0.Entrance
8月8日金曜日、夏休み1日目。
始発の電車に揺られ、スーツケースを持った私は大学へと向かっていた。
大学に着くと、ゴロゴロとスーツケースを押しながら、4人と合流し、共に電車で空港へと向かう。
最寄りの空港に着くと、飛行機で新千歳空港へ飛んでいく。
その間、私は睡魔に負けてスヤスヤと眠っていたようだ。
あっという間に新千歳空港へ着いた。
雲を抜けると、そこは夏に支配されていない北の大地であった。
その後、電車やタクシーを駆使して奥地に辿り着いた。
私達は、タクシーのラジオで物騒なニュースを耳にする。
「昨夜未明、裏野ドリームランドの容疑者である、裏野 義が脱獄したとのニュースが入りました。」
「…え!」
緊張が走る一行。
「あぁ、裏野ドリームランドか。怖いね。もう、明日取り壊されるらしいけど。」
私達がその裏野ドリームランドに向かっていることを知らない運転手は、他人事のようにぽつりと口にした。
合計4時間の移動時間を経て、私達は裏野ドリームランドへ到着した。
「…ここが、裏野ドリームランド…!」
目の前に広がる景色を見た私達は、ぼんやりとその場に立ちつくした。
苔むした人工の湖と生い茂った木々に囲まれた大規模な遊園地である裏野ドリームランドは、その周りの景色とは次元が異なっているかのように思われる。
周りは田んぼや畑で田舎の風景なのに、その遊園地の内側だけは、ある種の結界に囲まれているようだ。
全体的に色褪せた建物や乗り物の数々は、かつては7色にカラフルだったものが煤けたのだろう。
「ちえた、写真写真!」
薫さんに一眼レフカメラを渡されたちぇるしーは、パシャパシャと無我夢中でシャッターを切っている。
すると、ピエロが現れた。
「ようこそ、裏野ドリームランドへ。」
そう言って、歓迎するように大げさにお辞儀すると、大きな錆びた門の鍵を開けた。
そこに広がっていたのは、初めて見る壮大な廃遊園地だった。
「あれ、…覆面ちゃうか。」
コソコソと玲夜が耳打ちする。
「え?ただのピエロでしょ?」
「ばか。俺、怪しいと思うとったんや。あんな事件起こしておいて、すぐ自首する意味が分からん。
もしかしたら…」
ピエロが、私達の入場を確認すると、入口の門をピシャリと閉めてしまった。
すると、途端に風が吹き荒れ、さっきまで晴天だった空の雲行きが怪しくなった。
ビュォォと吹いてきた向かい風は、夏だというのに木枯らしのように冷たかった。
1羽のカラスが飛んできて、頭上でバサバサと飛び回り、カァカァと不吉な鳴き声を轟かせた。
ザワザワと不気味に木の葉を揺らす黒い木々。
寒気がして、来てしまったことを少し後悔した。
(な、何かヤバい…!)
本能が、警戒セヨと告げている。
「お客様、只今10時になりました。
ようこそ、裏野ドリームランドへいらっしゃいました!
今日は、思う存分お楽しみ下さい。」
そう言って遊園地の地図を配ってきた先程のピエロが、手を振りながら仮面の中で二タッと笑った気がした。
私達が今いる場所は、エントランスの入場ゲートから少し入ったところだ。
私は、改めて裏野ドリームランドを見渡す。特に目立つアトラクションは、次の6つである。
1.一番奥に見える、色褪せた赤いジェットコースター。黒く生い茂った木々を潜るようにグネグネと曲がりくねっており、丘の斜面に沿った設計だ。無人の乗り物が疾走していく。
2.向かって右奥にあるのは、白い大きな観覧車。真ん中には、大きな黄色い星が埋め込まれていたような跡がある。ゴンドラは、かつては虹色のグラデーションだったような色をして廻っている。
3.観覧車の手前には、ノスタルジック感漂うメリーゴーラウンド。上の部分が傘のように三角形になっており、頂点にピエロの鼻のような煤けた赤い丸のオブジェが付いている。随分色褪せているが、黄色と水色のボーダーだったことが伺える。
乗り物の部分は、馬…よく見ればペガサスだ。
4.通路を挟んで向こう側、向かって左側の手前には、蔦に覆われたミラーハウス。四角い箱のような建物だ。ほとんどの塗料は剥げ、金属が顔を出しているが、所々に海外の絵の具のチューブから出したようなビビッドカラーの青色が残っている。
5.ミラーハウスから突き当り奥に行ったところには、アクアツアーエリア。人工の池は苔むしており、黒ずんでいる。(あの水を被りたくないな…。)
腐敗した木でできた高床式の建物が並び、屋根はカビが生えて赤黒い。アクアツアーエリアに、水を使ったアトラクションが存在していることは一目瞭然だ。
6.そして、真ん中に威風堂々と構えているのは、この廃遊園地のメインであるドリームキャッスル。天空に向かってそびえるその城は、この遊園地の中で1番の高さで、まるで魔王の屋敷のように見える。
元は何色だったのか分からないが、今は真っ黒でいかにも廃墟らしい。歴史の教科書で見た、古代西洋の城のような装飾が施されており、頂点には十字架のオブジェが乗せられている。排他的であり、"キング オブ 廃墟"といった感じがする。
(あのドリームキャッスルには入りたくないな…。)
「何やあの城!
オレ、あそこで魔王に会えるかな!」
「ちょっと、やめてよ!」
「どうやら、古き良きアメリカにヨーロッパの特徴を入れ込んだような遊園地ね。」
薫さんは、そう言いながら見とれている。
「じゃあ、ジェットコースターから乗るか。」
写真を撮り終わったちぇるしーがそう言うと、星野さんの表情が一瞬曇った気がした。




