橘先輩、もう大丈夫です。」
そう言って、玲夜が薫さんに手を伸ばした。
すると、顔を上げた薫さんの顔が何だか熱を帯びているような気がした。目はうっとりして、玲夜だけを見つめている。
「…ありがと、園田…いや、玲夜くん♡」
その時、またもや館内放送が鳴り響いた。
「いやぁ、お手柄お手柄!
でもねぇ、君達にはまだわたしがいるからねぇ、ヒッヒッヒ!」
「また出た、ヘリウムガス野郎!」
「さぁて、ここで一旦休憩♪
君達の推理を聞くとしよう。
わたしは、だぁれ?」
「…へ?!」
何も分からない私をよそに、ちぇるしーが口を開いた。
「この事件の犯人は、…裏野ドリームランドの真支配人は、もう分かってるんだ。
ただ、答え合わせするには少し話し合わせてほしい。」
「――そう…。
いいよぉ♪でも、この30分の砂時計の砂が全て落ちるまでにね♪
間に合わなければ…I must kill you…。
クックックッ、アッハッハッハ――!」
裏野ドリームランドのどこか地下に、不気味な嘲笑が鳴り渡っていた。




