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大事な話は相応しい場で

皮肉気に独りごちた言葉に返る言葉はあるはずもなく、元より何も期待などしていない。




引っかかるものはたくさんあった。それは一人二人ではない一振り二振りという刀を数える時に用いる単位であったり、主、顕現、契約といった言葉であり、光忠さんや鶴丸さんの気配である。


感覚の話になるが、戦う術を持たない所謂一般人の気配は自己主張があるのにない。全方向へと放射状に光を放つ電球のようなもので、ここにいると常に示している故なのかその気配は凡庸で周囲に容易く溶け込む。

雑多の中から一人を捜すには印でも付けていなければやってられないものだ。


対して戦う術持つ者は主張の仕方が異なる。

常に光り続けるのではなく、オンとオフを使い分ける。また、明かりの照射方向を己で定めることも出来る。特定の誰かに怒気や殺気を向けるのがこれだろう。

息を潜め隠れる時にはスイッチを切り、光源の燃料であるエネルギーを押し隠す。気配を殺すのがこの状態。


一般人はエネルギー調節をしないので気配が似ている。

対して戦う術持つ者、こちらは気配を自己の管理下に置いている為か個々人で特有の個性とも言えるものを持つ。熱い、冷たいなどの温度や匂い、音などに例えられる特徴的な者もいるくらいだ。


一般人のそれも戦う術持つ者のそれも知る身の私だが、光忠さんに感じたそれは覚えのない奇妙と言ってもいいものだった。何というか……狼人間、的な?

基本構造は人間のそれなのに、獣の気配がどこかにある。そんな感じに似ている。

人間の気配、戦う者特有の個を持つそれ。その奥、まるでそれが核であると告げているような人間の気配に隠された人間ならざる何かの気配。


純然たる人間でないから何だと言うんだ。生きて存在している以上、命に代わりはあるまい。そんな考えで無視した疑問だったが、流石に神様とは思わんよ。

術を扱う者の端くれとして精霊、その存在を束ねる精霊の王様的存在に似ている気がしなくもない、とかは頭の隅っこで思った気はするがな。

いくらなんでも神様とは思わんだろうよ。マジかと言いたくもなるだろそうだろ私は間違っちゃいないだろうと信じてる!


どう考えてもやけっぱちで落ち着いて考え直せと言いたくなる残念思考でまとめ、それでも目の前にいる白黒モノトーン配色な鶴丸さんと光忠さんの二人は神様らしいとその情報を飲み込んだ。


「きみは、審神者なんだよな?」


YES を求めている鶴丸さんの引きつり顔に悪くもないのに御免なさいねと呟いた。無論、心の中で。


「そもそもその“ さにわ ”が何かわかってないです」


ついでの刀剣男子なるものもと付け足せば、がちりと固まって静止した。

それは混乱の最中だった光忠さんも同様らしく、二人揃って石像と化している。

ひょっとすると魂が軽くお散歩しているのかもしれんな。驚きすぎたり、とんでもない予想外を持ってこられたり、信じたくない受け入れられないなんて時にはそんな風になるものだ。仕方ない仕方ない。


苦笑しながら内心でわかるよその状況とうんうん頷いている私だが、二人の様子を見ながら耳は違うものを聞いていたりする。


足音。静かなのは先程の光忠さんと変わらないが、音が少し軽い。となると光忠さんよりも細身の成人かな。

凡その当たりをつけ、危機を知らせるものがないことを認識する。

ついさっきそれで失敗したからちゃんと確認するよ。まあ、それでも動けるように気持ちと体は切り替えるがな。


反応がないままの二人とその背後にある一ヶ所だけ開け放たれている障子へと歩を進める背の高い人影を目で追う。


「光忠、準備が出来た。広間へ……」


目算百七十以上。髪色は灰と土の中間色というか、シャム猫色!猫じゃないけどな。目は無理、見えない。服装はジャージで色は白と紫苑のツートーン。

低い声で男としかこの距離この目じゃわかんねーよ!


「やはり目を覚ましたか」


ふん、とどういう意味に取ればいいのか困る息を吐いたどなたか。

少なくとも光忠さんの名を呼んだことで彼のお仲間、つまりはきっと神様になるのだろうなと思う。

だからちょっぴり腹立つ意味合いに取れそうなものには目を瞑ることにするよ。


「へし(きり)長谷部(はせべ)だ。呼ぶなら長谷部と呼べ」


ツンと澄まして聞こえるお声が命令口調で高圧的ですねステキ。

蟀谷(こめかみ)あたりに引きつりを覚えるが、聞いたことがあるような無いようなと名乗られた名に疑問を覚え、それは表に出ずに済む。


「鈴と名乗らせて頂いておりますのでどうぞ鈴とお呼びください」


取りあえず、名乗ってくれてはいるのだから返しておこうと口調は丁寧に名乗る。

表情は特になく、愛想笑いもしないがな。


慇懃無礼とまでは行かないが、素っ気ないそれに対し思うことはないのかあるのか。表情が窺えないのでさっぱりわからない。とか思っていたら足音は静かだが印象的にズカズカという音をあてたくなる歩を刻んで鶴丸さんとは逆位置になる光忠さんの隣へと正座した。ぴちっと足を揃えて背筋を伸ばした正座だ。

高圧印象を与えた口と態度に差がある着席姿勢にちょっとというか結構面食らう。


そんな口にすれば間違いなく失礼なことを思いつつ、近付いたことで見えた御顔がこれまたイケメンでげんなりしてくる。光忠さんがホスト系だったら彼は生真面目な営業マン系か。スーツ着て書類とにらめっこしてる姿とか似合いそうだ。

目の色は、藤色かな。眼鏡のない視界は一部の変化もなくぼんやりしていてちょっと断定は出来かねる。


「いろいろと気になることはあるが、手厚い手入れを受けた。礼を言う」


ボクがじろじろと容姿を眺めていたらこの発言。そして綺麗に身を折っての礼。

ちょっと瞬いてしまった。


「は、ぁ……どういたしまして。御加減は如何でしょうか?」


虚を衝かれた気分で何とも気の抜けた調子で返したら、ぴしっと元の姿勢に戻ったえー、長谷部さんがこれまたぴしゃっとお答えです。


「問題ない。むしろそれはこちらが問うべきじゃないのか?顔色は……少しましになっているな」


わかった。この人、口は悪いが律儀な人だ。たぶん余程気に食わない問いをしない限りはちゃんと答えを返してくれると思う。

ふむと何かに納得するようにした長谷部さんは真っ直ぐに私の目を見て告げる。


「話が出来るなら俺たちに付き合え。お前も聞きたいことがあるだろう。俺たちで答えられる範囲なら教えてやらんでもない」


くち……。なんつーかこう、ツンがつくタイプに思える残念な知識がだいぶ邪魔。


「おい光忠、鶴丸、何を呆けている。他の奴らは広間に集まった。後はお前たちだけだ。さっさと行くぞ」


うん、相手によって態度差すごいのかな?横向いて話す相手が変わった途端に顔顰めたよこの御人。でもって言うが早いかさっさと立ち上がって歩き出そうとした。


「……何だその手は」


のだが、そうはいかぬと言うことなのかそうではないのか。踵を浮かせた彼の足を光忠さんが掴んで止めていた。

声のトーンが一つ下がり、明らかに不満だと下を見る長谷部さんの、顔。

しかし、光忠さんの目は長谷部さんを見ず私に固定されている。表情は強張っていて変な汗とかかき出しそうだ。大丈夫か?


「ま、待って、長谷部くん。ちょっと問題が」


「はぁ?何を言っている」


訳がわからない制止をかけられれば多少なりイラッとするかもだが、沸点低くないですか?いますごい音が低くなりましたよね。


「ちょっとじゃない。ちょっとじゃないぞこれは……」


うわ言みたいな鶴丸さんの声も聞こえて長谷部さんは首を傾いだ。

ああ、うん。一人なら世迷言でも二人からは疑わしくなるってものだよね何事も。


「何か言いたいことがあるならさっさと言え。ないなら離せ。そして広間だ。そいつも連れて来い」


実に端的でわかりやすく手短ね。親指でそいつと私を示さなきゃより良し。


「待って、本当に。何て言っていいのかわからないけどちょっと待って欲しいっ」


必死。全然顔を自分へ向けずに私を見たままで語気を強くした光忠さんの様子は流石におかしいのだろう。訝しげに表情を変える長谷部さん。


「広間へ行けば私の聞きたいことにお答えくださるのですよね、長谷部さん」


そんなやり取りを見ながら膠着して進まなくなりそうな空気を感じ口を開けば、二対と一つの視線を受けた。琥珀と黄金がぎょっとなり、藤は何でもなく見下ろす。


「ああ。当然こちらからも聞かせてもらうがな」


問いに解があるなら十分だ。そう思い口の端を持ち上げる。


「わかりました。参りましょう」


「鈴ちゃんっ!!」

「鈴っ!!」


立ち上がる動作を見せる私に二人が名を叫んだ。呼ぶじゃない、叫ぶだ。

止めようとする意味を含んだそれを共に聞いた長谷部さんが瞬く様子に珍しいことなのかなと思う。思って終わるがな。


「失礼ながら申し上げますよ御二方」


よっと口にはせず、勢いをつけて立ち上がると視界が揺れて霞んだ。

軽い立ちくらみに顔を顰めるが、倒れる程ではない。少しふらついたが足を開いて支えれば立っていられる。長時間は正直勘弁願うが。

やや詰まった耳と霞みから戻ろうとしている視界に息を吐く。そうして途中だった言葉を座したままの二人へと向けて続けた。


「質疑応答は一度で済ませたいです。長くなるようですと現状体力に不安ありですので命が天秤に乗る規模の問題でないならば、ここでの話は一旦終了にして頂けますか?」


途中で眠気に負けるとか無礼なんてもんじゃない。自己都合で我が儘。

長谷部さんの話に乗った形なのだが、どうかと二人を窺う。


「無理はしないで鈴ちゃんっ平気?辛いなら僕が運ぶよ?」


のに、さっさと起立した光忠さんが心配ですとでかでか御顔に書いて目の前にいらっしゃり肩が跳ねた。

さっきまでの悲愴な固まり具合は何処へやったのだ光忠さん。


「大、丈夫です。自分で歩きます歩けます」


私と光忠さんでは身長差が三十センチメートル近いから、顔を覗き込まれるとこれがまた近いのなんのと後退る。私は初対面より少々な男女に適切な距離が欲しい。

かなり切実なのだが顔中に心配の二文字、加えて平気、大丈夫の疑問を携えて近距離に迫って引かない退く気がないご様子にしか見えない光忠さんには伝わりそうもない。


「本当に?さっきより顔色悪いよ」


貴方の所為ですとは口が裂けても言ってはならない空気ですよね。知ってる。

でも覗き込むだけでは足りないのか黒い手袋に包まれた大きな手が伸びて来て本気で焦る。回避っ回避ですよーーっ!と警鐘が響き渡る脳内の警告に従って、身を反らして手をやり過ごそうとした。


「だいっひゃう?!」


パンッと音がして大丈夫と言おうとしたのが情けない悲鳴みたいなものに変換された。自分の口から飛び出た何とも女の子らしい高い声に突っ込みを入れることも出来ず、何故か目の前にある長谷部さんの端整な御顔をぽかんと眺める。

平々凡々面白味のない我が顔を覗き込んできていた目と鼻の距離の光忠さんが消え、同じ距離感に別人の長谷部さん。なんのマジックだ意味がわからない。


「時間の無駄だ。さっさと運べ」


動いていないのに動く視界。再び光忠さんが目の前に現れたが全然意味がわからない。それも光忠さんに下から覗かれるのではなく、同じ高さ。横向きの光忠さんの御顔ではなく、横顔の光忠さん。

うん、ついさっき似たような光景を目にした気がするような気がしなくもない。

理解したいのかそれとも理解したくないのか。疑問が乱舞して脳内が疑問符一色に染まっているところに低い声が響いた。


「長谷部くん、危ないことしないでくれるかい?何かあったらどうするの」


苛立ちに細められた琥珀色が鋭く光って見えた。不穏さを感じさせる色に脳内で喚き立ててパニック起こしていた小さな自分が、隅っこの方へ身を寄せてきゅっと小さく縮まっているのが想像された。つまるところビビって固まった。

朱色のラインが入って綺麗な琥珀色の目がギッと睨んでいる先にいるのはただいまの発言から間違いなく長谷部さん。目もだけど……顔、怖いですよ光忠さん。


「はっ、そんな下手を打つか。何だっていい、さっさと行くぞ――――と、これはお前のだろう。ほら」


己が状態がどうなっているのかよりも余程気になる目の前の光忠さんに戦々恐々していれば、聞こえてきた鼻で笑う音。聞こえなきゃよかったと遠い目になりかけていたところ、ひょいっと視界に入って来たもの二つあり。

水色の蜻蛉玉から下がり揺れる金の鈴。ちりんと可愛らしい音を鳴らしたそれは私の髪を括り上げていた簪。そして、求めていた眼鏡だった。


「あっりがとうございます!」


自宅内ならそう困ることはないが、野外に出るとなると支障しかない故に渇望した我が相棒の姿。頬も緩むし礼に力が入るというものだ。

両の手でしっかりと受け取り、差し出してくれた手の主を追って視線を動かせば、長谷部さん。

勢いのある礼の所為か藤色の目をぱちくりとされていたが、ふと頬を緩められた。

あ、笑うと急に雰囲気がやわらぐのだなと眺める私に何を言うでもなく視界の外へと歩き出されてしまう。


「急げ、あまり待たせるな」


そして足音が離れていく。何だあのさり気なくいい人。


「…………笑う長谷部とか初めて見たんだが、俺が知らないだけなのか?」


得体の知れないものを見た、なんて感じの絶妙に失礼な顔した鶴丸さんが入れ替わりのように視界に現れた。

その表情と発言内容は気にかかるものがあったが、取りあえず眼鏡をかけようそうしよう。ふぁさふぁさ顔にかかる髪は鬱陶しいが簪はまた後で。


「僕も初めて見たよ。他の本丸では割とよく見られるらしいけど、うちは主がああだったから」


「成程。何やらよくわからないが広間に皆集まってるのか?」


語尾を濁して苦笑った光忠さんに鶴丸さんも薄く苦笑い、すぐに話を切り替えた。

それに一つ瞬いた光忠さんだったがすぐに理由に行き当たったのか「あ」と聞こえそうな反応を返していた。


「そっか、鶴さんにはまだ伝えてなかったから。うーん……取りあえず、行こうか」


「それがいい。長谷部の機嫌がいい内に広間へたどり着くべきだ」


何というか、長谷部さんへの印象。どう聞いても良い意味には取れそうもないそれにどうしていいのか……。いや、そんなことよりも、だ。


「ねえ鶴さん。鈴ちゃんの話、僕一人じゃ処理できそうにないからさ、皆の意見が聞きたいんだけどどう思う?」


「いいと思うぜ、むしろ聞くべきだろう。俺たち二人の手に余る。せめて歌仙の意見は聞きたいな」


うん。悲愴感が消えたわけではないのもちょっとどうでもいいと思うんだよね、今。

軽い足取り、けれどコンパスの差でボクが歩くよりも流れる景色の速度が速い光忠さんと鶴丸さん。顔の高さが近い位置で眼鏡をかけてと視界良好、そのお陰で表情変化が残念裸眼時よりずっとずっとわかりやすい。横顔だがな。

そして自分で歩いていないのに二人と同じ速度で景色が流れ、その速度に合わせてト、ト、と体が揺れるんだ。


……どうして私は光忠さんにプリンセスホールドくらって優雅に偉そうに運ばれてんの?意味がわかりません、でもってわかりたくありましぇん。

揺れないようにご配慮なのかしっかりと逞しい腕と厚い胸板に抱き支えられているとか考えてはいけない。出てきちゃならないものが噴き出る。


「にしても……」


なのに、鶴丸さんが少し不思議そうに覗き込んできて何か言いそうでやめて欲しい。


「自分で歩くと抵抗を見せた割におとなしく光坊に運ばれてるんだな」


いやもう本当に余計な発言してくれやがったよこの真白の神様は。

意識して遠い目、現実から気持ちを乖離させようとしているのに鶴丸さんの言葉は続いた。


「まあなあ……あの程度じゃ休息には足りないよなあ。霊力もあまり回復して無い様だし。抵抗する程の体力がないってわけじゃないよな?」


そんな大丈夫か?って聞いてくださるのを無視は出来んじゃないか。

遠くへ飛ばしてしまいたかった意識を手元に引き寄せ回収して、けれど出来得る限り感覚を遮断する。意識して理解するなと言い聞かせる。


「立ちくらみを起こす状態とわかって暴れるのは駄目でしょう。軽くなど無い身を運ばせてるだけで大迷惑なのに暴れて更なる迷惑とかなしです」


「え、鈴ちゃん軽いよ。もっと重くてもいいと思う」


本当は抵抗したいの体力的に出来なくはないのと言外に示しているところにまさかの発言。「はあ!?」と顔を驚き歪ませ光忠さんを見るが、きょとん顔は嘘でも世辞でも嫌みでもない本気の言葉を告げたと物語っていてそれもどうなの。

そんな私の表情に光忠さんは気が付いて苦笑する。


「女の子に太れ、はないか。御免ね」


うん、正しい発言だと思う。普通は火にガソリン級の危うい奴だからね、その話。

でもボクは普通とは違って捻くれて曲がってるからさ。


「一般的な女の子にはなしですが、私は別に。むしろ一時期よく言われたので出て来るのは苦い思い出といいますか」


言いながらあははと乾いて苦い顔をするボクに鶴丸さんがにやりと笑う。

その顔、悪戯っ子な誰かを思い出させるなあ。


「何だ何だ?骨と皮にでもなりそうだったのか?駄目だぜ鈴、女子は俺たち男と違って柔らかいのがいいんだ。ふくよかな女子が良いってもてはやされた時代もあったんだぜ」


セクハラに掠りそうな鶴丸さんの言葉で脳裏を駆け抜けた存在――――土偶。

何かが盛大に間違えていると突っ込む存在は皆無である。


「太れるほど豊かってことですものね。下膨れ顔こそ美人の証、なんて時代もありましたし。何よりふくよかイコール安産型。昔の女の人に求められたのは健康な子供で御世継ですからね。さもありなん」


時代が違えばニーズは違う。出産に伴う死の危険は現在も変わりないが、確か昔は医療が(まじな)いと混同されてることもあって本気で命かかってたからな。

ま、平民は運動量、姫は鎧も腰抜かす重量の衣が常で必然マッチョ。お産が楽になるらしい下半身の筋肉量は現代と比べれば雲泥の差だ。

そう考えると危険性は案外トントンなのかもね。基盤が立派なら医療はお呼びでないって感じだったりするのかもしれん。


なんてことを考えながら応じた私に鶴丸さんはにかっと笑う。

微笑めば見た目にそぐわぬ儚さが全力プッシュされるだろうが、健康的な笑顔を浮かべられるものである。

儚く見えるのは初対面だけなのかと印象訂正が必要かもしれんな。


「そうそう。元気なややを産む為に女子は体を大事にしなきゃならん」


ややと聞いてすぐに子供、赤ちゃんに変換できる私の知識に感謝する。

否定的な人も多いが漫画も小説もゲームも偉大なんだぜ。


「まあ、肉付きのいい女子は柔くて抱き心地がいいらしいからな。俺たちみたいに力が強い男からすれば細くて折れそうなのより安心できる。何より、個人的に柔らかい女子に触れたい!」


真面目な顔してぐっと胸の前で力強く拳を握った鶴丸さんに噴いた。

仮にも女、一応女、こんなでも女の私を前にしてこうも堂々と柔らかい女の子、イイよね!だなんて声高に宣言されてしまえば笑うしかないだろう。


「鶴さん、そういうこと女の子に言わないで。最低だよ」


突っ込みを入れるべき一応女が仕事放棄したら残る一人が渋い顔して冷静な突っ込みを入れてくださった。申し訳ない光忠さん。


「何がいけないんだ?素直で正直な意見じゃないか」


「正直すぎるってこと。鈴ちゃんは笑ってくれてるけど普通はぶたれるよ」


はあと溜息混じりに諭す光忠さんが正解なのに納得いかない顔して首を傾ぐ鶴丸さんがおかしくて笑える。


「個人の好みを口にしただけでぶたれるのは御免だな。この話は鈴の前だけにするとしよう」


「鶴さん」


窘め失敗にあーもーどうしようって感じの光忠さんが加わって笑いしか出てこない。うけるわコントか。


「まあいいじゃないか。ご機嫌麗しい方がきみも嬉しいだろう?」


「それは、そうだけど……。笑ってくれてる内容が微妙だよ。ちょっと心配になってくる」


肩を落とす光忠さんと口角を上げ笑む鶴丸さん。何だかよくわからないが気遣われてしまったようである。女に振る話題としては確かにちょっとどうかと思いもするが、そのお陰で笑えているのでその心遣いに感謝する。やや申し訳ないが。


「それはまた別の機会にだな。さ、目的地に突撃と行こうじゃないか」


足を止め人の気配が複数する部屋の前、そこへ至る障子に鶴丸さんが手をかけた。

いつの間にか目的地――ではなくちょっと待ったっ私の格好はお姫様抱っこ!


「待たせたな諸君っ主役の登場だ!」


無慈悲にもスパァーンと素晴らしい立てつけの良さで開かれた障子。

室内から向けられた無数の視線が突き刺さって逃げたいと思った私は正常だ。

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