殴って殴って殴って殴って
結局、再び特別学級『エデン』の教室前に立った。
やるしかない……やるしかない……そう言い聞かせながらドアを開けた。
・・・
モンスターVS亜人、人間の構図になって争っていた。
「お、お前ら何やってんだぁ!」
とりあえず、亜人、人間たち(言葉がわかる方)に怒鳴った。
「黙れゴブリン!」
人間のアシュトンがこちらを睨みつけながら怒鳴ってきた。
なんなんだあの人間は。どんだけゴブリン嫌いだあいつは。明らかに憎悪の対象としてこっちを見ている。同じくゴブリンでありクラスメートのティンバーを見ると……あの野郎、完全にモンスター側にいやがる。
一応人言語を話せるので、人間的に見れば亜人に当たると思うのだが明らかにモンスター側と同化しているのは複雑な気持ちだ。
「おい、ティンバー! 貴様、喧嘩しとらんで止めんかぁ!」
そう一喝するがすでに聞く耳を持っていない。完全に頭に血が上っている。
落ち着け……俺が一番冷静でいなければいけない。バークレイズ防衛団じゃこんなことは日常茶飯事じゃないか。
まだ剣を持ち出してないだけこちらの方が可愛いもんだ。
「お前ら! 早く席に座れ―。授業始めるぞ」
そう叫ぶが、ちらほらしか座らない。座ったのは、ゴーレムのロックとドラゴンのサラマンダー。人間たちよりもモンスターの方が聞き分けがいいと言う情けない状況。暴れているのは人間のアシュトン、ギガンテスのギーガ、ゴブリンのティンバー、喧嘩を止めようとしているのはハーフエルフのレイ……か。
あと、踊ってるのがホビットのサム、酒飲んでるのがドワーフのダジダッダ、分裂してるのがスライムのノッペダ……こいつらは放っておこう。
とにかく、喧嘩を止めるのは本業だ。
「なんだよゴブリン! お前なんかに俺が止められると思ってるのか?」
嘲りながらこちらを睨むアシュトン。
なんでこんな奴をこのクラスに入れたんだギュネス候は!
「弱い奴ほどそうやって喚くんだ」
「な……なんだと!」
そう言って剣を抜くアシュトン。
ああ……こいつかなりの剣士だ。
抜いた瞬間でわかった。逸材だ。抜いた瞬間殺気で鳥肌が立つ。
ってか、殺気なんて出すなよこんなくだらない喧嘩で! こんな荒くれ者にはもちろん教育的指導が必要だ。
教えてやらなければいけない。剣を抜くときは、自らも死を覚悟しなければいけないという事を。ギュネス候も人が悪すぎる。すかさずこんな阿呆を送り込んでくるとは。
大きくため息をついてアシュトンに向かって歩く。
あまりにも無防備に近づいたからか、戸惑うアシュトン。
阿呆が……その迷いで貴様は今死んだ。
アシュトンの右手を掴んで剣を封じた。後は殴る殴る殴る!
「き……貴様ぁ!」
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る
あっ、違った。喧嘩じゃなかった。
ビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタ!
・・・
アシュトンが気絶して泡を吹くころには教室が沈黙に包まれていた。
やっと教育者らしいことができて少し満足した。
「おいお前ら席座れよ」
そう言うと、先ほどとは打って変ってみんな座り始めた。
ティンバーに至っては正座している。
今更おせーよ!
教育的指導として回し蹴りで3メートルほど吹っ飛ばした。
「さて、授業を始める」
「あの……グリス先生」
震えながら、ハーフエルフのレイが手を挙げた。
「ん? どうした」
「アシュトン……息してませんけど」
ええええええええええっ!