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珠希

『珠希』


「珠希〜!一緒に学校行こう!」愛理の声だ!!早く用意しなきゃっ!


私は珠希。今小学校6年生。愛理も一緒の学年なの。 私は、児童福祉施設と言う所に住んでいるの。


今から学校に行く所。


「先に玄関に行ってるからね〜!」「お姉ちゃん待ってぇ!」愛里と愛里の妹、花乃の声がする。愛里とは幼なじみ。花乃とも仲良し。


私は小学校2の時に、ここに連れて来られた。お母さんが運転する赤い車で、少し遠くの町からやって来た。


お母さん、車の中でずっと泣きながら「ゴメンねゴメンね。」って言ってたのを覚えている。 その前の事は良く覚えてない…。


私はお母さんとどんな風に暮らしてた?お父さんは?


忘れちゃった………。どうでもいっか!!


私、学校にも友達いっぱいいるんだ。

自分で言うのも、なんだけど、明るいが取り柄かな?勉強も好きだし、スポーツも、もちろんお洒落も。


セブンティーンって言う雑誌が好きなんだけど、買えないから、毎号友達が読んで要らなくなったら貰ってるの。


貰った次の日に、新しいのが出ちゃったりするけどね…。


「何してるの?ボーッとして?早く歩かないと遅刻するよ?」愛里に怒られちゃった。


「ねえねえ、昨日の夜、先生達が話してるの聞いたんだけど、新しい子が入るんだって。」愛里が後ろ向きに走りながら言った。危ないのにね。


「えっ!本当!?男?女?どっち?」ここまで聞いたら、近所に住んでいる友達と合流しちゃったから、それ以上は話せなくなっちゃった…。あたしも、愛里も、暗黙の掟っていうのかな…施設の話は他の子の前ではしないんだ…。新しい子の話し気になるけどね…。


気になって、勉強が手に付かないかも……。


他にも気になっている事があって、あまり話した事のない子がいるの……「ここちゃん」って言う子なんだけど、いつも一人で学校に行って、帰って来てもあまり姿を見たことがなかった。


周りの皆は、「気持ち悪い」だの、「ホラ吹き」だの「オカルト少女」って言ってたけど、私は何となく可愛いと思ってた。愛里にも言ってない事だけど…。


小さくて、色白で細く、真っ黒なおかっぱ頭。いつも下を向いてるけど、実はパッチリした目をしている。私は本当は可愛い子なんだと思った。


後、強い子だと思った。


いつも帰って来てから、姿が見えないと思ったら、何とあのお化け屋敷に一人で入っていったの!!誰も入っていかないのに!!


今日こそは、学校から帰ってきたら喋りかけてみようっと…………。



私は、新しい子が入って来るっていうのと、今日こそはここちゃんに喋りかけなきゃっ!て事で、授業はほとんど上の空だった。


やっと学校が終わった!!「バイバーイ!また明日ね。」って皆にお別れして、私は駆け足で校門まで走った。


途中で愛里とすれ違って、お先にって言った。愛里はクラスメートの友達と一緒に帰っていたので、少し安心しながら走った。


ここちゃんに喋りかけるなんて知ったら、愛里反対しそうだから。


施設に帰って来て、ここちゃんの下駄箱を確認。「帰って来てる!」


何だか探偵になった気分。ここちゃんが何をしているか突き止めなきゃ!


まず、自分の部屋に行き、ランドセルを置いた。

「お帰りなさい、たまきお姉ちゃん。後でえほん読んで。」この子は同じ部屋の奈々ちゃん。小学校1年生。妹みたいに可愛がってるの。


後、2年生の子と4年生の子も同じ部屋なんだけど、まだ帰ってきてないみたい。


女子寮、男子寮と分かれてて、各部屋にルームメートが4人〜5人居るの。


部屋が狭いから、窮屈だけど、施設の暮らしは嫌いじゃなかった。


自分の家で暮らすよりは、マシだと思った。


何でそう思ったんだろ?


いけない!!早くここちゃんの部屋に行かなきゃ!喋れなくなっちゃう!一人でお化け屋敷に行っちゃう!!


ここちゃんの部屋の前まで来た。ノックをしようとしたけど、何て話しかけたらいいか、急に緊張してきちゃった!!


そもそも、私何でここちゃんに喋り掛けようと思ったんだろ?興味があったから?何でだったっけ?


とにかく、部屋をノックしてみよう……『コンコン』木で出来た引き戸をノックした。


「はーい?」中から声が聞こえたけど、ここちゃんじゃない。


「ここちゃんいる?私、珠希。」って言いながら戸を少し開けてみた。「こっここちゃんは…どこかにいきまっ、行きましたでしょう。」 早紀ちゃんという子が居て、教えてくれた。


早紀ちゃんは、知的障害者。養護学校に通ってて、本当は中学2年生なんだけど、同い年の子達とは合わないから、小学校生の子達と同じ部屋なの。


「そうですか。ありがとう。」と早紀ちゃんにお礼を言って、また走った。


急いで靴を履いて、グランドまで走った。


いた!!ここちゃんはお化け屋敷に向かって歩いてる。辺りをキョロキョロしながら。


私、おもいっきり大きな声で呼んだの!!


「ここちゃん―!!」


ここちゃんは私の方を振り向いたけど、走ってお化け屋敷に行った。


私も走って、ここちゃんの後を追った!!ここちゃんが窓からお化け屋敷に入って行ってしまった。


私も勇気を出して、同じ窓から入って行った。少し窮屈な窓から、体を押し出しながら、中に入った。


「ここちゃーん…。」そう言って辺りを見回した。廊下には使わなくなった畳やら鍋やら、布団などが散乱していた。薄暗くて、ホコリっぽい。 やっぱり、此処は怖い所なんだ。オバケが居る…。


ここちゃんの気配がしない…。怖い。


「ここちゃん、私、前から友達になりたくて…えっと…前から気になってたの…。此処でなにしてるのかなぁって。」怖いけど、少しずつゆっくり歩きながら、ここちゃんに聞こえる様、話し掛けたの。


「ここちゃんゴメンね。勝手に入って…居ないの?」もう此処から出ようかな…。


「友達?」声が聞こえた。


「ギャーー!!!」私、びっくりして大声だしちゃった!!尻もちついちゃった!!


「こっここちゃん…!」

いつの間にか、後ろにここちゃんが居た。


「何かの罰ゲーム?そう言って逃げてこいって言われたの。」ここちゃんが下を向きながら、小さな声で言った。


「ちっ違うの!本当に友達になりたくて…。」私はここちゃんに近寄りながら言った。


私が近寄ったと同時に、ここちゃんが一歩下がった。


「いつも一人で此処に来てるの?」私は出来るだけ優しく言った。「…うん。」ここちゃんは小さくうなずいた。


「何か凄いよね!此処お化け屋敷って言われてるの知ってる?ここちゃんさぁ、一人で入ってるから凄いよね!」今度は尊敬してみた。


どう言ったら、私に心を開いてくれるんだろう?


「怖くないの?私は一人じゃ入れないよ…。いつも此処で遊んでるの?」

「…うん。」


「…此処はね、あたしの秘密基地なの…」ここちゃんが小さな声で言った。


初めてここちゃんから喋ってくれた…。


「…こっちに来て…。」ここちゃんが小さな声でそう言うと、教室らしき所に歩き出した。


私はここちゃんの後に付いて行った。


「…何か凄いね…。思ったより綺麗だったんだ…。此処…。」私は教室らしき所に入ってビックリした。

小さな黒板、その周りに小さな机と椅子が数個、綺麗に並んでいた。


きっと、此処は園児達の教室だったんだ…。

ここちゃんが床も机も綺麗にしてたんだ…。


「…本当にあたしと友達になりたい?」ここちゃんが真っ直ぐ私を見て言った。


「うん!私…前からそう思ってたの…でも、なかなか言い出せなくて…その…」

…そう…私、ここちゃんが嫌われてるの知ってて、本当は言い出せなかったんだ…。


「…あたしが嫌われ者だからでしょ?」ここちゃんが言った。私、何だか凄く恥ずかしくなって、下を向いてしまった。


「…あたしと友達になんかなったら、あんたまで嫌われちゃうよ?」ここちゃんは少し笑いながら言った。多分、冷めた笑いっていうのかな…冷たい笑い顔。


「…私、本当にここちゃんと友達になりたい!!」にそう思ったから、私は此処まで追って来たんだ。


私は彼女に惹かれて来たんだ。


「…本当に?あたし…嫌われ者だよ?学校行ったって、誰も相手してくれない子だよ?あたしと友達になんか、なっちゃダメだよ!出てって!!もう十分だよ!!あたしは一人で十分なの!!」


 ここちゃんは、半分怒鳴ったような声で…でも、涙声で言った。


「いいの!!私、決めたの!!ここちゃんは私の友達!!」私は大声で言った。


ここちゃんの胸に届く様に。


しばらく、二人とも黙ったままだった。でも、ここちゃんは下を向いて泣いていた。


嗚咽が聞こえたわけじゃないけど、床が涙でじんわりと濡れてたから分かったの。


どれ位たったのかな…?

「…あたしね、本当は寂しくて、辛くて…友達何て一生出来ないと思ってた。あたしはずっと一人だって…一人で生きていかなきゃって…。」ここちゃんが声を絞りました出しながら言った。


この子はずっと寂しかったんだ…。私が同じ立場だったら耐えられた?きっと無理だった…。そう思うと、私まで寂し気持ちになって来て、泣けてきた。


「ゴメンね…。ゴメンね…。」そう言いながら、私も泣いちゃった。


「…どうして泣くの?どうして謝るの?分かったよ…あたし、頑張って友達してみる…。今日から友達。秘密基地、使っていいよ。」


 ここちゃんが、まごまごしながら言ってくれた。


「本当 !!私、凄く嬉しい!!今日から友達!!私、本当に嬉しいよ!有り難う、ここちゃん!」


本当に嬉しかった。心に引っ掛かっていたものが、取れた気がした。


私、何となくだけど、これから楽しい事が待っている気がしたの。


多分、この予感は当たってる!!


「ここちゃん、宜しくね。私、珠希。」


手を差し出した。小さな手が私の手を握った。


「あんた…変なヤツ…。」ここちゃんが笑った。


初めてみた笑顔だった。

気が付くと、辺りが薄暗くなってた。


4月の終わり頃だった。

「ねぇ、ここちゃん、もう戻ろう?暗くなってきたし。それに、今日新しい子が来るんだって!」


私も笑顔でここちゃんに言った。


二人で秘密基地を後にした………。


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