君たちは、ボクのモノ。
大学を出ると、そこに広がっていたのは、恐怖に支配された空間だった。
テレビは全ての番組が裏野ドリームランドについてのニュースに切り替わり、「廃遊園地の怪」として日本中をパニックに陥らせていた。
スマホだけでなくテレビやラジオ、無線、ガラケーまでもが、あの時間裏野ドリームランドに支配されていたらしい。
「あれ、…スマホが乗っ取られたの、私達だけじゃなかったんですね。」
ぽつりと口にした私の言葉は、騒ぎ立てる群衆にかき消された。
「あれで終わりじゃない。…きっと、何かが始まったんだ。」
ちぇるしーが、何かを覚悟したように言った。
◇◆◇◆
それからの日々、私は世間で何が起こっているのか分からないまま、混沌とした時間を過ごした。
3分程の犯行であったが、毎日のように新聞で大きく取り上げられ、世間を震撼させた。
その間、真っ先に疑われたのは、裏野ドリームランドが営業していた頃の支配人だった。
しかし、彼の名前は偽名であったことが発覚し、さらに忽然と姿を消していた。
当時から覆面だったことからその顔を知る者もおらず、捜査は難航していた。
そんなある日のことだった。犯人は、思っていたよりもあっさり捕まった。
それは、「廃遊園地の怪」から2週間後のこと。
裏野 義と名乗る男が自首したのだ。60代半ばで、薄汚いよれよれの服を着たガリガリのおじさんだ。
裏野は、「自分が犯人です。裏野ドリームランドの元支配人かつ土地管理人です。」と供述したという。
その事件は、早くも解決するかのように思われた。
しかし…その容疑者・裏野は狂気に満ちていた。薬物疑惑といった別の容疑も浮き上がらせた。
逮捕され、連行されていく姿がテレビに映ったのだが…。
裏野は、可笑しくて楽しくて仕方がないという風に目を見開き、二タッと笑った。
そして、言った。
「君たちは、ボクのモノ。」
「…!」
一気に体温が下がり、鳥肌が立った。
その時、一緒にテレビを見ていたお母さんがすっとんきょうな声をあげた。
「いい年したオッサンが"ボク"とか…キモッ!」
(そこかーい!)
確かにそのおじさんは、話し方がぶりっ子の少年みたいでヤバそうだったけれども…。
◇◆◇◆
5月2日(金曜日)のサークル活動中、ちぇるしーが言った。
「スマホなどから一斉に声が聞こえた仕組みは、緊急地震速報と同じようなものだろう。」と。
緊急地震速報では、地震が来るのを察知した気象庁が各携帯電話会社に連絡し、エリアメールと呼ばれる仕組みを使って通信機器へと通知するのだという。
それを、あの時間裏野ドリームランドは乗っ取り、悪用したのだ。
また、現実世界でもそこら中に声が響いていたのは、裏野ドリームランドがヘリを使って上空から放送していたからだという。
「それに、停電してたっつーことは、…もしや電波をジャックしたのか…!」
ちぇるしーが面食らったように言った。
「じゃっく…?
何処やらの海賊ですか?」
呑気にそう答えた私に、ちぇるしーはやれやれという顔をして説明してくれた。
「あのなー、…ジャックは英語で"不法に盗む"っちゅー意味だよ。
そんで、電波ジャックは、電波を盗んで乗っ取ること。」
「ほえー。」
私は、話が難しそうだったのでそれ以上突っ込まないことにした。
「ところで先輩。私、バイト始めたいのですが。」
「バイトー?
春灯さんも塾講するか?」
「ムリムリ、それは無理です!
難しそうですもん!」
「じゃ、…そうだなー、…カフェとか?」
「お、いいですねカフェ!」
ポンと手を打った私は、薫さんに一喝された。
「こら、2人とも、サークル活動中はちゃんと集中しなさい!」
「「はーい。」」




