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ここ

『ここ』


あたしの名前は「ここ」漢字は無いの。


あたしは『児童養護施設』っていう所に住んでるの。親が居なかったり、訳あって此処に来た子供がたくさん住んでるの。


あたしは赤ちゃんの時に捨てられてたの。「此処に捨てられた。」だの「此処に居たんだよ。」って、それで名前が「ここ」単純。


 辞めていった保母さんが教えてくれた。


この施設は、小さい子供から高校生まで、男女合わせて35人位居るんだ。

面倒をみてくれる先生は確か12人位。男の先生は5人位で、後は女の先生。


あたしは可愛くないの。この前、中学生の男の子に「可愛くないやつ!ブスッ!」って言われた。嫌われ者なんだ。


多分、あたしは先生達にも嫌われてる。


…なんで嫌われてるか知ってるよ…。外見もそうだけど、中身もブスなんだって!!

笑わないし、喋べらないし、嘘ばかり付くし。もう小学校6年生だから、自分でもわかってる。


だって、笑えないんだ。何も面白くないし、何を笑う必要があるか分からない。喋っても誰も話し聞かないよ?喋るだけ無駄。


 嘘は本当にそうなって欲しいから言うだけ。例えば、「あたしのかーちゃんは女優やってて、仕事が忙しいから、あたしは此処にいるんだ!!お前らなんか、殺しやのとーちゃんに、明日にでも八つ裂きにされるよ!!ザマーミロ!!」ってね。


髪は短く切った。長いといじめられた時、引っ張られるから。


こんなんだから、可愛くないから、いじめられるんだ。可愛いがられないんだ。分かってる…。でも、どうしていいか、どう在るべきなのか分からない。


もう少しで3時のおやつだけど、今日もきっと獲られる。


大人になったら、ケーキを丸ごと一個、独りで食べるんだ!!一番おっきいの!!


でもね、あたしみたいなのにも、優しくしてくれる先生が居たんだよ。松井先生って言って、女の先生。


おやつ獲られると、松井先生がこっそり、いつも貰ってるおやつより、凄くいいお菓子をくれるの。「内緒よ。」って言って。頭を撫でながら…。


施設では暗黙のルールみたいなのがあって、先生達はひいきをしちゃいけないんだって。


でもね、あたし思うの。沢山の子供達を、皆同じ様に愛せるわけないって。


先生達、あたしの事、可愛がってくれないでしょ?


でもね、松井先生だけはあたしを可愛がってくれた。あたしの嘘の話も、悪い事しても謝らない時でも、優しくしてくれた。


「貴方は凄く可愛い子よ。本当はお利口さんなの。貴方が意地を張るのは、大人がいけないの。先生がいけないの。」って、頭を撫でながら言ってくれた。


あたし…凄く温かい気持ちになったよ。


でも、松井先生は、あたしが 小学校3年生の時に結婚して辞めちゃった。


先生、辞める日に、あたしをギュッて抱きしめて、泣いてた。「ゴメンね」って言って。


あたしは何て言っていいか分からなかった。悲しいけど泣けなかった。


どうしても泣きたくて、泣く場所を探したの。トイレもお風呂場もダメ…。本当に、大きな声で泣きたかったから。


いい場所思いついたの。昔、幼稚園として使ってた所があって、誰も近寄らない所。グランドの脇にひっそりとある、あの古い建物。皆はオバケが出るから

あそこには絶対入らないみたい。


あたしはオバケとか信じてなかったし、怖くなかった。オバケの本をいっぱい見たし、怖い話しも大好きだった。

だから全然平気。


先生達は入っちゃダメって言うけどね。


さっそく、そこに行った。時々、先生達が要らない荷物を置きにくる位で、中はホコリ臭い匂いがしたけど、気にしない。


教室みたいな部屋と、多分、職員室みたいな部屋と、トイレと手洗い場。

それぐらいしかなかったよ。


教室みたいな部屋に、小さな黒板と、小さな木の椅子、机がちょこんちょこんって置いてあった。


あたしは黒板に、松井先生の絵と、ケーキの絵を描いて、空想の世界に入ってた。


松井先生があたしのお母さんで、ケーキを作って待っててくれる…… いっぱい泣いた。声もいっぱい出した。


今日から此処はあたしの秘密基地。


その日から、あたしは古ぼけた教室を少し綺麗にして、毎日と言っていい程、学校から帰ると入り浸った。空想の世界で遊んでた。


今日も今からそこに行くの。


辺りをキョロキョロと見渡して、走って向かう途中、後ろからあたしを呼ぶ声が聴こえたの……。


『ここちゃん!!』


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