第70話 落ちぶれ魔神と盗まれた斧
高慢ちきな左腕が寡黙になってしまった。だけど、今はそのまま黙ってもらっていた方が都合がいい。レイさんのケアに集中したい。
命に別状はないけど、状態ははっきり言ってかなりひどい。両手の拳が完全に潰れている。折れた骨が、手の甲を突き破って露出している。このまま自然治癒するとはとても思えない。意識を取り戻したら、激痛が彼女を襲うだろう。何よりも、レイさんは最大の武器を失うことになる。
レイさんを背負って廃城の外に出ると、そこには到着したばかりのシャルローゼさんが立っていた。肩にはヴァルキュリアがとまっている。ヴァルキュリアに位置情報は送っておいたから、直ぐにここがわかったんだろう。……GPS機能も完璧だな。
「カミラ、どうなったんだ? 高位の魔法使いとやらは?」
おお、どうやらシャルローゼさんにヴァルキュリア経由でちゃんと状況が伝わっていたみたいだ。話が早くて助かる。モバイル・ルーターなヴァルキュリアさん、最高に使える子だよ、君は。彼なくして、この世界での生活はもう考えられない。
「レイさんが悪魔に憑かれていたみたいです。”拘束の悪魔”というらしいです。仕込んだのは、おそらくエルツ家のソルトでしょう」
「何? 拘束の悪魔だと……そんな高級な悪魔を呼び出す魔法使いがいるとはな」
「それほど恐ろしい悪魔なんですか?」
「暗殺に使われる希少な悪魔だ。契約できる人間も少ない。私も過去一度も契約できていない」
シャルローゼさんが契約できないほどの上級悪魔だったのかよ……危なかったな。それを、命令一つで魔界へ還すことのできたこの左腕の悪魔は、一体何者なんだろうか?
「拘束の悪魔は、文字通り人間の精神を拘束して操る魔法だ。どうやって解除した? 術者が死ぬか、術者の決めた目的を成し遂げるまで、支配された人間は死んでも動き続けるのだぞ」
……死体になっても動くのか、とんでもないな。下手をすると、レイさんが事切れても、動き続けて俺を狙ってくる存在になってた訳だね。不死身のゾンビレイさん……絶対に勝てそうもない。
「その話は後です。シャルローゼさん、新鮮な豚の血なんて持ってないですよね?」
そう、俺は治癒呪術をやるつもりだ。レイさんの怪我を治したい。心の傷は治せないけど、せめて外傷だけでもと思った。
「持っている。激しい戦いになると踏んでいたからな。カミラの治癒呪術を当てにする状況も考えていた」
段取り良すぎだよ。これが年の功というヤツだろうか。先読みしてテキパキと動いてくれる人は本当にありがたい。というか、俺の治癒呪術はシャルローゼさんの開発した術だけどね。
「ありがとうございます!」
俺は早速、呪術の準備に取り掛かった。もちろんシャルローゼさんに手伝ってもらったので、ものの10分程度で術式に必要な手はずを整えることができた。
獣王の力を発揮しつつ、レイさんの怪我を俺の方へと移す。淡い光と共に、レイさんの怪我がみるみるうちに消えていく。よしよし、順調だな。
程なくすると、レイさんの怪我はすべて消えて俺の方へ移された。これで、拳の痛々しかった怪我もすっかり元通りだ。
治癒呪術はちょっとリスキーだけど、今のところは大丈夫だ。多用は禁物でも、仲間のためならリスクを積極的に背負いたい。
……俺が確実に皆に貢献できるのは、この術だと思っている。
レイさんはまだ意識を取り戻さない。さすがの治癒呪術でも、体力の消耗は回復させられない。きっと極度の疲労状態に陥ってるんだろう。回復までは、まだしばらくかかりそうだな。
と、なると……気になるのは左腕の悪魔くんの事だ。コイツの正体を確かめておかないと、ちょっと怖くて着けていられない。それにコイツは約束通り、見返りなしで俺の事を助けてくれたし、何よりレイさんの事まで心配してくれたんだ。ムカつくヤツだけど、根は悪くない悪魔なのかもしれない。”悪くない悪魔”ってのも、何だか矛盾してる気がするけどね。
「シャルローゼさん、”皇帝の悪魔”ってご存じですか?」
「知っているも何もない。それは”ドラゴンを知っているか?”と聞いているようなものだぞ。魔法使いなら誰でも知っている」
へぇ、コイツ、結構有名なのか。過去に下手をこいて魔界を追い出されるくらいだからな。まぁ、お馬鹿な笑い者として有名なのかもしれない。
「”皇帝の悪魔”は別名だ。本当の名前は”原始の悪魔”という。魔王の上に立つ全魔族の支配者、つまり魔神だな」
「……ま、魔神ですか?」
「悪魔達の中ですら、既に神話になっているような存在だ。高慢な性格が災いして、魔王や力のある魔族たちに反逆されたと聞く。要するに、配下たちに裏切られて魔界を追い出された存在だ。もう数万年も前になるらしい。力を奪われ、命からがら逃げ出したという話だ」
オイオイ、いきなりとんでもない展開になったぞ。冷や汗が背中に流れてきた。……もし、この左腕の悪魔が本当にシャルローゼさんのいう”皇帝の悪魔”なら、俺は魔法使いどころか魔界の頂点を左手に飼ってることになる。正確には”元”頂点だけどね。
落ちぶれ神様か。高慢な性格が災いして魔界を追われるなんてところは、まさしくコイツの性格と合っている。それに、シャルローゼさんが召喚できないほどの”拘束の悪魔”を、コイツは命令一つで魔界へ還してしまった。状況としては、限りなく黒に近い。
「あのー、仮にその皇帝の悪魔と出会ったら、どうなりますか?」
「それはあり得ない。力を失った悪魔は、普通は消滅するだけだ。魔界にすら戻れない」
「いえ、ですから仮定のお話です」
「……うむ。皇帝の悪魔は特別な悪魔だと聞いている。言ってみれば、全悪魔の生みの親のようなものだ。もしそんな存在に出会ったら、普通の人間は正視することすらできないだろうな。目を合わせた瞬間に、気が狂うか魂を根こそぎ刈り取られる。そんなヤツが居たら、もう世の終わりが来たと思っていい」
えっと……そのすげー恐ろしいヤツが、今左腕に中に居るんですけど。しかも思いっきり飼育してる状態なんですけど。いや、もう何も言うまい。というか、誰にもこんな怖い話できないよ。
「ちなみに、皇帝の悪魔の姿は伝説にしか残っていないが、”3つの眼”を持つそうだ」
おぅ……選挙活動中に見た目玉は確かに”3つ”だったよ。もう間違いないじゃないか。空隙の悪魔を左腕に仕込んだシャルローゼさんも、この事実は知らなかったということか。もし知ってたら、絶対に召喚してないだろうしな。
皇帝の悪魔は、力を奪われて低級悪魔に堕ち、魔界の隅で身を潜めていたのだろう。そして、シャルローゼさんに召喚され、これ幸いとばかりに俺からゆっくり魔力を吸って復活の機会を狙っていたというのが、妥当な線だろうな……。
「どうして皇帝の悪魔などに興味にがあるのだ?」
「い、いえ……ただそんな話を聞いたことがあったもので」
「そうか。それならいい。万が一、ヤツの片鱗でもこの人間界にあったら、あらゆる悪魔が活性化する。ヤツの魔力は特殊だ。まぁ、遭遇することはないと思うが……」
「は、はい!」
シャルローゼさんに嘘をついてしまいました。ごめんなさい、今あなたも遭遇しています。
もしかしたら、コイツが皇帝の悪魔として力を取り戻しつつあるから、レイさんの中にいた拘束の悪魔が呼応して暴れ出したのかもしれないな。本当なら、もっと後に発動するはずだったのかもしれない。たとえば、鍛冶師コンテスト当日だ。コンテスト当日にレイさんが暴走していたら、ディラックさんの計画はぶち壊しになっていた。
この皇帝の悪魔には、借りが出来たな……。今は俺に寄生している性格の良くないただの悪魔だ。案外話のわかるいいヤツかもしれないし、この状態で解き放ってしまったら始末に困るというのもある。シャルローゼさんにお返ししたところで、彼女の手にも余るかもしれない。いってみれば、超高レベルの核廃棄物みたいなものか。俺の左腕の中に置いておくのが、一番丸く収まっている状態ということだな。
うーん……コイツに恩を売っておいて、持ちつ持たれつの関係を作るのがベストな選択な気がしてきた。知らなかったとはいえ、力を与えて目覚めさせてしまったのは俺だ。最後まで責任を取らないといけないだろう。1人で抱えるには、ちょっとリスクが高すぎる気がするけど……。
シャルローゼさんと別れ、レイさんを背負ってブラッドール屋敷へ歩みを進める。結局、シャルローゼさんにどうやって拘束の悪魔を追い払ったのかは、話す事ができなかった。この左腕と上手くやれるようになったら、きちんと話そう。……今はまだ話す気になれない。
◇ ◇ ◇
ブラッドール屋敷が近づいて、もう直ぐ到着という時に、背中のレイさんが意識を取り戻した。とっぷりと日も暮れている。街路には、メンデル名物のガス灯が煌煌と輝いている。
「あ、……私、一体? ど、どうしてカミラ様の背中に?」
「覚えていませんか?」
「はい。今朝起きたところから記憶がありません」
ちょっと安心した。レイさんが廃城での戦いを覚えていたら、少なからずショックを受けていたはずだ。主人である俺を殺そうとしてたんだからな。悪魔に憑依されていたとはいえ、レイさんは自分自身を許せなかっただろう。
「ちょっと悪い魔法にかかっていたんですよ。大丈夫です。もう心配ありません」
「……カミラ様が助けてくださったんですね。私、また迷惑を掛けてしまいました」
「いえ、迷惑だなんて思わないでください。家族に遠慮なんて要りませんよ」
背中のレイさんが、ギュッと俺の肩にしがみついてきた。彼女が微かに震えているのがわかる。……これは野暮な推測だけど、レイさんにはずっと記憶があったのかもしれない。でも、俺に気を遣わせるのが嫌で、嘘をついているのかもしれない。そんな配慮も彼女の優しさだよな。この件は深く触れずにそっとしておこう。あとはレイさんが元気になるまで、ゆっくりと見守ってあげよう。
ブラッドール屋敷の前には、レンさんが心配そうな顔で立っていた。彼女の事だから、明るいうちからずっと立って待っていたに違いない。心配かけて申し訳ないな。
「レンさん……レイさんは無事です。体力を消耗しているので、安静が必要ですが、直ぐに良くなると思います」
冷静で感情を表に出さないレンさんが、顔をくしゃとさせて涙を流している。うーん、本当に心配をかけてしまった。でも今回の功労賞は、この左腕の悪魔くんだ。コイツがいなかったら、レイさんも俺も無事では済まなかった。シャルローゼさんの手にも負えなかった可能性もあった。
「カミラ様、本当に……本当にありがとうございました」
「いいんです。私はレイさんもレンさんも絶対に失いたくありませんから。出来る事は何でもするつもりです」
「それは私どもメイドの務めです。この御恩は生涯を懸けてお返しして参ります」
相変わらず真面目だなぁ、レンさんは。彼女のそういう律儀なところ、大好きだけどね。
レイさんをベッドに運び、皆で夕食を取る。左腕の悪魔のことは伏せて、あとは大体起きたことを話した。そう、悪いのは全部あのソルトの野郎だってことをね。
夜も更けて、レンさんもレイさんもぐっすり寝静まった頃、俺はベッドを後にした。ちょっと左腕の中の悪魔と話をしたい。
コンコンと左腕を叩いてみる。悪魔に睡眠欲があるのかどうか知らないけど、あの戦いの後からずっと眠ったようにダンマリだ。
「悪魔さん、ちょっといいですか?」
「……何だ?」
「あなたの正体を知りました」
「だっ、だから何だ! 笑いたければ笑うがいい……。どうせ我は配下に裏切られて魔界を追われた間抜けな落ちぶれ魔族だ」
ありゃ? コイツ、結構気にしているのか。有名な話とはいっても、歴史の教科書に載るような内容だ。もう気にする必要はないと思うんだけどな……。というか誰一人として、本人が思っているほど気にしてないと思うぞ。
「笑ったりしませんよ。ただ、部下に裏切られて身を売られたのは気の毒だな、と……」
日本の企業組織も裏切り先行、他人をおとしめ踏み台にして、出世するヤツも多かったしな。そういう醜い心は、世界が変わっても同じなのかもしれないな。
「わ、わ、我が人間ごときに同情されて、よ、よ、喜ぶとでも思ったのか! ワハハハハ~」
おい、皇帝の悪魔様が泣いてるぞ。わかりやすいな、本当に。明らかに動揺しまくってるよ。配下に裏切られて魔界を追われた挙句、力のほとんどを奪われたんだ。悪魔といえどもかなり堪えたはずだ。
「ところで、拘束の悪魔に命令できたのは、やはりあなたが眷属の長だからですか?」
「当たり前だ。あの程度のヤツなら我の命令に逆らえん」
ほう、これはいい事を聞いた。しかし、コイツ本当に魔神なんだろうか? 簡単に話してくれるようになっちゃったぞ。いつも威張ってる町内会のおっちゃんみたいな気さくさだ。
「ま、まぁ、今回のことは貸しにしておいてやる。ありがたく思え。引続き我の栄養源として励むがよい! ワハハハハハ!」
精一杯の虚勢を張っているのが、口調からだけでもよくわかる。力を失って、威厳までも失っていた訳だから仕方がないか。少しでも威厳を保とうとする皇帝の悪魔が、何だか微笑ましく思えてきた。確かに、力を完全に取り戻したら、危険な存在になるのかもしれない。でも、コイツが悪逆非道を行なうところを想像できないよ。
「そういえば、私の中の獣王も悪魔ですけど、それとはどういう関係なんですか?」
「獣王か……うむ、実はアイツは昔からよくわからんのだ」
「へぇ、あなたでもわからない魔族がいるんですね」
「ぐっ……まぁよい。魔界の支配者たる我でもわからぬ事があるくらい、魔族は奥が深いのだ。魔族の深淵を思い知ったか! フハハハハ」
いや、それ、お前が凄いんじゃないから。自分で作った世界に翻弄されちゃう”お馬鹿な神様”だって告白しちゃったようなもんだから。
「……むっ?! この家にはもう1体、魔族の匂いがあるぞ?」
「どこにですか?!」
おいおい、もう魔族は勘弁して欲しいぞ。ここは人間の世界なんだ。そんなに魔族がポンポン出てきていい場所じゃないだろ。コイツが呼び寄せてるんじゃないだろうな?
「1階の東側奥だ」
「わかりました、行きましょう」
東側の奥といえば、ビスマイトさんの工房だ。そんなところに悪魔がいるのか? まさかビスマイトさんに悪魔が憑依してるなんてオチは、絶対にやめてくれよな。
マッチを擦ってランプをつける。オレンジ色の光が柔らかく辺りを照らす。今日はビスマイトさんも夕食を取ったら直ぐに寝てしまった。夕食時から例のウイスキーを結構なペースで飲んでいた。今頃はぐっすり夢の中だろう。
工房に辿り着くと、左腕の悪魔がまた喋り出した。
「確かに感じる。……武器の中のようだぞ」
武器の中? どういう事だ。あ、そうか……ここにきて思い出した。たぶん俺が作った魔剣だよ。あの魔剣の中に、きっと獣王の力が入っているんだ。だから反応したんだろう。
「それは、獣王の力ですか?」
「……違う。ほれ、その目の前にある大きな武器だ」
左腕の言う方を見ると、それはそれは巨大なバトルアックスがあった。ビスマイトさんは、武器なら何でも作れる。剣が一番得意なのだけど、斧やスピアなんかもたまに作っている。でも……こんな巨大なバトルアックスを見るのは初めてだ。柄まで入れると俺の背丈を軽く超える。重さは想像もつかない。一体なんの冗談かと思うほどの大きさだ。こんなのを振り回して、まともに戦えるヤツがいるのだろうか? それとも祭礼や儀式用の飾り物だろうか。
「ほう……これはこれは。珍しいヤツが出てきたな」
「何の悪魔なんですか?」
「金剛精だ」
「こんごうせい?」
左腕の悪魔によると、金剛精とはその名の通り、元々は精霊だったそうだ。それがいつの間にか魔界に住むようになり、完全に悪魔になってしまった珍しい存在らしい。
「その斧に触れてみるがいい」
俺は言われるがままに、斧の刃の部分に右手で触ってみた。すると不思議なことに、刃を掴むことができない。指がすり抜けてしまう。まるでホログラム相手に触れようとしている感じだ。
「……何ですか、これは」
「そいつが宿った武器は、所有者が狙ったモノしか斬れないのだ。驚いたか! フフン」
これはなかなか面白い武器だな。
「でも”所有者”って誰ですか?」
「決まっておろう。魔界の覇者たる我の武器だ」
「正確には”元”覇者ですね」
「う、うるさいっ! ともかくその武器、金剛精は元々我のものだ。それを誰かが盗んでいったのだ!」
なるほどな。魔界を追われた時に、武器も奪われてしまったのだろう。……ということは、
「ヨイショっと」
俺は左腕で冗談みたいな巨大な斧を掴んで、持ち上げてみた。すんなりと持つことができた。やっぱり元持ち主が宿った左腕なら、軽々と持ち上げられるんだ。これはなかなかいい感じだ。大きいのに重さがほとんどない。まるで、スカスカのバルサ材でできてるみたいだぞ。試し斬りをして切れ味を確かめたいところだけど、こんな夜中にブンブンと巨大な斧を振り回したら、皆を起こしてしまう。
「カミラ、こんなところで何をしている!?」
ふと後ろを見ると、寝間着姿のビスマイトさんが立っていた。どうやら起こしてしまったみたいだな。
「おぉ、信じられん。まさかその斧を持つことができるとは……」
ビスマイトさんによれば、この斧はメンデル城の地下研究所の最下層から発見されたらしい。誰が運び込んだのか、そしていつからあるのかもわからない、謎の品だったらしい。人間は掴むどころか触れる事すらできない謎の一品だったそうだ。特殊な鎖で繋ぎ、やっとのことでブラッドール屋敷へ運び込まれたとのことだ。
ここへ持ち込まれたのは、ビスマイトさんが斧の解析を依頼されたからだ。まぁ、魔剣というか”魔斧”というべきなんだろうけど、左腕くんのおかげで謎が分かってしまったな。
だけどどうして魔界の超珍品が、メンデル城の地下なんかにあったのだろうか? 入ったことはないけど、あの城の地下も相当謎が多いからなぁ。まぁいい、俺が王に即位できたら、いろいろ教えてもらおう。
とはいえ、この斧はかなり便利に使えそうだ。左腕との相性も良さそうだし。ちょうどビスマイトさんの長剣は、レイさんに粉砕されてしまった。申し訳ないけど、これを俺専用に使わせてもらうとしよう。
「お父様、この斧は魔剣の一種のようです」
「そ、そのようだな……カミラが持てるということは、人間のものではないのだろうな」
「お願いです、これを私にくださいませんか?」
「それは元々、ディラック様から依頼された品だ。騎士団長様に聞いてみるといい」
「ありがとうございます」
後日ディラックさんにお願いすると、あっさりと貰いうけることができた。といっても、これほど巨大な武器だから、普段から持ち歩く訳にはいかない。大規模な戦闘や戦争にでもならなければ、当分出番はなしだろうな。鍛冶師コンテストの試合では、ビスマイトさんの短剣と、魔剣化している俺が作ったあの剣を使うとしよう。




