嵐の前の静けさ
それからの日々は、足早に過ぎていった。
暫くするとじめじめした梅雨の時期がやって来たが、ちょうどその頃は中間テスト期間だった。
何とか中間テストを乗り越えると、いつしか梅雨が明け、カラッとした青空が顔を出した。
ミーンミンミンとセミが歌い、暑さを際立たせるようになった。
味気ない日々、すなわち平凡な日常。
どこからか漂ってくる日焼け止めの匂いは、夏の訪れを感じさせた。
そして、7月から8月初旬にかけて、次は前期期末テストが襲いかかってきた。
ゼーハー言いながら迎えた、裏野ドリームランド見物前日。
私達廃墟部+玲夜は、買い出しに行くことにした。
…なんせ、裏野ドリームランドは私達の大学の所在地・京都から遠く離れた北海道に存在しているのだ。
「必要なものを買いに行くぞ。」
部長であるちぇるしーを筆頭に、私達は京都のIRONというショッピングモールへと出向いた。
「廃墟探索に必須のアイテムは、次の8つだ。
歩きやすい靴、軍手、懐中電灯、緊急用品、方位磁石、飲料水、体に密着するリュッ…」
ちぇるしーの言葉もそこそこに、私達女子は服屋さんに夢中だ。
「見て見て、薫さん!
この服似合いますか?」
「あら、いいわね♡」
星野さんもスタスタと1人で、いつも着ているロリータっぽい服屋・"an another angelus by M.i.n.t"を見ている。
「お前ら…ッ!
俺、女子の買い物に付き合うのはごめんだ。
ちょうど長袖長ズボンも必要だし、見とけ。」
「智瑠先輩。オレ、IRONで安売りしてるTシャツと短パンでいいっスよ!」
「だーから、長ズボンだって。」
「アー?ラー?やっちまったなァー!」
つまらない漫才を繰り広げているちぇるしーと玲夜に手を振った。
そこからは、ショッピング女子会タイム。
2対1で買い物をするのもよくないと思い、私と薫さんはロリータショップを見ている星野さんの元へと向かう。
星野さんは、無言で"aces form"というブランドの、濃い青色の生地に宇宙柄がデザインされたフリフリワンピースを合わせている。
「わぁ…!可愛い…!」
私は思わず感嘆した。普段、このようなロリータを買って着る勇気はないが、生きているうちに1度は着てみたいと願う。
…女の子らしくて、とてもかわいい。
「お世辞は、要りません。」
ピシャッと冷たく返されてしまった。
「いや、本心だよ。」
星野さんの目を、キラキラした目で見つめている私。
彼女は、少しだけ嬉しそうに目を逸らした。
私は、星野さんをまじまじと見つめる。
(あんなクールすぎる性格じゃなかったら、とても可愛いのになぁ。)
黒髪ロングで、華奢で小柄。身長は、私より少し低い。(148cmくらいだろうか?)
黒髪ボブの私から見ると、綺麗なロングヘアは羨ましい。
ぱっつん前髪に、クリクリしたつぶらな瞳。
暗くて陰りのある、ミステリアスな雰囲気が漂っている。
「…何ですか?」
不機嫌そうな顔をしている星野さん。
「…いや、何でもない!」
「そうだ、しおりん、いつもどこで服買ってるの?」
薫さんは、好奇心に目を輝かせている。
「私ですか?
私は、主としてナチュラル系ですかね~。
"ALIVE death ALIVE"とか、"ROLECAKES FROM"、"magic region"などなどです。」
「オシャレねぇ…!」
「ありがとうございます!
あの店も好きですけどね。」
私は、"LORISPORT"という服屋を指さす。
その服屋では、上品かつ少し甘めのガーリーファッションが売っている。
「へぇ…!♡」
「薫さんは、いつもどこで買ってるんですか?」
「あぁ、あたしは"Tutty& Go."、"Jazzlin"、"SHELL Mr.been"などね♡」
「ほぅほぅ…!」
薫さんが列挙したのは、どれもきれい目ギャル系姉ファッションの店だ。
ファッションの話題で盛り上がっていると、何者かに肩をトントンと叩かれた。
「ん?」
振り返ると、そこには懐中電灯で顔を照らした玲夜の姿。
「……?」
「あれ、お前怖がりちゃうかったっけ?」
「いやいやいや、ナメすぎでしょ!」
そんな私達を見て、薫さんはフフッと笑っている。
◇◆◇◆
そうして買い出しも終わり、備えるべきものは気持ちのみになった。
明日、いよいよ裏野ドリームランドに突撃する。…戦じゃあぁ!!
そんなことを言っていられるのも今のうちだということを、知る由もなかった。
明日、恐怖の世界が幕を開ける…!




