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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
漆黒の廃夢
11/25

君たちは、ボクのモノ。


大学を出ると、そこに広がっていたのは、恐怖に支配された空間だった。


テレビは全ての番組が裏野ドリームランドについてのニュースに切り替わり、「廃遊園地の怪」として日本中をパニックに陥らせていた。


スマホだけでなくテレビやラジオ、無線、ガラケーまでもが、あの時間裏野ドリームランドに支配されていたらしい。



「あれ、…スマホが乗っ取られたの、私達だけじゃなかったんですね。」


ぽつりと口にした私の言葉は、騒ぎ立てる群衆にかき消された。



「あれで終わりじゃない。…きっと、何かが始まったんだ。」


ちぇるしーが、何かを覚悟したように言った。




◇◆◇◆



それからの日々、私は世間で何が起こっているのか分からないまま、混沌とした時間を過ごした。


3分程の犯行であったが、毎日のように新聞で大きく取り上げられ、世間を震撼させた。


その間、真っ先に疑われたのは、裏野ドリームランドが営業していた頃の支配人だった。


しかし、彼の名前は偽名であったことが発覚し、さらに忽然と姿を消していた。


当時から覆面だったことからその顔を知る者もおらず、捜査は難航していた。



そんなある日のことだった。犯人は、思っていたよりもあっさり捕まった。


それは、「廃遊園地の怪」から2週間後のこと。


裏野(うらの) (ただし)と名乗る男が自首したのだ。60代半ばで、薄汚いよれよれの服を着たガリガリのおじさんだ。


裏野は、「自分が犯人です。裏野ドリームランドの元支配人かつ土地管理人です。」と供述したという。


その事件は、早くも解決するかのように思われた。



しかし…その容疑者・裏野は狂気に満ちていた。薬物疑惑といった別の容疑も浮き上がらせた。


逮捕され、連行されていく姿がテレビに映ったのだが…。



裏野は、可笑しくて楽しくて仕方がないという風に目を見開き、二タッと笑った。


そして、言った。



「君たちは、ボクのモノ。」



「…!」


一気に体温が下がり、鳥肌が立った。



その時、一緒にテレビを見ていたお母さんがすっとんきょうな声をあげた。


「いい年したオッサンが"ボク"とか…キモッ!」


(そこかーい!)


確かにそのおじさんは、話し方がぶりっ子の少年みたいでヤバそうだったけれども…。



◇◆◇◆


5月2日(金曜日)のサークル活動中、ちぇるしーが言った。


「スマホなどから一斉に声が聞こえた仕組みは、緊急地震速報と同じようなものだろう。」と。


緊急地震速報では、地震が来るのを察知した気象庁が各携帯電話会社に連絡し、エリアメールと呼ばれる仕組みを使って通信機器へと通知するのだという。


それを、あの時間裏野ドリームランドは乗っ取り、悪用したのだ。


また、現実世界でもそこら中に声が響いていたのは、裏野ドリームランドがヘリを使って上空から放送していたからだという。



「それに、停電してたっつーことは、…もしや電波をジャックしたのか…!」


ちぇるしーが面食らったように言った。


「じゃっく…?


何処やらの海賊ですか?」


呑気にそう答えた私に、ちぇるしーはやれやれという顔をして説明してくれた。


「あのなー、…ジャックは英語で"不法に盗む"っちゅー意味だよ。


そんで、電波ジャックは、電波を盗んで乗っ取ること。」



「ほえー。」


私は、話が難しそうだったのでそれ以上突っ込まないことにした。



「ところで先輩。私、バイト始めたいのですが。」


「バイトー?


春灯さんも塾講するか?」


「ムリムリ、それは無理です!


難しそうですもん!」


「じゃ、…そうだなー、…カフェとか?」


「お、いいですねカフェ!」


ポンと手を打った私は、薫さんに一喝された。



「こら、2人とも、サークル活動中はちゃんと集中しなさい!」


「「はーい。」」

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