3.Merry-go-round
「つ、次はどれに乗るんですか。」
私は半泣きでちぇるしーに訊く。
「1番近いから、メリーゴーラウンドだな。」
「そうですか。
…そういえば、夏楼さんまだ帰ってきませんね…。」
噂をすれば、夏楼さんが帰ってきた。
「夏楼さん…!
玲夜、…玲夜の容態は…?」
「あぁ、あの少年かな?
今は、元気にしているよ。」
「良かった…!」
安堵のため息をつく私。
「金髪の女性の方も元気だから、安心して。」
「それって、薫さんのことですか。」
星野さんが少し不安そうな顔をして訊ねた。
「そういえば、…名前はそんな感じだったかな。
彼女も救護室に連れて来られたからね。」
「救護室って、どこにあるんだ?」
ちぇるしーが、身を乗り出す。
「あぁ、それは一般には公開していないんだ。
我々警察が緊急に置いたものだから。」
(へぇ…。)
◇◆◇◆
メリーゴーラウンド前に着いた。
すると、今度は白黒パンダの着ぐるみが現れた。
「やぁ、メリーゴーラウンドに乗るのかい?」
両手を広げ、おどけているパンダ。
しかし、私は気付いてしまった。…そのパンダの手に、赤黒い血痕がベッタリと付いていることに。
「…!」
パンダは私の視線に気付くと、私の耳元で低い声をして囁いた。
「誰にも、言うなよ。
…もし話したなら、…殺ス。」
(…ヒッ!)
鳥肌が立った。
こんなにも怖い着ぐるみを、私は知らない。
ちぇるしーがメリーゴーラウンドの写真を撮り終わると、私達は1人ずつ、錆びれたペガサスにまたがる。
ギィ、ギィという金属が擦れる古めかしい音を立てながら、ペガサスは上下運動を繰り返す。メリーゴーラウンドがゆっくりゆっくりと回っていく。
不協和音のクラッシック音楽が高らかに、かつ不気味に聞こえる。
「あぁ、…わたしは1歳の時に父を亡くしてるんだ。
家族でこんな遊園地に来てみたかったな…。」
遠い目をして夏楼さんが言った。
「失礼ですが、夏楼さんって何歳なのですか?」
私は素朴な疑問を投げかける。
「わたしは今、66歳だよ。」
「もっと若く見えます…!」
「ありがとうありがとう。」
夏楼さんは、まんざらでもなさそうな顔をして笑っている。
「そういえば7不思議によると、このメリーゴーラウンドは、独りでに廻るそうです。」
星野さんが口を開く。
「あ、サイトにそんなの載ってたなぁ。
…でも、何で私達だけが今日招待されたのでしょうね?」
私は、後ろのペガサスに乗っているちぇるしーに疑問を投げかける。
「……。」
「ん?ちぇるしー、スルーしないで下さ…え?!」
振り返ってちぇるしーを凝視した私は、異変に気が付く。
「星野さん、夏楼さん、降りましょう今すぐ!」
ドタドタとメリーゴーラウンドから降り、ちぇるしーの元へと走る。
ちぇるしーを揺り動かすと、彼は骨が抜けたようにふにゃふにゃしている!
「…ちぇるしー!!」
泣き叫ぶ私。
星野さんが、か細い腕で彼の体をこちらに向けた。
「…!」
顔が、ない。どうやらそれはちぇるしーではなく、ちぇるしーと瓜二つの人形であることが分かった。
「ど、どうしよう…!
ちぇるしーまでいなくなっちゃった…!」
ガタガタと震える私。もう、涙も出ない。
「大丈夫だよ。
わたしがついてる。」
「そうです。私もいます。」
「夏楼さん、星野さん…!」
星野さんって、案外いい人なのかもしれないと、その時初めて思った。今は、この2人だけが頼りだ。
「でも、この遊園地は本当に怖いね。
お祓いしてもらわないと。
――例えば、陰陽師さんにね…。」
そう言いながら、夏楼さんはニコッと笑った。




