開設! 異種混合学級
大きく深呼吸をして、廊下を歩く。
やることは決まっている。教師として、生徒を育み見守っているだけ。
そう自分に言い聞かせて教室の扉を開けた。
人間……ドワーフ……ホビット……ゴーレム……スライム……ドラゴン……ハーフエルフ……ゴブリン……ギガンテス……
ピシャリ
思わず、扉を閉めてしまった。
なんだこの圧倒的などうにもならない感は。ガチャガチャし過ぎて訳がわからん。すでに、何らかの争いが勃発してるし……
いや、俺は教師なんだ。与えられた仕事を全うするだけ。
何度も何度も言い聞かせて、再び扉を開けた。
「おーい、座れ―。授業始めるぞー」
そう大きな声で叫んで持っている名簿を教壇に叩きつける。
「おい、ゴブリンが何か言ってるぞぉ」
生意気そうな人間が隣の人間と嘲り笑ってきた。
「……言っておくが、ここではゴブリンも人間もモンスターも関係ない」
この濃い緑色の肌も、精悍な大男を軽々と超えてしまう巨体も、岩石を軽く握りつぶしてしまう腕力も、ゴブリンとして生まれた身であれば当然のことだ。
むしろ、よくぞこの巨体を前にして恐れずに言ってのけたなと少し感心した。
「はっ!」
ふてくされたように、足を机に乗っけて反攻する人間。
いいぞ、わかりやすくていい。
本気でそう思った。こんな生徒ばかりならば、ただ暴力で黙らせればいいのだ。
だが……
スライムは分裂している
ゴーレムが眠っている
ドラゴンが炎を吐いている
どうしろと言うのか。こいつらとコミュニケーションをどう取っていけばいいのだ。そもそもコミュニケーションなど、取れるのだろうか。
いや、いかん。俺は教師なのだ。俺が奴らを放り出してどうする。このまま荒野に放てば再び人間と亜人族とモンスターが争うだけの世界になってしまうではないか。
「じゃあ、出席を取る。スライム族……ノッペダ」
そう呼ぶと、スライムは分裂した。
いいのか!? 「はい」と見なしていいのか!? そして、今や5体に分裂しているが、5体でノッペダなのかそれとも1体1体に別の名があるのか……深く考えるのはやめておこう。とにかく、出席しているのだ。〇……と。
「ハーフエルフ族……レイ=クリシュナ」
「はい!」
元気よく立って声をあげた。
それだけで感動して涙が出そうになった。初めてまともそうな生徒がいる。それがわかっただけでも一安心だ。出席簿の〇と共に、密かに学級委員候補として心に刻んだ。
「次、ドラゴン族……サラマンダー」
ドラゴンは炎を吐いて、スライムを焼き尽くした。
ま、まあ……まだスライムは4体いるから大した問題じゃないだろう。
「人間族……アシュトン=ラーズ」
「おい、無視すんなよ。貴様より実力がある俺がなんで貴様の授業なんて受けなければいかんのだ」
うん、元気があってよろしい。
「ゴーレム族……ロック」
ゴーレムは眠っている。
うん……まあ、寝る子は育つと言うし。緊張もしているんだろう。きっとそうだ。
「ホビット族……サム」
「はいはいはーい!」
人懐っこい笑顔で踊りだすホビット……可愛い。
「次、ギガンテス族……ギーガ」
ギガンテスはホビットと人間をおいしそうに見ている。
と、とにかく席は離した方がいいな。う……うん。
「ゴブリン族……ティンバー」
「ハイ!」
こいつはどうでもいい。と言うか教師と生徒と言うより、むしろ族長と部下の関係だ。ぜひとも学級委員に推したいところだが、贔屓と取られる危険があるのと、知能が低いせいでそうもいかない。
「最後、ドワーフ族……ダジダッダ」
「……」
返事はなく、一人酒。
どう考えても年上。こんな奴にいったい何を教えろと言うのか。
「以上、みんな色々あると思うがこうして出会ったのも何かの縁だ。この学級に選抜された意味、それを深く考えてこれから新しい楽園を――」
「なんだこの野郎!」「ブォオオオオオ!」「炎吐くんじゃねぇよ、ドラゴンがぁ」「先生離してるでしょちゃんと話聞きなさいよ」「いやぁ! たーべーなーいーでー」「ゴブリンに教えられるなんざごめんだ俺は」「キュウショクタノシミ」「Zzzz……」「みんなで踊ろうよー♪」「●×△・、?!%&#$……」
・・・
……誰も聞いちゃいねぇよチクショウ。