第3話:神崎まりこという女
ヤバイヤバイヤバイ。
これはダメなやつだ、ダメなパターンだ。
見知らぬ少女に連れられやって来た学校で、なにかヘンテコなグループに入れられようとしている。なんだこのテンプレ的な展開は。応接室を占拠しているのもベタすぎる。
これはアレだ、悪いことしかないやつだ。
「やっぱり俺帰らせてもら・・・」
「だめだめ!!もうナンバー004として登録してるから!」
登録ってどこにだよ、と思ったが口には出さなかった。どうせ適当言ってるだけだろう。よりによって004とは・・・不吉な数字だ。今の状況に当てはまってるな。
「まぁとりあえずこの“オカルト探偵事務所”とやらについて説明してもらおうか」
「えー?説明っていっても文字の通りだよ?」
「全く分からんぞ」
「だから説明下手って言ったでしょ!」
この怪しげなグループ名から察するに、オカルト関係の相談事を探偵の真似事をしながら解決する部活だぜー・・・って感じなのだろう。うん、確かに文字の通りだったな。
「さっすが琵琶っち!察しいいね!」
「それでオカルト事件解決のために使えそうな人材を探してて、幽体離脱ができる俺が見つかってしまった、と。」
「琵琶っちさすが!さすがの一言!!」
・・・なんか響と話してると頭が痛くなるな。
「ていうか俺がナンバー004だったか?こんな変な部活に他にメンバーがいるのかよ」
「もちろんいるよ!って部活じゃなくて探偵事務所!!!」
どうやら響いわく、このお遊びは部活ではないらしい。部活じゃないのに応接室占拠ってそれこそ大問題な気もするが。
この探偵事務所にはあと二人のメンバーがいるらしい。今日来るかどうかは不明らしいがとりあえず待つことに。本当は帰りたくて堪らないのだが、とにかく響が引き止めてくるので仕方なくだ。俺はなんてお人好しなのだろう。
そのとき、部屋にドアの音が響いた。
「あら、新入りさん?」
入ってきたのは眼鏡をかけた女性だった。髪型はショートカット。いかにも大人な雰囲気を醸し出し、どう見ても高校生には見えなかった。
「この人が他のメンバー?」
「ううん、顧問の先生だよ!神崎まりこ先生!」
いや、顧問の先生って・・・部活じゃないんじゃなかったのか。
「まりこ先生!新入りの琵琶っちだよ!22歳フリーター!!」
フルネームは紹介しないのにいらない情報を教えるなバカ。というかやばくないか。教師にバレちまったぞおい・・・・・・
ってちょっと待て。何かおかしくないか・・・?
なんで俺のことが見えてるんだ・・・?
「そう、アナタが琵琶勇斗くんね・・・」
「先生琵琶っちのこと知ってるの??あっ、もしかして昔の生徒とか?」
「いや、そうじゃないんだけどね。ちょっと琵琶くんと二人でお話してきてもいいかしら」
チラリとこっちを見る神崎という女性。理由は分からなかったが俺はその目に恐怖を感じた。
なにかヤバイ雰囲気を感じとりながらも二人きりで話すことになってしまった。
「琵琶くん・・・オカルト探偵事務所に入ってくれるのかしら?」
「い、いや・・・」
言葉に詰まる。
「まぁいいわ、どうせ私の話を聞いたら入らないわけにはいかないものね」
「え・・・?」
神崎の雰囲気が明らかに変わる。もう逃げられない、そう思わせる威圧感があった。
「単刀直入に言うわ。━━琵琶美代の死因について私は知っている」
頭を弾丸で打ち抜かれたかのような一瞬の衝撃。心臓の鼓動がどうしようもなく速まる。何も考えられなくなる。
“琵琶美代”━━。忘れようとしていたこの名前が俺の心を容赦なく抉る。俺の母親の名前だ。
母親は数年前に他界していた。家で倒れていたのだが、死因は不明だった。
唯一信頼できる人を無くした俺は自暴自棄になり、大学も辞めた。生きる意味を失い、自ら命を断つことまで考えていた。しかし自分にそんな勇気は無く、どうしようもなく無意味に生きていくしかなかった。
そんな生活に耐えられるわけがない。俺は母親のことを一切忘れることにした。そうやって今までなんとか生きてきたのに、ここで思い出すことになるとは。
何故この女は俺の母親を知っている・・・?しかも死因を知っているだと・・・?
「死因を・・・知っている・・・?な、何の冗談・・・」
「冗談なんかじゃないわ、知っているの」
ピシャリと言い切る神崎。どうやら嘘や冗談を言っているようではなかった。
「この探偵事務所に1年間いてくれたらその死因について話してあげる」
なぜ神崎がこんなにも俺とこの探偵事務所にこだわるのかは全く分からなかったが、その条件は単純明快なものであった。
この条件、のむべきだろうか。ようやく忘れることができた母親についてこれ以上踏み込んでしまって、俺は耐えられるのだろうか。
色々な思いが駆け巡ったが一つの答えを俺は口にした。
「のみます、その条件」
俺がそう言うと神崎は口元を歪め、「かしこい子・・・」と呟いた。
「あ!戻ってきた!もー、遅いよ二人ともー!」
「フフ、ごめんなさいね。でも琵琶くんの勧誘に成功したわよ。一年契約でね。」
「え!まりこ先生すごーい!!でも一年だけかぁ・・・もっといてほしいんだけどなぁー」
神崎は先ほどの雰囲気とは一変して、優しい口調で響と話している。ますます分からない人物だがそれを考えるのはまだ先にする。母親のことを聞いてからこの人の謎も解くことにしよう。
「あ、まりこ先生も琵琶っちのことが見えるんだねー。霊感強いんだ!私と一緒だね!」
「フフフ、そうね。」
この響の単純すぎる考え方はどうにかならないものか。いつか悪い男に狙われてつけ込まれるぞ。
「琵琶っちどうしたの?いきなり静かになったけど・・・」
「えっ、あぁ。いや、何でもないよ」
この条件のことはもちろん響には話さないでおこう。これから一年間を共にすることになったやつだ。いらぬ心配をされても話がややこしくなるだけだからな。
とりあえずこの日はこれでお開きということになった。残りのメンバーとはまた後日会うことになったがこれまた嫌な予感がする。まともな人だったらいいなとも考えたが、まともな人間はこんな怪しい団体には入らないだろう。
探偵事務所を出る直前に、神崎にある言葉を言われた。
『この子・・・響と仲良くしてあげてね』
俺は何故かこの言葉が頭から離れなかった。妙に感情がこもった声で話す神崎が忘れられないでいた。
ここからは余談になるが、俺は自分がバイトの休憩時間中であることをすっかり忘れていた。大急ぎでバイト先に戻ると俺の生身の体はそこには無く、他のバイト達が「琵琶くん救急車で運ばれたのマジウケたよねw」と話しているのを聞き絶望。俺は響を許さないことを心に誓いました。
その後俺はそのバイトを辞めたのでした。おわり。




