5.Aqua tour area
残る2つのアトラクションのうち、まずはアクアツアーへと向かうことにした。
(もう夕方か…。)
夜になってしまう前に、早くここを出たいものである。
まるで、ミラーハウスに入っている間に、何時間か後の世界にタイムスリップしたようだ。廃遊園地とはいえ、時が経つのを速く感じる。
◇◆◇◆
苔むした人工の池に囲まれたエリアへと辿り着くと、私は手の平に"人"の字を書き、飲み込んでから深呼吸をした。緊張から解き放たれる為のおまじないだ。
まずは、野外に設置されているアクアジェットコースターを選び、乗り場へと歩を進める。
アクアジェットコースターは、水の上をジェットコースターが疾走していく乗り物であり、最後にはあの苔むした黒い池に落ちる設計だ。
苔まみれになるのはごめんだと思いながらぼんやりと乗り物を見つめていると、今度はカエルの着ぐるみが現れた!
全身濃い緑色で、飛び出した目はぱっちりと大きい。控えめの鼻の穴2つと、おちょぼ口。
(今までの着ぐるみの中で1番ましかも…。)
そのカエルは、ともすれば可愛いと称するに相応しいだろう。手を広げ、ピョコピョコと飛び跳ねている。
「ようこそピョコ!
シートベルトをしっかり締めて、落ちないように注意するピョコ!
じゃあ、行ってらっしゃ~いピョコ!」
カエルに手を振られ、アクアジェットコースターが始まった。
ゆっくり、ゆっくりと小刻みに揺れながら頂上へと上がっていく。下には、苔に覆われた汚い水が流れている。
そして、昇りつめると、一気に下降!
「ひ、ヒェェ!」
バシャン!
下に落ちると、池に蔓延っている苔を含んだ水が服にかかった。
(ゲッ!お気に入りの服だったのに…。)
私は、苔水で汚れたmystery woo manのデニムワンピースの裾を絞る。
(…臭っ!)
何ともいえぬ、気を抜けばもどしてしまいそうな腐敗臭が鼻一杯広がる。
私は、それでも気を奮い立たせ、ドリームキャッスルへと向かおうとした。
(あれ、…私、無事だ…!)
その時、先程の着ぐるみのカエルがトタトタと寄ってきた。
「あぁ、ちょっと待ってピョコ!」
「なに?」
「せっかくだから、アクアリウムも見て行ってよ~ピョコ!」
顔の下に手を置き、上目遣いのポーズをするカエル。
「…仕方ないなぁ。」
◇◆◇◆
アクアリウムに一歩足を踏み入れて、来たことを後悔した。
建物の塗装がはがれてコンクリートがむき出している…のはもう慣れっこだ。しかし、そのコンクリートに囲まれている汚れきった水槽の中を見ると…!
(う"、う"わ"ぁ"…!)
汚い苔むした水に浮かんでいるのは、死んだ魚、魚、魚の群れ。光を失った目をして、ほとんどが腐り果て、ミイラ化している。
黒い糸のようなものが全身に付着しているのは、カビやフンだろう。
しかも、強烈に臭い!私は思わず鼻をつまんだ。普通の水族館の生臭さとは比にならないレベルで、腐爛した空気が漂っている。
(あれ、…?)
水槽の端っこに、何やら不気味な生物の影を発見。
「これは、…」
きっと、7不思議の"謎の生物の影"だろう。
でも、これって。
左右対称に3本ずつ伸びている軟そうな触覚。前と後ろに2本ずつ生えている全部で4本の足。前足には4本、後ろ足には5本の指。全体にぽよんと柔らかそうな体。
「ウーパールー…」
生物の名を言いかけたその時だった。先程のカエルの着ぐるみが、縄を持って背後から忍び寄ってくるシルエットが見えた!
「えっ、えっ!」
私は反射的に振り向き、そのカエルと水槽の間をすり抜け、一目散に走りだす。
「こら、待てっ、待てっピョコ!」
(何で、何で追いかけてくるのよ!)
夕方の廃遊園地にて、リアル鬼ごっこ。
アクアツアーエリアから飛び出し、駆けていく私の目には、アトラクションの雰囲気を醸し出すのに一役買っている脇役のオブジェ達。
ある一角に倒れているのは、首が折れて錆びれたピエロ像。それは、いつか授業で習った"譫妄なき狂気"という言葉を彷彿とさせる。
(これ、ホームページに載ってたやつだ。)
ピエロ像の横を走り抜けると、次に現れたのは大きな太陽の顔のオブジェ。その作りは繊細で、大きく見開いた青い目の周りには細かい睫毛が生えている。西洋人のような高い鼻、飲み込まれそうなほど巨大でリアルな歯の並んだ口。高揚したようにほの赤い頬に、イ○トのような眉。
(太陽神イ○ト…!)
よく分からないことを考えながら、横を通り抜けていく。
「コラコラぁピョコ~!」
カエルは懲りずにまだ追いかけてくる。
ほどなくして前方に見えてきたのは、轆轤首を左右に振っている巨大なおじさんのオブジェ。
(キモッ!)
制作者には悪いが、気持ち悪い。
その時だった。
カエルが投げ飛ばしてきたバナナの皮にツルンと足を滑らせ、コテンとこけた。
「あぁっ!」
こけた私は、カエルに両手を後ろに縛られ、どこかへ引きずられていく。
「私の、バカーー!」
今、心の中には自責の念と恐怖しかない。




