第1話:幽体の琵琶勇斗
「幽体離脱」━━。
文字通り“幽体”となり、生身の体から離れることだ。もちろん普通の人間が意識的に出来ることではない。
しかし俺こと、22歳フリーター、琵琶勇斗は自由自在に幽体離脱をすることが可能なのだ。
7歳のときに未知の病気か何かで生死の淵をさまよって以来できるようになったことだ。その時のことはよく覚えてはいないが。
今日もこうして幽体の姿で街を散歩・・・もとい浮遊しているわけだ。この幽体の姿は普通の人間には見ることが出来ないようで、誰にも気づかれたことはなかった。
ん?幽体離脱を使って何かやましいことでもしてるんじゃないかって?特にエロいこと?
したいよ、もちろんしたい。
しかしこの姿も完全無欠とかではなくちゃんと欠点もある。
まず、漫画やアニメみたく壁をすり抜けることはできない。だからドアを開けないと建物の中には入れないし、常に気をつけておかないと人や物にぶつかってそれこそ心霊現象として扱われる。まぁ実際に心霊現象なのかこの場合・・・?
そして“エロいこと”というと女風呂を覗くやら、好きな女の子の家を無断侵入するやらを考える下衆が多いと思うが、俺はそんなことは一切考えない。何故なら女に興味が無いから。
あー、出たよ、女興味ない系ラノベ主人公風男子と思っているそこの君。それは違うぞ。俺にはちゃんとした恋愛対象がいたりする。いや違うな、性の対象と言うべきかな。
10~15歳の美少年━━。つまりはショタだ。
俺のショタに対する情熱を語り出すと時計の針が何周してしまうか分からないのでここでは割愛させていただく。
話がそれたが、今日もバイトの休憩時間を使ってフワフワと空中散歩をしているわけである。
「少し遠くまで来すぎたかな・・・」
幽体が自由に動ける生身からの距離、ちゃんと測ったことはないがほぼ無限に近いと言っていいだろう。
そろそろ戻らないと店長に何か言われるかもしれない。生身の方はバイト先の休憩室で突っ伏してる状態なのだ。
そんなことを考えているとあることに気がついた。
「ん・・・?あの女の子・・・」
1人の女の子がこちらをじっと見つめている。俺が見えている・・・?いや、ありえない。俺の勘違いだろう。そう、勘違い勘違い。
そう自分の中で結論を出したのもつかの間、女の子はこっちに向かってかけよってきた。遠目では分からなかったが、学校の制服のようなものを着ている。・・・中学生か?
突然すぎる出来事に俺が何もできないでいると、そんな俺に対して女の子が一言。
「キミ、なかなかの逸材だね・・・!」
これがこの女の子、白河響との出会い。そして長い長い奇妙な生活の始まりであった。