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第53話 パーティー騒動(2)

 パーティー会場は、ハッブル屋敷の地下だった。地下1階がぶち抜きで大ホールになっている。ホームパーティーだというので、集まってもせいぜい数十人だと思っていた。だが、開始30分前だというのに、会場には軽く見積もっても100人以上がいる。ホームパーティーというには、いささか規模が大きいようだ。ホテルの立食パーティーの雰囲気に近いだろう。俺が経験した大きなパーティーなんて、親戚の結婚披露宴くらいしかない。


 ……どうして俺が早めに到着したか。


 それはもちろん、不安だからだ。


 場所の勝手もわからず、雰囲気も察することができない。であれば、場の空気を掴むためにも早目に到着しておきたい。受付付近に居れば、どんな人間が参加するのか、素性も事前にわかる。特にエルツ家の人間がいた場合は、注意しなければならない。


 受付まで行くと、そこにはマイヤー坊ちゃんと係の使用人たちが、打ち合わせをしているようだった。


「マイヤーさん、こんばんは。今日はよろしくお願いしますね」

「カッ、カカッ、カミラ殿。なんと今日は大胆な! 普段の美しさがさらに際立っていますね!」


 ……え? パーティーに参加する女性は、みんな俺みたいな服装じゃないのか?


 会場に集まっている女連中を見て、俺は力一杯後悔した。そう、俺のドレスの露出度はまったく場違いだった。参加者は城で国王に謁見するような、ピシっとしたフォーマルな服を着てる。おのれ……謀ったな、レンレイ!


 俺がジロリとレンさんの方を見ると、彼女はすかさず「マイヤー様、私達は裏方としてお手伝いさせて頂きますね」とそそくさと厨房の方へ消えて行った。


 なんという手際の良さ。さすがの回避力だ。


「あ、お友達は良いのですか?」

「え、ええ……あの者たちの事は、気になさらないでください」

「は、はぁ。ではお言葉に甘えて手を貸してもらいます。ですが、カミラ殿、皆さんにそのお姿をご紹介させて頂いてもよろしいですか?」

「は、はい」


 勢いに負けて返事をしてしまった。いかん、今日はこっそりと隅で酒をチビチビやる作戦だったのに……。


 マイヤーさんが俺の手を取って会場へ入ると、それだけで人ごみが割れ、道ができた。モーゼじゃあるまいしと思ったが、本当にみんなが整列していた。もちろん主催のマイヤーさんが現れたからだろうが、全員がこちらを見ている。マイヤーさんと俺は、モーゼ街道もとい会場の道を進み、拍手を浴び続けた。おいおい、これじゃまるで結婚式じゃないか。夫婦だったら完全にノミの夫婦だ。俺の方が頭1つ以上身長が高い。


 部屋の一番奥まで辿り着くと、小さな踏み台があった。ここに登って話すというわけか。マイヤー坊ちゃんは俺の手を取ると、台へ乗るようにエスコートしてくれた。


「我がご友人の方々、今宵はお越しいただきありがとうございます。本日の特別ゲストをご紹介しましょう。私の親愛なる新しい友人、カミラ殿です!」


「「「……おおーーーっ!」」」


 少しの間があって、会場からどよめきの声が上がった。そしてゆっくりと拍手が鳴り響き、次第に大きくなっていく。やがて拍手の音が最高潮に達する。だが、止むどころかそのままずっと続いていた。


 その後はもう、なし崩し的に飲み食いが始まってしまった。まだ開始時刻になってはいない。当然あのマーガレットの姿もない。


 何だよ、これじゃ俺の計画が台無しじゃないか。でも、ナイトストーカーの計画を阻んでいることにはなるのか。……う、何だかよくわからなくなっている。一旦ブレイクして、頭を冷やす必要がある。


 俺はトイレという鉄板の言い訳を持ち出し、マイヤー坊ちゃんの隣から何とか脱出することができた。ふう、これで一安心だ。


 会場の端まで移動し、一息入れようとしたその時だった。


「初めましてぇー」


 極彩色の派手派手なスーツを着た男が、ワイングラス片手に寄って来た。見たところ貴族っぽい堅さはないな。ナヨナヨしてはいるが、眼光は鋭い。


「初めまして、カミラといいます」

「私はソルト=エルツ。今の肩書きは貴族議員……ま、ツマラナイ仕事よ、アハハハ」


 ……なんと、エルツ家の人間か。しかも、現役の貴族議員が来ているとは。まぁ、議会の半分は今やエルツ家かそれに類するメンバーだから、貴族議員であれば、大体半分の確率で敵側の勢力ということになる。


 しかしこの男、これで貴族なのか? しかも議員という要職にあるという。だが、見た目は完全に遊び人だ。雰囲気も喋り方もハッキリ言ってそれらしくない。貴族特有の威厳や品位みたいなものが、まるで感じられない。


「それで、あなた……下の名前は?」

「下の名前?」

「ファミリーネームよぉ」

「シ、シュタインベルクといいます」

「シュタインベルクぅ? ……メンデルの貴族じゃ聞いたことない名前ねぇ」

「え、ええ。私は貴族ではありませんから」

「あら、そうなのぉ? マイヤーがエスコートするくらいだから、てっきり貴族なのかと思った」

「申し訳ありません」

「……それにしても、シュタインベルクねぇー。確か中央王都の古ーい貴族で、そういう有名な一族がいたけどねぇー」


 俺は咄嗟に、シャルローゼさんの姓を借りて誤魔化した。だが、相手はお見通しだったようだ。それにしても、中央王都で取り潰された貴族の名前まで知っているとは……社交界というのは、俺が思っている以上に狭い世界なのだろうか。メンデルだけでも、相当数の貴族の家がある。全部覚えるのは至難の業だ。この男、まさか中央王都との繋がりがある、なんてことはないよな?


「ふーん、まぁ、マイヤーのお気に入りならせいぜい頑張ればぁ。アハハハ」


 ソルトと名乗る男は、髪をかきあげながら俺から離れて行った。行き先はマイヤー坊ちゃんのところだった。


 ……冷や汗がたくさん出そうになったが、何とか難敵を避けることが出来たようだ。


 さて、では当初の計画通り、人目を忍んで酒を取りに行く事にしよう。パーティーといえば酒だ! 酒を飲まずしてなんとするのだ!


 しかし俺のこのささやかな計画は、即座に打ち砕かれてしまった。


「カミラ様、未成年がお酒なんて飲んではいけませんよ。はい、こちらをどうぞ」

「……これは?」

「白ブドウのジュースです」


 なんだよ! 白ワインかと思って一瞬期待した俺がバカだった。


 パーティーの裏方に徹していたレンさんが、いつの間にかすっかり俺のお目付け役になっている。おのれっ! ドレスの事といい、酒のことといい、レンさんに尽く先手を打たれている。この場で、酒が飲めないなら、後は何をすればいいのだろうか……。


 ふと、マイヤー坊ちゃんと話すソルトの方を見ると、奇妙な動きが目に付いた。何だろうか? ここからだと遠くてよく見えない。俺は少しだけ獣王の力を発動させた。これで体の感覚が飛躍的に向上する。当然、視力もかなりのものになる。


 じっと眼をこらしてみると、ソルトがスーツの袖口から小さな紙に包まれた粉末を取り出し、ワイングラスに入れている。そしてそのグラスをマイヤー坊ちゃんに勧めている。


 おいおい! まさか毒殺か?! ここに招待しているゲストは、皆ハッブル家と親しくしている者たちだ。貴族も例外ではないハズだ。危害を加える理由はないだろう。もし万が一、殺害を企てたとしても、わざわざリスクの高い人前でマイヤー坊ちゃんを暗殺する理由はないだろう。


 俺が考えているうちに、マイヤー坊ちゃんはあっという間にグラスを空にしてしまった。見た目に変化はない。談笑が続いている。顔色も普通だ……。ふむ、毒ではなかったようだな。ひとまず凄惨な事件にならなくてよかった。


 酒も飲めない、迂闊に話をする訳にもいかなくなった俺のすることと言えば、食べることだけだ。だが、さすがはお上品なパーティーだ。食べ物が少ない。ほんの少し嗜む程度の料理しかない。この場は社交が目的であって、飲み食いが目的ではない。俺のような餓えた獣のような食べ方では、きっと全員分を30分で平らげてしまうだろう。くそう、これではまったくやることがないじゃないか。


「カミラ様、マイヤーさんが動かれますよ」


 レンさんが、俺の脇腹突いて小声で話しかけてきた。確かにマイヤー坊ちゃんが、席を外すところだった。まぁ、トイレか何かだろう。


 ……しかし、10分経っても20分経っても戻ってこない。まさか、ソルトの飲ませた謎の粉、あれは遅効性の毒だったとか、そういうオチはないよな。ここは彼の屋敷だ。廊下やトイレで倒れていたら、直ぐに使用人たちが気が付くはずだ。


 パーティーの主賓が長い間不在なのもあまりよくないが、あのソルトという貴族の動きも気になっている。さっきからずっとこちらを見て、ニヤニヤしっぱなしなんだよね。気持ちが悪い。蛭のようなねっとりと絡みつく視線だ。


「レンさん、ちょっとマイヤーさんを探してきます」

「では私も参ります」

「いえ、レンさんはあのソルトとかいう貴族を見張っていてください。どうもあの男、悪い予感がしてなりません」

「かしこまりました」


 俺は以前訪問した記憶を頼りに、ハッブル屋敷を歩き回った。幸い、使用人の何人かが俺の顔を覚えていてくれていた。おかげで、マイヤー坊ちゃんの寝室までの経路を直ぐに知ることができた。この目立つ特徴的な体も、時には役に立つ。


 マイヤー坊ちゃんの寝室の前に立つと、ドアの向こうから声が聞こえた。男女2名の声だ。男の声はマイヤー坊ちゃんだ。女の声にも聞き覚えがある。……マーガレットだ。

 

 なるほど、マーガレットはパーティーすらすっとばして、マイヤー坊ちゃんを寝室に押し込めて襲っていたのか。大胆かつわかりやすい直球勝負だ……。直球しか投げないこの俺でも、なかなかできないストレートな一球である。


 だけど、どうしたものだろう? 他人から見たら、今の俺は上流階級のスキャンダルに首を突っ込んでいる野次馬でしかない。悪いが人のゴシップを楽しむ趣味はない。ワイドショーのレポーターなら、嬉々として突撃してしまうのだろうが……。


「マ、マイヤー、ちょ、ちょっと待って!」

「オオォ! ゴオォォォっ!!!」


 おっと、2人とも上手くいきそうじゃないか。ちょっと激しすぎる気もするが、それだけお熱い仲になったのだろう。できれば早々にここから退散したい気分だ。


「はぁ、馬鹿らしくなってきた……」


 俺はそう呟いて、ドアの前を去ろうと踵を返した。


 その時、突然頭の中に声が響いた。


『獣王様、失礼いたします』

「ヴァルキュリア?! 何かありましたか?」


 念のため、この屋敷上空をヴァルキュリアに巡回させていた。参加者の中に、怪しい人間が居ないかどうかチェックさせるためだ。


『派手な極彩色のスーツを着た男が会場に入って行きましたが、お会いになられましたか?』

「ええ、エルツ家の人間でしたよ」

『やはり……あの男、見覚えがあります。獣王様がエランド領で襲われる前に、コソコソやっていた人間に間違いありません』


 何だと! あの”謎のフードの男”か?!


 ……ということは、あの派手貴族、エルツ家の中でも中枢である宰相に近い人間なのかもしれない。しかも実行部隊を兼ねている。


 あの独特の貴族らしくない振る舞いに惑わされていた。何も考えずに、貴族の生活を楽しんでいるただの道楽者かと思っていた。自分の勘をもっと信じた方がよかったかもしれない。黒幕である超危険人物が、今まさに近くに居るのだ。


 しかし、わざわざ黒幕である彼が、危険を冒してまでやって来て、何もしない訳はない。


 直ぐに思い当たるのは、マイヤー坊ちゃんに飲ませた、あの謎の粉薬だ。あれは一体何の効果があるのだろうか。少なくとも、即座に体にダメージを与える毒ではない。今マイヤー坊ちゃんが、この扉の向こうで、元気溌剌と”いたしている”のがその証拠だ。


 扉の向こうからは、ずっと激しい唸り声が聞こえている……。


 うん? いや、よく聞けば唸り声しか聞こえない。しかも、段々と声が人間離れした凶暴なものになっている。まるで凶暴な獣のようだ。果たして、人間にこんな声が出せるのかと疑うレベルだ。しかも、マーガレットの声が一切聞こえなくなった。


 まさか、あの粉薬のせいか?! ええいもう自棄(やけ)だ! どうにかなるだろう、突入だ!


 ドアを蹴破って寝室の中に入ってみると、想像を越えた光景があった。


 マーガレットが、白目を剥いて床に倒れていた。ほとんど裸だ。服は破かれ、体には痣が出来ている。引っ掻き傷や小さな切り傷も多数ある。これはどういうことだ? そして、肝心のマイヤー坊ちゃんは何処へ行ったんだ? 部屋の中には倒れたマーガレットしか居ない。何か危険な気配を感じる。


「グルルゥゥゥーーーーッ!」


 ――― 天井の方から大きな唸り声が聞こえてきた。


 目を上に向けると、そこにはマイヤー坊ちゃんが、全裸で天井に張り付いていた。この寝室の天井は決して低くはない。しかも人が掴まれるような突起もない。それなのに両手足を天井に着き、四つん這いの状態から顔だけをこちらを向けている。まるで無重力のトリックを見ているようだ。


 いや、よく観察してみれば、両手足が少し天井にめり込んでいる。つまりマイヤー坊ちゃんは、すさまじい怪力で天井に逆さまに掴まっているのだ。


 ……一体これはどういう状況なんだ。あの非肉体派の坊ちゃんが、実はとんでもないモンスターだった、なんていう超展開なのだろうか。


「アオォォォォォォーーーーーーン!」


 マイヤー坊ちゃんは、天井からするりと降り立ち、まるで狼のような遠吠えを上げた。その眼は黄色く濁り、尋常ではない鋭さだ。口からは涎が大量に溢れている。だが、ワーウルフや吸血狼ではない。彼らは狼としての振る舞いと共に、体毛が生えて牙も大きくなる。目の前のマイヤー坊ちゃんは、明らかに人間の姿のままだ。


 おそらくマイヤー坊ちゃんがマーガレットを襲い、気絶させたのだろう。このとんでもない状況を作り出した答えは……あの粉薬のせいだろうな。あの薬に人間を凶暴化させ、正気を失わせる効果があったと推測するのが妥当だ。しかし、目的は何だ?


 俺が考えを巡らせていると、凶暴化した全裸のマイヤー坊ちゃんがとびかかってきた。まるで餓えた獣のようだ。


 俺の体を噛もうとして口を近づけてくる。思わず拳を入れてしまった。顔面に一発綺麗に吸い込まれていった。これは効いたはずだ。歯も何本か折れている。


 だが予想に反して、坊ちゃんはケロりとしていた。一瞬不気味な笑みを浮かべると、直ぐにまた凶暴な顔つきになる。


 今度は俺の周りを回り始めた。なぜか四つん這いだ。それにもかかわらず速い。むしろ、二足歩行よりも四足歩行の方が動きやすそうに見える。


 散々グルグルと回った後、再度飛びかかってきた。今度はそのまま体ごと受止め、彼の両手を掴んで押さえつけた。


「マイヤーさん! 正気に戻ってください!」


 彼の耳元で思い切り叫んでみた。


「ガアァァァーーー!」


 しかし、暴れるだけでまったく言葉が通じていない。あの小柄でナヨナヨした坊ちゃんが、今は凄まじい怪力を発揮している。


 左腕の義手がギシギシと音を立てはじめた。耐久の限界が近いのかもしれない。今、この義手に外れられるとまずい。俺の方が身長でかなり勝っているので、なんとか体重で抑え込めてはいるが、この分では直に跳ね除けられてしまいそうだ。


 仕方なく、彼の腹に蹴りを入れて引き剥がした。だが、彼の体は後ろに吹き飛ぶどころか、空中でくるりと回転してベッドの上に着地すると、間髪入れず弾丸のように俺の方へ突っ込んできた。


 彼を全身で受止める。さすがの俺も、勢いに負けて床に倒れ込んでしまった。彼に上からのしかかられる体勢だ。


 ……これは、もしやマウントポジションというヤツでは?


 案の定、俺の顔へ向かって左右の拳が次々と打ち下ろされ始めた。最初は何とかブロックすることができたが、完全に力負けしている。このままでは、彼にタコ殴りにされてしまう。やむをえない、獣王の力に頼るしかないな。


 だが次の瞬間だった。彼のパンチが突然止んだ。


 どうしたのだろう。別の攻撃にスイッチしたのだろうか?


 よく見ると、完全に正気を失ったマイヤー坊ちゃんは、その涎まみれの凶暴な顔を、俺の両胸に埋めていた。フガフガと口から空気を漏らし、妖しく蠢いている。心なしか目が笑っているようにも見える。


 ……ダメだ。気持ち悪すぎる。


 俺は躊躇なく獣王の力を発揮し、マイヤー坊ちゃんを引き剥がした。そして鳩尾にパンチ一閃。彼は嘔吐しながら部屋の端まで吹き飛んだ。そして、自分の大量の吐瀉物の上に倒れ込んだ。


 あら……ちょっとやり過ぎてしまったかな? そこそこ手加減はしたつもりだけど、ちゃんと生きてるだろうな? 万が一ここでハッブル家の当主を殴り殺してしまったら、大事になってしまう。


「あのー、マイヤーさん? 大丈夫ですか?」


 嘔吐してゲロまみれになった、全裸の坊ちゃんに手を掛けて、揺すってみた。


「あ、アレ? ……一体私はどうしたんでしょうか?」


 彼はゆっくりと体を起こし、俺の方へ顔を向けた。その眼はいつもの陰気なマイヤー坊ちゃんだった。よかった、正気に戻ってくれたようだ。


「マイヤーさんは、悪い夢を見ていたのです。気になさることはありませんよ」


 俺は精一杯、誤魔化しの言葉を掛けた。また直ぐに彼は瞼を落とし、ドシャりと音を立てて、床に突っ伏してしまった。よく見ると、スースーと寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。


 あれだけの怪力を出して、無茶な動きをしたんだ。きっと肉体の疲労も限界を超えているのだろう。急な眠気も体の正常な反応なのかもしれない。


 しかし、この状況は惨憺たるものだ。マーガレットは裸で負傷して倒れているし、天井に穴は開いてるし、マイヤー坊ちゃんは全裸で吐瀉物まみれで寝てるし……。はぁ、もうため息しかでない。


 ふと人の気配を感じた。入口の方を見ると、そこに入って来たのはハッブル家の使用人さん達だった。


「あの、これは……何が起きたのですか?」


 それは俺の方が聞きたい。大体想像はつくけど、事実関係を明らかにしてナイトストーカーがマイヤー坊ちゃんを籠絡する真の目的を把握したいところだ。


「いえ、私も先ほどここに来たばかりで……」

「まぁ! 大変!」


 ハッブル家の使用人達が続々と集まり、坊ちゃんを介抱し始めた。


 少し可哀想なのは、マーガレットだ。誰にも見向きもされず、放置されている……。とはいえ、彼女もナイトストーカーの立派な幹部だ。見たところ呼吸は正常、心拍も十分強く感じられる。意識さえ戻れば、自力で何とかするだろう。それよりも、今は早くこの場を離れた方がいいような気がする。

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