第2話:その少女、白河響
さて、状況を整理しようか。
ひとりの女の子が俺に気づいてかけよってきた。見たところ背は140cmくらい・・・中学生だろうか。少し茶色がかった綺麗な髪。この髪型は“ボブ”というやつか?幼さがかなり残っているが整った顔立ちをしている。
そして今はニヤニヤしながら俺の体ををジロジロと見回している。
対する俺は幽体だ。普通の人間は見ることが出来ないはずだが・・・
「ねぇキミ!」
「は、はひッ・・・!?」
なんと情けない返事だろう。女の子に話しかけられるのも久しぶりだし仕方ないよね。
「キミ幽霊さんじゃあないよね・・・?もしかして幽体離脱!?」
目をキラキラさせながら聞いてくる女の子。顔が近い。頭に話が入ってこないがなんとか言葉をひねり出す。
「あ、あぁ。俺は幽体離脱ができるんだけ、ど・・・ってなんで見えてるわけ・・・?」
「フフフ、よくぞ聞いてくれました!私昔から霊感が強くて幽霊さんが見えるんです!」
「霊感・・・」
いやいや、霊感が強いからって幽霊と会話できるものなのか?会話できるのは俺が幽霊ではないからか?
疑問に次ぐ疑問が頭の中でグルグルしている。とりあえずこの状況を1度受け入れよう。冷静なのが俺の取り柄だったのを忘れたのか、自分。
「ねぇ、自己紹介しようよ!私の名前は白河響!下の名前で呼んでくれていいよ?」
やけに馴れ馴れしいな。最近の中学生はみんなこうなのか?
冷静さを取り戻した俺は簡単な自己紹介と幽体離脱ができるようになった経緯を響に話した。
「すごいすごい!琵琶っちすごいよ!まさに私が探していた逸材だ!」
琵琶っちか。下の名前では呼んでくれないのね。
「・・・で?探してた逸材ってどういう意味だ?」
「それはね、うーんと、私説明下手だから実際に来てもらった方が早いかな!今から私の学校来れる?来れるよね!?」
「無理だな」
「えっ!?」
当然だ。たとえ少女といえども、見ず知らずの人間に付いていくほど馬鹿じゃない。これがショタならついていったかもしれんが。第一今はバイトの休憩中だ。こんなところで時間を使っている暇もない。
「わかった!1回だけ頭なでさせてあげるから!それで来てくれるよね??」
分かった、こいつアホの子だ。
「悪いが“ロリ”の方は興味ないんで」
「ロリ!?私高校二年なんですけど!!」
プクーっと頬を膨らませて怒る響。これは驚いた、高校生だったとは。もっといっぱい食べないと背も胸も成長できないよお嬢さん。
「ホントにお願い!一度だけでいいから!なでていいから!!」
なでていいからの意味は分からないが、どうやら本気で俺に来てほしいらしい。
このまま放っておくと土下座でもしかねない勢いだ。そうなったら困る。普通の人間から見たら少女がひとりで壁に向かって土下座している画になる・・・ってかひとりで壁にしゃべってることになるこの状況もまずいのでは?
ていうか、もうすでに人が集まってきている。この状況を見るのはさすがの俺もいたたまれない。
「わ、わかったから!とりあえず場所を移動しよう、な?」
「学校!?」
「わかった!学校でいいからとりあえず移動!」
響にその気があったのかは分からないが、まんまとはめられた気がするのは俺だけか。
なんだか嫌な予感しかしなかった。
しばらく歩くと響の通う高校に着いた。
そして嫌な予感は的中した。
「おいここ・・・」
「ん?私の高校だよ!段六府高校!」
「俺の母校じゃねえか!!」
そう、何を隠そうこの段六府高校、俺が三年間通った学校なのだ。いい思い出も悪い思い出も特にないのだが。
「え!!琵琶っちここ出身なの!?運命じゃん私達!!!」
そのセリフをショタが言ってくれればどれだけ嬉しいだろうか。
「知ってる人に見つかるのが嫌なの?それなら大丈夫じゃん!琵琶っち今幽体だし」
まぁそうなのだがなんか腑に落ちないな。まず22歳フリーターが高校に無断で侵入してよいものだろうか。いや駄目だろ。
ここでやいやい言っても無駄なのは目に見えているのでおとなしく高校に入ることにした。
またも嫌な予感がした。
懐かしさはあまりないがなんとなく記憶に残る廊下を歩く。
「おい、どこに向かってるんだ?」
「もうすぐもうすぐ♪」
周りには生徒がちらほらいるにも関わらず声のトーンを変えずにしゃべる響。こいつには羞恥心というものが無いのか、もしくはただのアホなのか・・・
しばらく歩くと響が足を止めた。
「ここだよ!」
「ここって・・・前まで応接室じゃなかったか?」
よく見てみるとドアの横には文字がデカデカと書かれた看板が掲げられていた。思わずその文字を口にする。
「オカルト探偵事務所・・・?」
響がガラッとドアを開ける。
「ようこそオカルト探偵事務所へ!探偵ナンバー004、琵琶勇斗さん!!!」
「え・・・?」
案の定、悪い予感は的中するのだった。