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涙! ドッジボール色。

辞表

 私、グリスは当学園の特別学級『エデン』を辞職させて頂きたく候


「……またしてもなんですかこれは?」


 ジャ―ノン学園長はメガネをつけてそれを凝視した。


「読んでわかりませんか? 辞表です」[


「まだ1時間目が終わったばかりじゃないですか! そんな根性無し聞いたことありませんよ」


 ジャ―ノン学園長が大きくため息をついた。


「あの、お恥ずかしながら生徒を……撲殺しそうになりまして」


 奇跡的に息を吹き返したが、アシュトン曰く『大きな川と船』が見えたらしい。

 それって……死者が渡ると言われるあの有名な奴じゃ……と言いかけたが、訴えられたら敵わんので「すまん、あんなに虚弱体質だとは思わなかった」と言い捨てて逃げてきた。

 あれだけ、屈辱的な言動を吐いておけば見るからにプライドの塊のようなアシュトンは訴えるなんて行動を選択しないだろう。


「事故でしょ? それに結果的に死んでないんだから」


 それでいいのか!? 教育者としてそれでいいのだろうか。


「いやでも今後もこんな事態になったら申し訳ないですし」


「大丈夫です。こんなこともあろうかと腕利きの医療魔術師を雇ってるんです。若いが拾い物です。なんでも『ノーザルの奇跡の診療所』で働いていたと聞きましたが」


「……あそこはもの凄い腕利きばかりですが人格破綻者が多いんですが」


「じゃあ、頼みましたよー!」


 そう言い残して、ジャ―ノン学園長は逃げて行った。

 ……まあ、医療魔術師の事は深く気にしないことにしよう。生徒を痛めつけなければいいんだから、うん。


                 *

 2時間目。体育。運動場。


「よーし、みんな集まったなぁ。今日はドッジボールで盛り上がろうぜ」


 葬式のような雰囲気を払拭しようと、極力明るく盛り上げようとするが明らかに全員怯えていた。


「グ、グリス先生は……参加されるんですか?」


 恐る恐るハーフエルフのレイが質問してきた。


「俺は審判だよ。なんだー先生にも参加して欲しか――「きゃああああ殺さないでごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 肩に手を置こうとしただけで、泣きながら謝ってくるレイ。


                ・・・


「じゃあ、ドッジボールやろうか」


 決めた……やっぱ今日で辞めよ。


 チームは赤組と白組。


 赤組 種族 ハーフエルフ 名前 レイ

    種族 スライム   名前 ノッペダ

    種族 ギガンテス  名前 ギガン

    種族 ホビット   名前 サム


 白組 種族 人間     名前 アシュトン

    種族 ドラゴン   名前 サラマンダー

    種族 ゴーレム   名前 ロック

    種族 ゴブリン   名前 ティンバー

    種族 ドワーフ   名前 ダジダッダ


 サラマンダーがノッペダを燃やすので一応チームは分けた。後は、亜人、人間族、モンスターを均等にわけたつもりだ。これで少しは交流を持ってくれればいいのだが。


「じゃあ、開始!」


 そう合図を出してボールを赤組に渡した。


「おいグリス先生よぉ! なんで赤組のボールだよ?」


 強がった物言いをするアシュトンだが、声が震えまくっている。


「赤組の方が1人……いや1匹少ない」


 この場合単位は『人』か『匹』が微妙なところだ。


「何言ってんだ! ノッペダはもう5匹に分裂してるじゃねぇか」


「……」


 無視。


 さて、アシュトンがごちゃごちゃ言ってる間にもドッチボールは開始していた。

 ハーフエルフのレイが強烈なボールを投げて、ゴブリンのティンバーに当てた。


「見事! おい、ティンバー。外へ行け」


「……ドウイウイミデスカ?」


「いやだからお前がそのボールに当たっただろう? だから外へ行けって!」


「……」


 ティンバーは戸惑っている。

 んもう、バカって嫌い!


                 ・・・


 20分後、ルール説明をティンバーに叩き込んでドッジは再開された。


「おい、酔いどれドワーフ。お前酒ばっかり飲んでないで投げてみろよ」


 そう言ってアシュトンがドワーフのダジダッダにボールを転がす。


「……」


 無視しながら酒を飲むダジダッダ。


「……おいお前聞いてんのか!」


 激高するアシュトンを無視して酒を飲むダジダッダ……誰だこんな親父を連れて来たのは。

 そんな風に言い争ってる中、ボールを拾ったのはゴーレムのロック。

 中々の速球でホビットのサムにぶち当てた。


「いったぁい。えーん、えーん」


 か、可愛い。

 そして、ボールは再びロックの下へ返ってきた。

 再び強烈なボールを投げた先は……スライムのノッペダ(4体目)だった。

 ノッペダは身体の中にボールを吸収した。


「おい! あんな取り方ありかよ!」


 アシュトンが猛烈抗議する。


「問題ない。ボールは地面についてない」


 とその訴えをはねのけた。

 だが……もちろん、ノッペダは投げられない。


「おい、レイ。ボール取ってやれよ」


「……嫌です。気持ち悪いもん」


 どうやらヌメヌメ系は嫌いらしい。


「レイ。お前、『気持ち悪い』そう言ったな。そんな事言われたノッペダの気持ち、考えたことがあるのか?」


 そう言ってノッペダの方を見るが……そもそも思考は存在するのであろうかという疑問符を瞬時に打ち消した。


「だって……」


「だってじゃない。お前たちはクラスメート。ましてや同じ赤組、いわば運命共同体だ。そんな中、お前はそいつに『気持ち悪い』と吐き捨てるのか!」


 お前アレだぞ……思考はあると仮定すると、その言葉は結構響く。

 俺も幼少の頃はよく陰口叩かれたよ……全員デコボコの刑に処したけど。


「……グリス先生ごめんなさい」


 そう言って泣きながらこちらへ向かってくるレイ。


 なんだ、可愛い生徒じゃないか。

 そう微笑ましく思いながらレイの頭を撫でていると、アシュトンが恐る恐るこちらへ来た。


「あの……そのクラスメートなんだけど、いまちょうど最後の1匹をギガンが潰すところなんだけど……」


 ノッペダ――――――――!


 


 


 

 

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