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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
嗤う幻想遊園地
15/25

1.Jet coaster


今裏野ドリームランドには、無論他に客がいないので、貸し切り状態である。待ち時間もない。


少し慣れない気分で、スイスイとジェットコースター乗り場に向かって進んでいく。



「ジェットコースターへ、ようこそ!」


そこに待っていたのは、昔のアメリカアニメに出てきそうな、ピンクのウサギの着ぐるみ。大きな緑の目をパチクリさせており、大きく開いた口から一本の大きな白い歯が見えている。ピンクと青のストライプ柄のズボンを履いている。



6人乗りのジェットコースターに、5人で乗ろうとしたその時。


「ちょっと待て。わたしも乗せてくれるかな?」


そう言って現れたのは、人の好さそうな警察官のおじさんだった。


「けい、さつ…?」


「そう、わたしは今日、調査と警備をする為に配属された、夏楼(なろう) 悟郎(ごろう)だ。


"廃遊園地の怪"の犯人が脱獄したなんていうニュースもあるぐらいだからね。


でも、私が来たからには大丈夫。」



そう言って胸を張っている、低い声の夏楼さん。


「まぁ、それは安心です!」


薫さんの顔が少し明るくなった。


「では、行ってらっしゃい!楽しんでね!」


ウサギの着ぐるみがこちらに向かって手を振る。



「…やっぱり、私やめます。」


星野さんの声が、震えている。


「ハァ?もう乗ったんやから、今日ぐらいそういうの勘弁してくれや。」


どうやら、星野さんと玲夜は馬が合わないらしい。



ジェットコースターは、キィ、キィ、ガタガタと金属が擦れる音を出しながら頂上へと上がっていく。


「ちょ、これ大丈夫かいな…。」


「園田も、そういうことは言わない方がいい。


ここは、今でも管理人によって整備されてるんだ。」


流石、ちぇるしーは詳しい。



頂上に向かって上がっていく時の恐怖と高揚。しかも廃遊園地だから尚更である。



上がりきった。


(お、落ちる…!)



フワッと一瞬宙に浮いたかと思えば、急降下。


地面に向かって、落ちていく!


速すぎて周りの景色など見えない!



「ギ、ギャァァァーー!」


誰よりも大声で叫んでいるのは、…星野さんだ。


(星野さん、絶叫系苦手だったのか)



すると、嫌な音が聞こえてきた。



バンッ



(…え?)



ドンッ、ドンッ



(何が起こってるの…?!)



「爆発音だ…!皆、伏せろ!」


ちぇるしーが大声を上げた。



焦げ臭いジェットコースター。どこからか煙が上がっている。


(や、やばい…!)



ドッカーーーン!!



「い、イヤぁぁ!」


「キャァァーー!」


爆発した。私達は、火の海の中、宙を彷徨い、落ちていく。



(死ぬーー!)



すると、その時だった。



パッ


(ぱ、パラシュート?!)



「安心しろ!こんな時の為に、皆に小型パラシュートを仕込んでおいた!」


ちぇるしーの声は、私達に生きる希望を与えてくれた。



(先輩、さすがです…!)




パラシュートで、ふわりと地面に降り立つ私達。



しかし、玲夜の様子が変だ。


「…クゥっ!」


彼はお腹を押さえ、歯を食いしばっている。全身灰と煤だらけだ。


「大変だ!救護室に連れて行くね!」


夏楼さんが、玲夜を抱えて連れて行った。




「…。」



「……。」




「園田のことは彼に任せて。次、行こうか。」


ちぇるしーが言った。


「で、でも…!」


「ここは、変に動かない方がいい。


それに、…さっき上空から確認したのだが、入口と出口が完全封鎖されてしまった。」



「ちえた、それって……!」



「そう、俺達は今、裏野ドリームランドに幽閉されている。」



その言葉は、今まで生きてきた中で1番ズシンと衝撃的だった。


カァ、カァ、カァとまたカラスが鳴き、不穏な風がビュォォと吹いた。



すると、その時だった。園内に流れていたメルヘンで楽しい"いかにも遊園地"という感じの音楽が止まった。



そして、聞き覚えのある甲高い少女のわらべ歌が響き渡る。



「連れ出して 夢の国

夢の中で 子供が一二三

幻の世界に夢中で 消えるよ

事故も 消えるよ

行き交う人に 訊ねてみれば

答えは牢の中…


水の妖精が 教えてくれたのは

あの日の幻影

鏡の森で生まれ変わり まるで人違い

地獄の拷問 耐え抜いたなら

回転木馬 空に舞って

回転永劫回廊 取り残されて…


連れ出して 夢の国

連れて行こう 夢の国

帰りたい 故郷に

連れ出して……」



わらべ歌が終わると、ヘリウムガスを吸ったような甲高い声が響く。


「1人、捕まえた♪次は、だ~れかな?


僕を捕まえることができたなら、ご褒美をあげるよ♪」



(…え?)


ざわつく私達。


「そんな…!ちえた、早く園田君を助けてここを出ましょう!」


ヒステリックに叫ぶ薫さん。



「あれぇ?ここから脱出できるなんて思わないでねぇ?


全てのアトラクションを無事こなしたら、かえしてあげてもいいよぉ?」



放送の声は、若い男性のように聞こえる。私達を挑発している…!


「くそ…ッ!」


ちぇるしーは、ズカズカとどこかへ歩いていく。


「ちえた、どこ行くの!」


「とっとと帰ろう!」


「ダメよ、園田君が――!」


頭をグシャグシャと掻きむしったちぇるしーは、意を決したように言い放った。



「よし、…こうなったら、アトラクションを全てこなして、園田を助ける。


そして、7不思議のタネを明かし、犯人も見つけ出してやる。


――大人しく、廃墟ブックのネタになりやがれ…!」



「ハハハハハッ♪そう上手くいくかなぁ?


健闘をお祈りするね♪」


高らかな笑い声の放送が終わると、元通りのメルヘンな音楽に戻った。



「あれ、…犯人って、捕まったんじゃなかったっけ?」


私は、とぼけている。


「昨夜未明、脱獄したとニュースで言っていましたから、今ここに居てもおかしくありません。


そして、あの裏野 義は、裏野ドリームランドと関わりはありそうですが、何だか怪しいです。」


星野さんが、淡々と答えた。



私の頭には、疑問符が飛び交っている。


そもそも何故、開園してから65年経った今になって、裏野ドリームランドは事を起こしたのか?

何故、私達だけが招待されたのか?

何故、裏野 義は自首したのか?

何故、裏野ドリームランドの支配人は私達を幽閉したのか?

7不思議は、本当なのか?

玲夜の行方は…?


何故、何故、何故…!



そして、私達の目的はただ1つ。


全アトラクションを無事制覇して、玲夜を助け出し、犯人を特定し、


――素晴らしい廃墟ブックを作る!

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