第4話:22歳、学園ライフ始めます
今日は朝から気分が重い。
平日。バイトは夜からなのでいつもなら昼まで惰眠を貪るのだが、今日はけたたましいスマホの通知音に起こされた。朝の6時のことだ。
まだ開ききっていない目でスマホを覗いてみると、やはりというかなんというか響からのメールであった。一体いつメールアドレスなんか交換したのだろう。俺には全く記憶にないが、おそらく神崎と話しているときに勝手に俺のスマホをいじったのであろう。これからはパスワード認証をかけることにする。
メールの文面によると、今日は幽体ではなく生身で高校に来てほしいとのことだった。そして制服を着て来るように、制服は家の前に置いておくからとも書いてあった。スマホをいじった時に住所まで見たのであろうか。プライバシーの侵害どころの騒ぎじゃないぞ。
段六府高校は母校なので自分の制服は持ってはいたが、数年前にデザインを一新したらしい。響に初めてあった時に母校の生徒だと気付かず、中学生だと勘違いしたのもそれが理由だった。
頭が痛い。二度寝する気にもなれず歯を磨きながらドアを開ける。ドアの前には几帳面に畳まれた制服が置いてあった。
「マジで置いてあるし・・・」
あの性格でもこんなに綺麗に畳めるものなんだなと感心しつつ制服を手に取る。
22歳フリーター・・・。いや、バイト辞めたからニートか・・・。
この年のニートが制服を着ることの気恥ずかしさを考えてみてもらいたい。しかもその姿で人前に出るなど考えられない。
しかしそんなことは言っていられないのも事実。母親の死因を知るためにもこれから一年間「高校生・探偵事務所ナンバー004、琵琶勇斗」として生きていかなければならない。
琵琶勇斗、男になれ!全国のショタ達よ、俺に力を!
俺は羞恥心の全てを振り捨てて制服に着替え始めた。
とはいってもだ。
制服で高校の前までは来れたものの、知らない高校生たちの群れに22歳が突入する。こんなことができるのはメンタルがダイヤモンドでできた人ぐらいなんじゃないだろうか。生憎俺のメンタルはプリン並だ。校門の前から足が進まない。ああもう誰が俺を殺してくれ。
高校の前でやきもきしていると遠くから声が聞こえた。
「あー!琵琶っちー!何してるの、こっちこっちー!!」
響・・・。今だけはお前に感謝しよう。
響の後ろをチョコチョコ付いていき、なんとか応接室、もとい探偵事務所まで来ることができた。はたから見れば怪しいストーカーのようにも見えたかもしれないが気にしないことにした。
「琵琶っち似合ってるぅ!普通に高校生に見えるよー!」
「あぁ、ありがとな。これでもまだ20代始めたばっかだからな」
なんてたわいも無い会話をしているとチャイムが響いた。
「懐かしいなチャイムなんて。昼休み終了の合図か?」
「そうそう!今日5限までだからそれまで待っててくれる?あ!幽体になって校内探索しててもいいよ!!」
そう言って響は教室に戻っていった。校内探索といってもまず母校だし、見て回っても退屈なことに変わりはない。
しかし、響の学校生活には少し興味があった。自分が高校生のときにはああいうタイプの生徒はいなかったからな。少し見てみるのも悪くは無い。
そうと決まったら即行動だ。俺はすぐに幽体離脱し、響の教室に向かった。
響が自分のクラスだと言っていた2-Bの教室に到着。古典の授業中のようだ。
「げっ・・・」
黒板の前に立つ教師はよりにもよって神崎だった。神崎は廊下側の小窓から覗いている俺に気が付くと、生徒達に気づかれないように手を振ってみせた。
俺はそれを無視する。まだあの女のことは完全に信じちゃいない。馴れ馴れしくするんじゃない。
響はというと机に突っ伏して眠っていた。本当に期待を裏切らないなこいつは。
チャイムの音が響く。5限終了の合図だ。俺はというと、思わず古典の授業を真面目に聞いてしまっていた。あの教師、認めるわけではないが教えるのがうまいな・・・。
響は友達と談笑しながら帰る準備やら何やらをしていた。俺には気づいていないようだ。あの性格だから友達なんかいないんじゃないかと少し心配したが杞憂だったようだな。ちょっとばかし安心している自分がいた。
そろそろ探偵事務所に戻り、響を待つことにした。
「琵琶っちーー!!なんで見に来てくれなかったのさーー!!」
探偵事務所に入ってきた響は開口一番、俺に対してそんな文句をぶつけてきた。第一見に行ったし、俺はお前の親じゃないし今日は参観日でもないからな?
「この人・・・見に来てたよ・・・」
今にも消え入りそうな声が響の後ろから聞こえた。
「あっ、この娘がナンバー002の雪里スミレ!!ほら、挨拶して!」
「あっ・・・、はじ、始めまして琵琶っちさん・・・私雪里スミレで、えーと・・・響ちゃんとは同じクラスです・・・」
現れた少女は赤のリボンでポニーテールにしている、見た目は見るからにスポーツマン。しかし声と喋り方から察するに性格は見た目のイメージとは一致しないようだった。
「スミレはねー、性格がこんな感じだから見た目はビシッ!って感じにしてるの!」
響に無理やりさせられたんじゃないだろうな・・・。この探偵事務所のメンバーになったのも響が強制的に入れたからなんじゃないだろうか。
そして聞くところによるとスミレも幽体の俺が見えたらしい。こんなにも霊感の強いやつが身近にいるなんて・・・。俺が過去に幽体でやったあんなことやこんなことも誰かに見られていたと思うと寒気がする。警察沙汰になるような事はやってないけどね。
「さて!今日から本格的に活動していくからね!!」
「ちょっと待った。あと一人のメンバーはどうしたんだよ?」
「うーん、今日は来ないと思うよー?あの人は基本自由だからねー」
ヘラヘラしながら話す響を見てるとこの探偵事務所の存続危機なんかを早くも考えてしまう。こんなんで大丈夫なのか・・・?
こうして俺の22歳ニート学園ライフは幕を開けたのであった。




