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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
初夏の木漏れ日
13/25

嵐の前の静けさ


それからの日々は、足早に過ぎていった。


暫くするとじめじめした梅雨の時期がやって来たが、ちょうどその頃は中間テスト期間だった。


何とか中間テストを乗り越えると、いつしか梅雨が明け、カラッとした青空が顔を出した。



ミーンミンミンとセミが歌い、暑さを際立たせるようになった。


味気ない日々、すなわち平凡な日常。


どこからか漂ってくる日焼け止めの匂いは、夏の訪れを感じさせた。



そして、7月から8月初旬にかけて、次は前期期末テストが襲いかかってきた。


ゼーハー言いながら迎えた、裏野ドリームランド見物前日。



私達廃墟部+玲夜は、買い出しに行くことにした。


…なんせ、裏野ドリームランドは私達の大学の所在地・京都から遠く離れた北海道に存在しているのだ。



「必要なものを買いに行くぞ。」


部長であるちぇるしーを筆頭に、私達は京都のIRON(アイロン)というショッピングモールへと出向いた。



「廃墟探索に必須のアイテムは、次の8つだ。


歩きやすい靴、軍手、懐中電灯、緊急用品、方位磁石、飲料水、体に密着するリュッ…」


ちぇるしーの言葉もそこそこに、私達女子は服屋さんに夢中だ。



「見て見て、薫さん!


この服似合いますか?」


「あら、いいわね♡」



星野さんもスタスタと1人で、いつも着ているロリータっぽい服屋・"an(アン) another(アナザー) angelus(エンジェルス) by M.i.n.t"を見ている。



「お前ら…ッ!


俺、女子の買い物に付き合うのはごめんだ。


ちょうど長袖長ズボンも必要だし、見とけ。」



「智瑠先輩。オレ、IRONで安売りしてるTシャツと短パンでいいっスよ!」


「だーから、長ズボンだって。」


「アー?ラー?やっちまったなァー!」



つまらない漫才を繰り広げているちぇるしーと玲夜に手を振った。



そこからは、ショッピング女子会タイム。


2対1で買い物をするのもよくないと思い、私と薫さんはロリータショップを見ている星野さんの元へと向かう。


星野さんは、無言で"aces(エイシーズ) form(フォーム)"というブランドの、濃い青色の生地に宇宙柄がデザインされたフリフリワンピースを合わせている。



「わぁ…!可愛い…!」


私は思わず感嘆した。普段、このようなロリータを買って着る勇気はないが、生きているうちに1度は着てみたいと願う。


…女の子らしくて、とてもかわいい。



「お世辞は、要りません。」


ピシャッと冷たく返されてしまった。


「いや、本心だよ。」


星野さんの目を、キラキラした目で見つめている私。


彼女は、少しだけ嬉しそうに目を逸らした。



私は、星野さんをまじまじと見つめる。


(あんなクールすぎる性格じゃなかったら、とても可愛いのになぁ。)


黒髪ロングで、華奢で小柄。身長は、私より少し低い。(148cmくらいだろうか?)


黒髪ボブの私から見ると、綺麗なロングヘアは羨ましい。


ぱっつん前髪に、クリクリしたつぶらな瞳。


暗くて陰りのある、ミステリアスな雰囲気が漂っている。



「…何ですか?」


不機嫌そうな顔をしている星野さん。


「…いや、何でもない!」



「そうだ、しおりん、いつもどこで服買ってるの?」


薫さんは、好奇心に目を輝かせている。


「私ですか?


私は、主としてナチュラル系ですかね~。


"ALIVE(アライブ) death(デス) ALIVE(アライブ)"とか、"ROLECAKES(ロールケーキズ) FROM(フロム)"、"magic(マジック) region(リージュン)"などなどです。」



「オシャレねぇ…!」


「ありがとうございます!


あの店も好きですけどね。」



私は、"LORISPORT(ロリスポーツ)"という服屋を指さす。


その服屋では、上品かつ少し甘めのガーリーファッションが売っている。


「へぇ…!♡」


「薫さんは、いつもどこで買ってるんですか?」


「あぁ、あたしは"Tutty(ツッティー)Go(ゴー)."、"Jazzlin(ジャズリン)"、"SHELL(シェル) Mr(ミスター).been(ビーン)"などね♡」


「ほぅほぅ…!」


薫さんが列挙したのは、どれもきれい目ギャル系姉ファッションの店だ。


ファッションの話題で盛り上がっていると、何者かに肩をトントンと叩かれた。



「ん?」


振り返ると、そこには懐中電灯で顔を照らした玲夜の姿。


「……?」


「あれ、お前怖がりちゃうかったっけ?」


「いやいやいや、ナメすぎでしょ!」


そんな私達を見て、薫さんはフフッと笑っている。



◇◆◇◆


そうして買い出しも終わり、備えるべきものは気持ちのみになった。


明日、いよいよ裏野ドリームランドに突撃する。…戦じゃあぁ!!



そんなことを言っていられるのも今のうちだということを、知る由もなかった。



明日、恐怖の世界が幕を開ける…!

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