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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
嗤う幻想遊園地
16/25

2.The big wheel


「次は、どこ行く?


隣だし観覧車にするか。」


「…そうしましょう。」


薫さんが、いつになく大人しい。


…それもそのはずだ。玲夜に対しての心配と、裏野ドリームランドへの恐怖に押しつぶされそうな私達は、静まり返っている。



◇◆◇◆


観覧車乗り場に到着した。



「ど、どうします…?」


「3人ずつしか乗れませんね。」


「じゃあ、あたし1人で乗るからあなた達3人一緒に乗って?」


「えっ、」


「薫、それは危ないからダメだ。」


そう言うちぇるしーに、薫さんは言い張る。



「後輩ちゃんを守るのは先輩の仕事でしょう?


もし、ちえたがいなくなったらどうするのよ!


ここはあたしに任せて。」


「でも、…」



困り果てた私達の前に、今度は犬…ヨークシャテリアのような着ぐるみが現れた。顔が大きく、全身灰色に白の混じったフサフサの毛が生え、大きな青色の目をギョロリとさせている。


「早くするバウ。」


どこか怖い風貌とは裏腹に、ゆるキャラのような言葉を使うその犬。


背中に寒気が走った。



「早く乗りましょう。」



躊躇しながら、しぶしぶ薫さんを1人にして、ちぇるしー・星野さんと一緒に観覧車へと踏み込む。



観覧車のドアが閉められ、ゆっくりと動き出した。



「う"わ"ぁ…!蔦だらけで錆びてますよ、この中!」


スカートの汚れを気にする私に、ちぇるしーはそっとバスタオルを渡してくれた。


「これ、使いな。」


「…ありがとうございます…!」


ちぇるしーは一体何者なのだろうか?


そう思っている私の横で、ちぇるしーは観覧車の様子をパシャパシャとカメラに収めている。


私達の前では星野さんが頬杖をつき、1人で考え事をしている。



私はまたちぇるしーの方を向き、横顔を見つめていた。


(やっぱり、カッコいいな…)



その時だった。



「助けて…!」



(えっ!)


これはもしや、7不思議の助けを呼ぶ声ではないか…?



「ち、ちぇるしぃぃ!


今何か聞こえましたよ!」



「…これは、


――やられた!!」


ハッとして目を見開くちぇるしーが指さす先には、無人のゴンドラ。



(あれ…?)


薫さんが乗っているはずの隣のゴンドラだ。



「ど、どうしましょう!


今すぐ降りれませんか!」


「無理だ…!


今、頂上だから、もう少しの辛抱だ!」


先輩は、自分に言い聞かせるように言った。



それから地上に着くまでの時間は、とても長く感じられた。


…まるで、宇宙が生まれてから今までの時間の流れに揺蕩(たゆた)っているかと思われるほどだった。



窓から見える昼間の街の景色も、メリーゴーラウンドに流れている不気味な不協和音のオルゴール曲も、もうどうでも良かった。



(玲夜、薫さん…!


どうか、無事でいて…!)


今の私には、そう願うことしかできない。…無力な人間だと、自分を責めた。




観覧車を降りると、…そこに薫さんの姿はなかった。



代わりに残されていたのは、…大量の…。



「何、これ…、――もしかして、血!!」



血痕だった。赤黒い血が、まるで虐殺された現場のように四方八方飛び散っている。



「い、イヤァァァーー!」


私は思わず叫んだ。



「ねぇ、…ねぇちぇるしー!


どうしたらいいですか!!」


泣き叫ぶ私と、言葉を失う星野さん。まるで地獄絵図のようだ。



「落ち着け、落ち着いてくれ!


今俺達に出来ることは、全てのアトラクションをこなすことしかないんだ…!」


ちぇるしーは、私の頭をポンポンしながら励ましてくれた。


(いつもなら嬉しいはずなのに…。)



後味悪く観覧車を後にする私達を見て、1匹の黒猫がニャアニャアと嗤うように鳴いていた。

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