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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
春一番の淡恋
2/25

春風、乱舞


サークル勧誘のチラシが桜の如く舞っている春、入学式。



勧誘をしている上回生と、それを少し困惑した様子で受けている私達下回生の人だかりは、まるでお祭り騒ぎのようである。


ほぅ、と私はため息をついた。


(今日から、大学生か…。


高校の時の友達とも離れちゃったし、不安だなぁ。)



ため息は、淡く色付いた花々を灰色に濁らせた。


すると、不意に空からポツ、と滴が落ちてきた!


まさに青天の霹靂。激しい雷と通り雨は、晴れやかな群衆を一瞬にして混乱状態へと陥らせた。



「やっべ、雨だ!」


「キャー、やばぁい!」


ドタドタと校舎へと非難していく人影。



ザァァァァ


ゴロゴロゴロ、ドッカーーン!



(やばい、逃げ遅れた!…傘、持ってないや…。)


突き刺すような雨嵐に、私の頭からつま先までもがずぶ濡れになってしまった。


私は、なすすべもなくただその場に突っ立っていた。



その時だった。


「風邪、ひくよ。」


走りながら、何者かが私の手に黒い傘を預けていった。


「えっ」


すると、その男の人はサッと振り向いて言った。



「それ、使えよ。…春灯(しゅんとう)さん。」


(ど、どうして私の名前を…?!)


そう、私の名前は確かに春灯。春灯(しゅんとう) 詩織(しおり)がマイネームである。



「……」


私は困惑し、とっさにその傘を彼に返そうとしたが、タッタッと春風の如く気まぐれにどこかへ行ってしまった。


「あ、…」


お礼を言うのを忘れていたことに、後になって気付く。


ザーザー降り注ぐ春の雨の中、黒い傘を持たされた私は一人、ぼんやりと立っていた。



「と、とりあえずさそう…。」


おもむろに開けたその傘は、夜空に浮かぶ星座がキラリと光るデザインだ。


(す、素敵…!)


思わず息を飲み、傘をさしながら駅に向かう私は、先程のミステリアスな男の人の姿を思い浮かべる。



「それ、使えよ。春灯さん。」



蘇る、彼の優しい言葉。


(あれ、どこかで会ったような…?)


フラッシュバックした記憶に沁み込んでいる、既視感。それも、会ったのは1度だけでない気がする。



先程の激しい雷雨は、早くもしとしとした優しい雨へと変わってきている。


私は、首を傾げながら温かな春雨に打たれていた。



◇◆◇◆


大学の最寄り駅に着くと、雨は上がった。


音楽を聴きながら電車に揺られた私は、目をつぶり、自分の世界に入り込む。



春は、光の季節。新生活への希望と期待に満ちている。


けれど春は、憂鬱な季節。新たな世界への旅立ちに、不安と孤独感でいっぱいになる。


だから春の色は、…黒。




私の中で、何かが始まる気がした。


…もうすでに動き出していた運命の音が、耳をすませば聞こえそうだった。

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