第73話 予想外の参加者
ーーー 鍛冶師コンテスト当日。
音花火の破裂音がメンデル市内に響き渡る。鍛冶師コンテスト開催の合図だ。メンデル城から打ち上げられた花火に続いて、街のあちこちでドドン、ドドンと大きな音が遅れて響く。こういう音を聞くと、運動会の開催を知らせる音花火や狼煙を思い出してしまう。
妙に懐かしい気分になってしまうが、思い出に浸ってセンチな気分になっている場合ではない。今日のために、俺は色々努力してきた。周りの人もたくさん巻き込んでしまった。俺が失敗をしたら、彼らの期待に応えられなくなってしまう。頑張らねば。
左腕に巻きついて熟睡しているちびっ子エルフを引き剝がし、ベッドを抜け出す。窓の近くへ寄り、カーテンを勢いよく開けると、強い陽射しが差し込んできた。空は雲一つない青空。深く爽やかな青が気持ちいい。うん、絶好の祭り日和だ。
窓を開けて屋敷の前の通りを見下ろすと、いつもとはまるで違う光景が広がっていた。
道が人で埋まっている。そう、前回の優勝者たるブラッドール家を見るための見物客で、通りがごったがえしていたのだ。
・・・・・・だけど、まさかここまでとは。
通りはそれなりに広い。大きな馬車が、余裕を持ってすれ違えるくらいはある。それでも人が溢れてしまっている。警備兵達が交通整理をしている。鍛冶師コンテストーーー 本当に一大イベントなんだな。気合が入るぜ。
鎧の方も変な動きをすることなく、すっかり体に馴染んでいる。シャルルさんが早めに送ってきてくれたのは、俺の体を鎧に慣らすためだったのかもしれないな。ずっと身につけていたおかげで、今や何の違和感もない。普段着のように、軽やかに動ける。彼女の細やかな心遣いに感謝だ。多少の変態仕様には目を瞑ってやろうか。
・・・・・・あれ? そういえば、この鎧を持ってきてくれたシャルローゼさんはどこへ行ったんだ? 俺に伝言した後、姿が見えなくなっていたからすっかり忘れていた。ミッドミスト城へ戻ったのだろうか? まぁ、シャルローゼさんの事だから抜かりはないと思うけど、ちょっと心配だな。
「カミラ様、いよいよ今日ですね」
振り返るとレンさんが立っていた。いつの間にか、寝巻きからメイド服に着替えている。相変わらずの早着替えだよ。レイさんに至っては、既に部屋にすらいない。もう朝食の準備を始めているのだろう。ヴルド家のメイド達にも、本当に世話になりっぱなしだ。これからも彼女達を大切にしなきゃいけないな。
・・・・・・でも、当の彼女達はどう思っているのだろう? 命令で俺に仕えることになってしまったけれど、本当はもっとやりたい事があるんじゃないだろうか。自由に生きてみたいだろうし、2人とも日本だったら遊びたい盛りの年頃だ。現代日本の20代の女子なんて、働き出して大変な時期ではあるけど、人生を一番楽しめる時代だ。恋愛に旅行にグルメ、オシャレにスポーツに女子会。毎日楽しいことがあって、生活が輝いて見える年代だよな。まぁ、そうじゃない人もたくさんいるけど。
もし俺が彼女達を解放してあげたら、レンさん、レイさんはどういう人生歩むのだろうか。きっと、もっと違う道があるだろう。そう思うと、複雑な気分になる。このまま順調に行くと、レンレイ姉妹はずっと俺のそばに仕えることになる。つまり、一生のほとんどを城の中で過ごすことなる。これまでとは違う世界で、人間関係も複雑になって気苦労ばかりが増えるだろう。
彼女達のより良かったかもしれない人生を、俺が奪っているともいえる。姉妹は2人とも、騎士になれるほどの優秀な才能を持っている。世に出れば、冒険者としても騎士としても大成するに違いない。そんな才能と可能性を俺が奪っているとしたら・・・・・・。
「レンさん、私が即位したら、貴女達姉妹は一生私に仕えることになります。城という監獄の中で、カゴの鳥になる私に生涯付き合うことになるのですよ。それでもいいですか? 他の道を歩く選択肢もあるのですよ」
「そうですね、もしカミラ様にもヴルド家にもお仕えしていなかったら、私は別の道を歩いていたでしょう」
レンさんが目線を床に落として、静かに言葉を選んで言う。心なしか表情が堅い。
「今なら・・・・・・今ならまだ別の道を選べます。私に遠慮することはありません。レンさんの幸せは私の幸せです。だって家族ですから」
そりゃあ俺だってレンレイ姉妹に仕えて貰えたら、何よりも心強いし嬉しい。でも、もう彼女達をメイドとして見る事ができない。彼女達がしたいようにさせてあげたい。より良い人生を遅れるならね。これでも、俺の方がレンさんよりも一回り以上は年上だからな。おっさんはおっさんらしく、少しは格好をつけたい。そして何より、人生の先輩としての役目のような気がする。
「わかりました。それでは私たち姉妹は、カミラ様のメイドを辞めさせていただきます」
えっ!? あれ? そんなあっさり?! レンさんの声が冷たい。
俺も言い出した手前、本音ではあったけれど、思い悩んで踏みとどまってくれるのかとちょっと期待していた・・・・・・もしかして俺、本当はレンさんに嫌われてたのかな。うっ、少なからずショックだ。
「そ、そうですか。他にやりたいことがあるのですね?」
自分で自分の声が上ずっているのがわかる。信じられないくらい動揺している。
「はい、ございます」
がーん! やっぱりそうなのか。今まで我慢してただけで、俺のことが本当はあんまり好きじゃなかったんだね、レンさん。
いや、いかんいかん。これでいいんだよ。彼女達は晴れて自由に生きられるんだ。俺が四の五の言って、引き止めたら意味がない。
「私たち姉妹は・・・・・・ブラッドール家のメイドを辞め、これからは次期メンデル女王のメイドとして勤めさせていただきます」
おう、そんな変化球やめてくれよ。泣けてきた。こんなにくい演出をしてくれるレンさんは初めてだ。
「ふふふ、カミラ様ったら、もう。・・・・・・涙をお拭きください」
やっぱり今、俺は泣いているらしい。そうか、もうレンレイ姉妹は俺の体の一部みたいなものになってたんだな。彼女達が居ない未来をちょっとでも想像した途端、心が切り裂かれたように痛くなってしまった。でもね、レンさん、貴女の両目からもたくさんの涙が溢れているよ。
「初めてお会いしてから、優しいところは変わっていませんね。カミラ様は、いつまでも私たち姉妹のご主人様です。カミラ様に仕えることが、何よりもやりたい事なのです。もう二度と・・・・・・私達に気遣ったりしないでください。寂しすぎますから」
「うん、私も寂しいよ、レン」
感情が高ぶったせいだろうか。自然に言葉が口を突いて出ていた。
レンさんの顔を見ると、大粒の涙を流しながらも、とても嬉しそうな表情をしている。
「初めて・・・・・・初めて私に敬語を使わずに、名前を呼び捨てにしてくれましたね。嬉しいです」
「えっ!? そう、でしたっけ?」
「はい。カミラ様は初めてお会いした時から4年間、ずっと敬語でした。これがどういう事かおわかりですか? 私はカミラ様に距離を置かれているのだと思っていました。それが今、ようやくーーー」
そうだったのか。俺はレンさんを無意識に遠ざけてしまっていたのか。無闇に丁寧に接するのも考えものだ。反省しなきゃな。これからは、彼女達姉妹を呼び捨てでいくことにしよう。
「じゃあレン、朝ごはんにしましょう」
「かしこまりました」
差し込む朝日の中で、にっこりと笑うレンさんの顔は、心なしかいつもより優しく見えた。・・・・・・レンさん、そしてレイさん、俺の中で、欠く事のできない大きな存在だよ。
◇ ◇ ◇
ブラッドール家のキッチンはさほど広くはない。今朝は、その広くはないテーブルが満席を通り越して、補助席まで設けられている。ビスマイトさん、レンレイ姉妹、エリー、マドロラさん、イクリプスさんと弟のデュポン、ドルトンさんとその弟子達5人、チャラ男、そしてルビオンさんが、朝食をとっている。
もちろん、ちびっ子エルフは補助席だ。真顔で「なぜ私が小さな椅子に座らねばならない?」とか聞いてきたけど、完全無視だ。おこちゃまは昔から補助席と相場が決まっている。まぁ、齢3万歳の幼女だけどな。
今日の朝食は、レイさんが担当だったらしい。どちらかといえば、レイさんは料理はあまり得意ではない。それでも、レンさんとマドロラさんに鍛えられ、ブラッドール屋敷に来てからかなり上達した。今では、レンさんと遜色のないレベルの料理をするようになった。そして今朝は・・・・・・がっつりと豚肉のジンジャーソテーだった。平たく日本風にいえば、豚の生姜焼きだね。豚肉、早く使っちゃわないと傷んじゃうしな。
「オヒ、ジュウオウ、おまへがつかふぶきは、なんら?」
「だから、口に物を入れたまましゃべらないでください、長老様」
このおこちゃまは、礼儀作法が全然なっていない。俺の高貴で高潔なイメージのエルフを返して欲しい。
「仕方がないだろう、この料理が美味すぎるのが悪いのだ。こら、ルビオン、おまえのも半分よこせ」
「長老様、まだおかわりはたくさんありますので、慌てなくとも大丈夫ですよ」
「そ、そうか。・・・・・・で、お前は格闘部門でどんな武器を使う?」
「オーソドックスに長剣と短剣で行こうと思います」
「念のため、アレも持っていけ」
「アレ?」
「金剛精だ」
いやだ。あんな馬鹿でかい、”バトルアックスのお化け”を持って歩くなんて。いくらなんでも目立ちすぎるだろ。血気盛んな格闘部門の参加者の中でアレを見せつけたら、いらぬ喧嘩を買うことになる。
「どうして金剛精を?」
「うーん、まぁ、な・・・・・・なんとなく勘だ。儂の勘は昔からよく当たる。信じておいて損はない」
一体どんな勘なんだ。だけど、左腕も微妙に震えている。しょうがないなぁ、持っていけばいいんだろ、持っていけば。俺以外に持てる人がいないから、誰かに頼むこともできない。昨日の夜、ちびっ子エルフと皇帝の悪魔がひそひそ話をしていたから、何かたくらんでいるんだろう。魔剣に魔斧、取り扱い注意の物件がいくらなんでも多すぎる。
とはいえ、武器が多いことに越した事はない。問題は、場の雰囲気を刺激しないようにすることだな。布か何かで包んでいくことにするか。でも、布で包む事ができるのかすら怪しい品物だからなぁ。そもそも物体として扱うことができるのは、皇帝の悪魔と魔力の込もった物質だけのようだし・・・・・・。
「何を考え込んでいる?」
「あ、いえ・・・・・・さすがに金剛精を持って歩くのは、目立ちすぎるんじゃないかと思いまして」
「よいではないか。周囲を圧倒して威圧する、戦いにははったりも必要だぞ」
肉弾戦などまったく縁のなさそうな幼女が言う。うん、説得力はゼロだ。
朝食を食べ終わると、俺はレンさんに頼んで、できるだけ大きな布を用意してもらった。当然普通の布に金剛精を包もうとしても、すり抜けてしまう。だけど、左腕に頼んで魔力を付与してもらうえば、布で包むことができるんじゃないか。そんな安易に考えだった。
「左腕さん、この布に魔力を付与することなんて出来ますか?」
「ふん、造作もないわ。・・・・・・と言いたいところだが、栄養源よ、その分の栄養をよこすがいい!」
ケチくさい魔神様だ。布に魔力を与えることなんて、簡単にできるんだろうけど、燃料が必要になるのか。どんなに優れた車も、ガソリンがなければ走れないのと同じようなものだろうか。だけど今、コイツに俺から寿命を与えてしまったら、午後の戦いにどんな影響が出るかわからない。そんな危ないことをするくらいなら、そのまま金剛精を持っていくことにするか。はぁ、目立つなぁ。
いろいろ後ろ髪を引かれる思いはあるが、なるべく早く会場に入りたい。様子を見て、場の雰囲気に慣れておきたいし、何よりも変な罠が仕掛けられていないか自分の目でチェックしておきたい。それに、ソルトや宰相カールの息のかかった不審人物がいたら、気配感知で察知できる。事前に、見物客の中の怪しい人物がいないか探っておきたい。
何よりも、一番警戒すべきは参加者だ。ディラックさんによると、昨日の朝の時点で、格闘部門の参加者数は1000人を超えている。鍛冶師部門は、工房ごとにカウントされるが、こちらは約100の工房が参加する。
本来は、鍛冶師のコンテストがメインのはずだ。だが、コンテストは立会人の騎士が、武器と防具をぶつけ合う絵的に地味な内容だ。お祭りの自然な流れとして、格闘部門に注目は集まるのは必然だろう。というわけで、格闘部門は今年も参加者が大盛況だ。
しかし、参加者全員を詳細に事前調査するのは不可能だ。しかも、参加条件は鍛冶師部門と比べて緩い。言ってみれば「生死を含めて怪我をしても文句を言わない人間」なら誰でも参加可能なのだ。これで賞金と名誉が得られるとなれば、腕自慢の参加者が激増するのも頷ける。
戦うことが好きな格闘マニアや格闘家達が、大陸全土から集まってくるだろう。もちろん、メンデルの狙いとしてはそこなんだけどね。強くて見込みのある参加者は、兵士や騎士としてスカウトされることもあるし、何よりも騎士団の実力向上にもつながる。
俺達は、急いで荷物を準備し、早速城へと向かった。だが考えが甘かった。
屋敷を出た瞬間から、見物客達が大騒ぎになった。
「おい、出てきたぞ!」
「あれが前回の優勝者か・・・・・・」
「さすが鍛冶師の貫禄があるな」
「あの人がブラッドールなのか」
「なんだあの斧は?!」
「バカでけぇぞ」
「ブラッドールの今回の出品は斧か」
野次馬達が好き勝手に憶測で騒ぎ始めた。これが祭りの醍醐味ではあるけれど、危険も増してくる。長居は無用だろう。どんどん人が集まってきてしまった。直ぐに、前にも後ろにも進む事ができなくなった。まるで満員電車に、すし詰めにされた時みたいな感覚だ。ああ、通勤地獄がちょっと懐かしくなったよ。
慌てて警備役の騎士達が、俺達を誘導してくれたので、事なきを得たが、本当にすごい熱気だった。みんな鍛冶に掛ける思いも熱いんだな。考えてみれば、この国のほとんどの人が、何らかの形で鍛冶や鉱山に関わっている。高密度の燃焼石の普及も手伝って、鍛冶の効率も上がったし、生産量も消費量もうなぎ登りだ。その鍛冶師のチャンピオンを決めようっていうんだから、注目するのは当たり前なんだろうな。改めて、自分はすごい家に入ったんだと思う。ビスマイトさんの顔の広さや人望もよくわかるよ。
会場であるメンデル城に到着すると、これまたいつもとは様子が違っていた。堅牢な城門が思い切り開かれ、誰でも自由に出入りができるようになっている。番兵こそ立っているものの、普段の厳つい鎧ではなく、おしゃれな装飾の鎧だ。きっとローリエッタさんの計らいだろうな。
ビスマイトさんとドルトンさんは、鍛冶師部門の会場へ向かうので途中で別れることになった。鍛冶師コンテストは、城の中庭で行われるらしい。中庭と言っても、俺達日本人が想像するようなものではない。イメージとしては、芝生のサッカー場だ。それが4面は取れる面積だ。とんでもないスケールだよ。
俺の主戦場となる格闘部門の会場は、何と城の建物内だ。メンデル城の内部には、コロッセオ(闘技場)がある。普段は儀式に使われたり騎士団・正規兵を集めての訓練や会合に使われているらしい。もちろんこの闘技場も、とんでもない大きさだ。地下6階まで掘り下げられている。広い空間だ。野球場が軽く何個か入ってしまう。初めてのメンデル闘技場だが、早く来ておいて正解だった。まだ観客はまばらにしか入っていない。でも、この大舞台だ。満席になったら、雰囲気に飲まれてしまうかもしれない。
闘技場の中に行列ができていた。どうやら参加者の受付らしい。係りと思われる人が、順番に番号札を渡している。受付を済ませた参加者は、観客席に戻って各自ウォーミングアップらしきことをやっている。
確か受付は午後からだったはずだけど・・・・・・
「カミラ殿、参加者が予想以上に多いため、受付は午前中から行う事になりました」
そう話しかけてきてくれたのは、ディラックさんだった。やっぱりこの顔を見ると安心するよ。不思議と緊張も緩んでくる。
「まさかその魔斧を武器にされるのですか?」
「い、いえ、これはただの予備です」
「そうでしたか。我々もその魔斧の詳しい調査ができていません。実戦でお使いいただいてもよろしいですよ」
データ取りにいきなり実戦投入かよ。それはそれで不安な気もするけど、格闘部門で使用する武器に制約はない。飛び道具も許されているし、剣を100本持ち込んでも文句は言われない。まぁ、それを考えたらこの魔斧を使うのもいいのかもしれないけど、効果が謎だし、何よりも義手の左手でしか振るえないから実戦は却下だな。
「すべての段取りは万事整っています。ご安心ください。カミラ殿は、ただ優勝することだけを考えてくだされば結構です。警備も万全を期しています。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。必ず・・・・・・必ず優勝してみせます。そして皆さんとの約束を果たします!」
ディラックさんに誘導されて、参加受付の列に並ぶ。いかにも百戦錬磨な殺気を振りまく猛者や、筋骨隆々の力自慢風の男達ばかりだ。女性の参加者も少数いるようだが、皆それなりに体が大きい。俺も今や長身の方だが、それを上回る者も結構多い。
そんな中で、ひと際小さな参加者がチラリと見えた。結構年が行っている老人だ。おや? ・・・・・・あの後ろ姿、どこかで見た覚えがあるぞ。
すると俺の目線を察知したのか、小さな老人が、くるりと振り向いて話しかけてきた。
「よぉ、久しぶりじゃの。随分成長したようじゃが元気か? 今回は儂も参加するからの。よろしく。ホッホッホ」
もしも今、珈琲を飲んでいたら、俺は間違いなく全力で吹き出していただろう。そこには誰あろう、”爺さん師匠”その人が立っていた。
おいおい、どうして爺さん師匠が参加者なんだよ! こんな妖怪格闘魔神と、1対1で戦って勝てるヤツなんていないぞ。人智を超えた伝説の格闘バカなんだから・・・・・・もう、絶対に優勝なんて無理じゃないか!!!
「し、師匠、ご無沙汰してます」
「ふむふむ、元気だったようだのぉ」
「で、ですが師匠がどうしてこの格闘部門に?」
「お前の成長を確かめたくての。儂もほら、戦う相手がいなくなっちゃって寂しいし」
「し、しかし・・・・・・それならば、別にコンテストでなくとも」
「何をいっておる、こういう場所の方が楽しいに決まっておろう。全力を出して、相手を殺しても後腐れなしじゃからの、ホッホッホ」
ホッホッホじゃねぇよ。・・・・・・この爺さん、間違いなく俺達の計画を理解していない。いや、理解していたとしても、同じ結果だったかもしれない。この人に理屈は通じない。
ーーー 目の前が真っ暗になってきた。練りに練った計画も、これで全部パァじゃねぇかよ。こんなに見事に出鼻を挫かれるなんて、想像もしていなかった。というか、ニールスさん、師匠にちゃんと話をつけてくれていたんじゃないのかよ。まぁでも、参加すると言い出したこの人を止める事なんて、誰もできないだろうな。戦うことが三度の飯よりも好きな人だ。この格闘バカの存在を計算に入れていなかったよ。せめて爺さん師匠とは、決勝戦で当たるような組合せになりたいよ。ちくしょう・・・・・・こうなったらもう当たって砕けろだ。




