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第23話 吸血姫王カーミラ

 俺は1人剣を担ぎ、ミッドミスト城まで戻った。城門に辿り着いた時には、すっかり日も暮れ、夜の帳が水平線に向かって落ち始めていた。吸血鬼目覚めの時間だ。ここからはバンパイアロードのエンペラータイムという訳だ。


 レイさんが開けた城門には再び鍵が掛けられ、しっかりと閉じられていた。まずい……。俺に鍵開けのスペシャルスキルはないぞ。


 面倒なので、城門ごとぶった切って突入することにした。集中力を高め、再び戦闘モードに入る。右肩に乗せた身長よりも長い剣を、分厚い鋼鉄の城門目がけて振り下ろした。剣というより、ほとんど斧のような無茶な使い方だが、この剣の能力、そしてビスマイトさんの技術力を試す意味でも、どういう結果になるのか興味があった。


 剣は門へと綺麗に吸い込まれ、何の抵抗もなく切り裂くことができた。プリンにスプーンを入れるが如く、大きな城門は真っ二つになった。


 さすがビスマイトさんの技術の結晶だ。この剣には名前を付けてあげた方がいいな。城門を斬れるくらいなので、”キャッスルゲート・スラッシャー”とかどうだろう。それよりも”ロード・キラー”とかの方がカッコいいかも。まぁいいや。まずはヤツを斃さないと剣の格も上らない。


 切り裂いた門をくぐり、再び城の前庭に入る。陽が高かった時とは、かなり雰囲気が違っているな。夜は、さらに禍々しさと神秘性が増している。


 庭を進むと、人影があるのに気が付いた。はて、気配は感じなかったのだが……。


「誰ですか?」

「それはこちらのセリフだ。門を破壊して我の住処に無断で立ち入るとはいい度胸じゃ。配下の者どもも、だいぶ世話になったようだしの、クククッ」


 ハイ・バンパイアを”配下”という……。ということはもしかして、いきなりボスキャラさん登場なのだろうか。夜の散歩ならぬ、朝の散歩のために庭に出たという感覚なのかもしれない。話が早くていいけどね。


「あなたは、吸血鬼の王、カーミラ=シュタインベルク?」

「そうじゃ。人間にはバンパイアロードなどと呼ばれておる」


 俺はちょっと面喰っていた。ケッペンから聞いた話だと、カーミラの外見は小柄な10代後半の少女である。だが、今俺の前に立ってるカーミラは、どう見ても20代半ば過ぎの大人の女性である。身長も高い。170cm代後半くらいだろうか。


 モデル体型の秀麗な美人だ。まるで優れた彫刻家の名作が、そのままレリーフから飛び出て来たような錯覚に陥る。だが、どうもケッペンの話の中のバンパイアロードとは違う気がする。まさか、とは思うが……。チャラ男のヤツ、一杯喰わされている可能性が高いな。


「私の名前はカミラ=ブラッドール、あなたを斃しに来ました」

「……フハハハッ、こいつは愉快だ、実に愉快だ! こんな楽しい気分にさせられたのは、1000年ぶりじゃのぉ」


 話し方が古い感じがする。まぁ何千年も生きてれば、それも仕方がないよな。人間だったらお婆ちゃんどころか、土に還っている年齢だからな。


「何が愉快なのですか?」

「お主の名前は、カミラ=ブラッドールではない。アリシアじゃ」


 ん?……。アリシアだって?! それは俺の夢の中に出て来た、この体の持ち主の名前じゃないか。確かフルネームは……


「そうじゃ、アリシア=アウスレーゼ=エランドが、お主の名前じゃったはずだがのぉ」

「なぜその名前を知っているのですか?」

「フン、時が経って己の名すら忘れたか?」


 間違いない。コイツはこの体の持ち主の事を知っている。一体どういう関係だったのだろうか?


「忘れました。教えてください」

「よかろう。たまには昔話も面白かろうて。我は400年前、エランド王国の研究員じゃった。お主の父、エランド王に秘密裏に依頼され、ある病について研究しておった」

「……ある病?」

「お主の母親の病じゃよ。体が次第に金属化していく、極めて珍しい病じゃの。我もその病に興味があったのでな。依頼を受けることにした」

「それで、私がどう関係してくるのですか?」

「お主はその血を受け継いでいる。つまり親から子へ遺伝する病ではないかと思っての。お主も何度か調べさせてもらった。ま、我から見れば家畜の疫病調査のようなものじゃ」

「でもそれは400年前の話ですよね? 私は人間です、吸血鬼ではありません。400年も子供のままというのはあり得ません」

「カカカッ、だから愉快なのじゃよ。お主がどうしてまだ生きているのか不思議でならぬ。母親の病と何か関係があるのかもしれぬな。エランドの家系は、余程面白い人間が揃っておるな。妹といい、お主といい……。まぁよいわ、生きたままお主を解体して調べることにしよう」


 ムムム、頭が混乱して来たぞ。どうにも時間軸がおかしい。兎にも角にも、この体の秘密は滅んでしまったエランド王国にありそうだな。それに今、すごく重要な事を言ってなかったか?


 とのん気に考えを巡らせていたら、物凄い瘴気を纏った美しい彫像が正面から迫って来た。俺はすぐさま剣を構え、集中する。相手は素手だ。剣の間合いの方が遥に長い。懐に入られなければ、まず負けることはない。


「お主、やはり変わったヤツじゃの」


 ぽつりと呟くと、バンパイアロードは凄まじい速度で剣の間合いに入って来た。速い。デスベア級の速度だ。これは危ない。バックステップして距離を取るが、相手も綺麗に同じ分だけ距離を詰めて来た。移動速度もハイ・バンパイアとは比べ物にならない。


 正直、ここまでの速度とは予想していなかった。いつか見たデスベアの全力ダッシュ攻撃よりも速い。簡単に懐に入られてしまった。これが長年生きたバンパイアロードの実力なのか。


「クッ」


 俺はカーミラの拳撃を防ぐだけで精一杯だった。この間合いで長剣は不利だ。短剣やナックル系の武器ならともかく、剣を振りかぶる間に、致死性の拳が何発も撃ち込まれてくる。もし、フルアーマー型の鎧を着ていたら速度について行けず、ローリエッタさんの二の舞になっていただろう。今は男の欲望丸出しな鎧に感謝だ。


 カーミラの拳の力を利用して、さらにバックステップし、思い切り距離を取った。これで少しは剣の出番もあるだろう。右肩に剣を乗せ、左肩をカーミラの方へ向け、半身の姿勢を取る。ヤツが間合いに入ったら剣を思い切り打ち下ろす。それだけだ。


 カーミラは躊躇なく剣の届く距離まで入って来た。こちらもためらわずに剣を振る。だが、剣が当たる瞬間、彼女の体は霧になった。そして剣が抜けると、また元の体に戻っていた。


「速さと力はまぁまぁじゃが、攻撃が単純じゃの。つまらん」


 そうか。吸血鬼の能力に”霧に変化する”というのがあったな。小説で読んだ話だけどね。


 そして拳撃の雨あられ。どれもこれもとてつもない重さの拳だ。1発でもまともに喰らったら、間違いなく死に至る。正直、これは勝てそうもないな。俺の攻撃は霧になってかわされ、あちらの攻撃はすべてが必殺だ。伝説をちょっと甘く見ていた。


「ほれほれ、まだ本気を出しておらぬのか?」


 挑発するようにカーミラがわざと隙を見せる。それに乗って俺が剣を振るうと霧になって剣をかわす。これでは、デスベアの血の力を発揮するまでもなく、やられてしまう。勝ち目のない消耗戦。ジリ貧だ。


 ついにカーミラの拳が俺の腹部にヒットした。激痛を感じながら体が大きく宙を舞う感覚があった。城壁近くまで飛ばされた俺の体は、たった一撃でボロボロになってしまった。とはいっても、例の再生能力のおかげで直ぐに立ち上ることができた。


 だが、カーミラはもうすぐ目の前にいた。


「その再生能力。吸血鬼並じゃの。なぜ人間がその力を持っておる。興味深い……」


 強烈な蹴りが彼女から放たれた。かろうじて剣でブロックした俺は、吹き飛ばされて城壁に強く叩きつけられた。この体がいくら軽いとはいえ、サッカーボールのようにポンポン蹴り飛ばすこの力は想像以上だ。


 恐らく背骨と肋骨が持って行かれた。内臓の損傷も致死レベルだろう。再生能力をフル稼働させて対応する。


「ほう、まだ死なぬか。かなりの再生能力じゃ」


 カーミラは、実験動物を観察するかのように冷静な表情で言い放った。


 ダメだ。力はさほど差がないのかもしれないが、実戦経験が違い過ぎる。これまでは力任せでなんとかなってきたが、地の力が拮抗して来ると、積み重ねた経験と技が物を言う。


 俺の首に彼女の手が掛けられた。片手で首を絞められ、そのままつり上げられた。


「では心臓を抜かれても再生するか試してみようか?」


 彼女は俺の胸部に貫き手を放った。心臓に到達するまで深々と右手が刺さっている。常人なら確実に即死だ。


 大量の血が辺りにまき散らされる。カーミラの顔が俺の返り血でまみれ、真っ赤に染まっている。これだけたくさん俺の血を浴びても、彼女に変化はない。ということは、デスベアの血もバンパイアロードには通じないということだろうか。


 だが、間もなくして彼女に異変が起きた。顔が溶けだしたのだ。


「ガゴァァァーーー! 何じゃこれは!? お主、一体何をした!?」


 彼女は俺の首から手を放し、両の手で顔を覆って地面をのたうち回っている。


「貴様は一体何者じゃ!? 高位聖水すら効かぬ我の皮膚が溶けている。どういうことじゃ!」


 彼女が苦しんでいる間に俺の傷口は塞がり、心臓も再び鼓動を始めた。危なかった。さすがに即死コースはまずい。意識を失っていたら、再生しなかったかもしれない。


「私の血は死の獣王と同じものらしいです」

「そんなはずはない! あの血はデスベア以外には受け付けられぬのじゃ! 我も研究したことがあるが手に負えずに諦めたのだ……」

「でも私はこうして人として生きています」

「ぐうぅぅ、お主、もしかして”受入れ体質”か?」

「何ですかそれは?」

「ゴアァァァァァーーーーーー!」


 絶叫を上げながらバンパイアロード、カーミラは溶けて行った。もう少し詳しく話を聞きたかったが、消えてしまっては仕方がない。数十秒もすると、彼女は跡形もなく消え去り、服だけが残されていた。


 今回はデスベアの血に救われたが、内容的には大敗したも同然だった。もしカーミラが俺の意識を刈り取ってから心臓をくり抜いていたら、立場は逆だったはずだ。ほんの少しでも天秤が傾けば、俺は今、生きてはいなかっただろうな。まぁ……意識を失わず闘争心を維持できただけでも、御の字としようか。


 俺は庭にあった井戸で水を汲み、全身の血を落としたあとに、カーミラの服を回収して宿へ向かった。医者の話が本当なら、今頃ローリエッタさんは回復しているはずだ。


◇ ◇ ◇


 ローリエッタさんの部屋のドアをノックして声を掛ける。


「私です、カミラです。入ります」


 ドアを開けると、ベッドから半身を起したローリエッタさんがいた。顔色は元気そうだ。レイさんとディラックさん、そして町医者もいた。彼の言う通り、ローリエッタさんの精神面は回復しつつあるようだ。若いくせになかなか的確な知識を持った医者だな。やるじゃないか。


「カミラ殿! 無事にバンパイアロードを斃したのですね? 昏睡状態だったローリエッタが突然元気になったものですから、きっとバンパイアロードが滅んだのだ、と皆で話をしておりました」

「はい。なんとか勝つことができました。これがバンパイアロードが着ていた服です。討伐の証拠になると思います」

「これは……。確かに通常の服とは異なりますね」


 はて、俺にはただの服に見えるのだが、どこか変わったところがあっただろうか。


「ここにシュタインベルクの家紋が刺繍されています。しかも、服の材料が人間の皮と髪で出来ています。こんな恐ろしい物を作るのはヤツしかいませんよ」


 そうか、吸血鬼ってやっぱり人間を家畜と思っているんだな。人間も豚や牛の皮で服やカバンを作ったりするもんな。そういえば、ナチスの某は人間の脂で石鹸を作ったとか、人間の皮でランプシェードを作ったりとかおぞましい話もあった。


「お疲れでしょうが、ぜひ戦いの様子などお聞かせ願えませんか?」


 ディラックさんとレイさんの眼が輝いている。彼らも冒険者の経験があるので、モンスター討伐には興味があるのだろう。しかも相手があの伝説のバンパイアロードとなればね。俺も逆の立場なら根掘り葉掘り聞いちゃうよ。


 ローリエッタさんの方へ目線を向けると、彼女はただ呆然としていた。


「カミラ……殿、今回は命を救われました。なんとお礼を申し上げてよいやら」


 性悪女がやけに素直だ。なんだか調子が狂ってしまう。しかも子供扱いではない。名前を初めて”殿”付きで呼ばれた。


「とんでもない! 巻き込んだのは私の方です。危険な目に遭わせてごめんなさい。とにかくローリエッタさんが無事でよかったです」


 すると彼女は突然泣き出してしまった。困った。俺は女だが、女の気持ちまでは理解できんぞ。しかも、これじゃまるで俺が泣かせたみたいじゃないか。絵的には、俺の方がだいぶ年下なので事なきを得ているが、もしこれが日本で、俺が中年オヤジのサラリーマンだったら、パワハラかセクハラ容疑で訴えられてしまう。


 仕方がないので、俺は彼女にハグしてみた。よくわからんので、とりあえずというヤツだ。だがハグしてみて直ぐにわかった。彼女の体は小刻みに震えていた。そう、純粋に怖かったのだと思う。


 考えて見れば、普通の吸血鬼でも、冒険者は手を出すのを躊躇うレベルの相手らしい。ましてやその上位のハイ・バンパイアと人狼の群れに襲われたら、騎士といえども死を意識するだろう。


 これは後から聞いた話だが、ハイ・バンパイアを討伐する場合、騎士が100人以上かり出され、”討伐隊”が組まれるのが慣習となっているらしい。バンパイアロードの場合は、前例が少ないので慣習や決まりはないが、少なくとも1000人以上は必要だろうということだ。


 どちらにしても常識的に考えて、数人で戦うような相手ではないということらしい。逆に平常心でいられるディラックさんやレイさんが、異常なほど精神力が強いと思った方がいいだろうな。ローリエッタさんが普通なのだ。俺の基準は少しズレているかもしれない。


「大丈夫です。もう怖くありません。ハイ・バンパイアも人狼もバンパイアロードもすべて滅びました。安心して良いのですよ」


 子供の俺が、大人の女性を慰めるおかしな絵面だが、ローリエッタさんは、俺の胸で大声で泣き始めた。本当に怖かったのだろう。


「よしよし……」


 俺は思わず声に出してローリエッタさんの頭を撫でていた。

 それを見たレイさんとディラックさんが、驚いた顔をしている。


「カミラ様、まるでお母さんみたい!」

「さすがです。そのお歳で母性もお持ち合わせとは……」


 いや違うって。母性じゃなくてあるのは父性なんだって。……とほほ。


 ローリエッタさんが泣き止むまで、時間がかかったが、俺がなだめているといつの間にかスースーと寝息を立てていた。そのまま布団に寝かせ、隣の部屋へ移動した。


 そして、俺は包み隠さず戦いの様子を話をした。


「ふむ、なるほど。カミラ殿の出生と力の秘密は、旧エランド王国にヒントがありそうですね」

「はい。どうやらエランドが重要なキーワードようです」

「エランド語の読み書きもできますし、必ず何か深い繋がりがあるように思えます」

「そうですね。ただ、これ以上は調べようもありません」

「分かりました。ではエランド王国遺跡調査の名目で、調査隊を派遣しましょう」

「調査隊……ですか?」

「はい。大陸全土の動植物や遺跡、古文書、資源などを調査収集するのは、メンデル騎士団の重要な役目の1つなんですよ」

「そうなんですか? 騎士っていつも城に詰めているか、国境警備をしているのではないのですか?」

「もちろんそれもあります。ですが調査任務も重要なお役目とされています」


 さすが知識と技術の国だな。そうやって有用な物を集めさせているのか。諜報活動にもなるし、騎士の経験向上にもなるし、一石三鳥という訳か。さすがだね。


「でもエランドはいわばメンデルの一部ですよね? どうしてこれまで、深く調査されて来なかったのでしょうか?」

「私にもわからないのです。もしかしたら、近くの土地ほど国王や研究者の興味が薄い、という単純な理由かもしれないのですが、これまでエランド地方だけは避けるように調査が行われてきました」

「噂では、メンデル存亡に関わる重要な秘密があるんじゃないか、なんて言われて来たんですよね、ディラック様」


 そこにレイさんが、嬉しそうに横槍を入れて来た。女子の噂好きは、どの世界でも同じなんだな。


「レイ、カミラ殿にいい加減なゴシップを提供してはなりません!」

「……という事は、ディラック様が調査活動を進言しても、許可されない可能性があるのではないでしょうか?」

「その辺は大丈夫です。今は私が騎士団長です。隠密の調査隊を派遣する権限を持っていますから、国王陛下や議会の承認は不要です」


 おお、権力バンザイだ。これで何かわかるかもしれない。


「そこで提案なのですが……」

「何でしょうか?」

「カミラ殿も一緒に調査隊に加わりませんか?」

「ディラック様、何を仰っているんですか。カミラ様は仮にもか弱い女の子なんですよ。荒くれ者の騎士団の連中と野宿を何日も繰り返すなんてできません!」

「まぁまぁ、レイ、落ち着いて聞きなさい」


 いや、これは案外願ったり叶ったりかもしれない。実際に元エランド領にある城跡まで行ってみれば、記憶が蘇るかもしれないからね。


「説明が一足飛びで失礼いたしました。エランド地方は、今は未開の地のようではありますが、それゆえに風光明媚な観光地にもなっています。もちろん、一部の冒険好きな貴族だけがこっそりと入るような場所です。簡素ですが宿泊設備などもあります。それにもし、カミラ殿にご同行頂けるのであれば、我々にとっても大いに助かります」

「どうしてですか?」

「我々はエランド語の読み書きができません。でもカミラ殿がいらっしゃれば、遺跡調査の進み具合が、全然違ってくるでしょう。それと万が一、強力なモンスターが出てもカミラ殿なら一蹴していただける……」


 なるほど、理にかなっている。どちらかというと”利”にかなっているの方が近いな。俺も自分の目でエランドの遺跡を見れば、何か分かるような予感もしているし、一度は踏み入れないといけないと思っている場所だ。


「同行する騎士は、なるべく女性を選びます。宿泊可能な大型の馬車もご用意いたします。ご不便はお掛け致しません。どうかご一考ください」

「わかりました。お父様に相談してみます」


 椅子を立ち上がってディラックさんに近づこうと思った瞬間、ガシャーンと金属が床に落ちる音がした。うん……? 何だか腰回りがやけにが涼しいな。


「カ、カミラ殿、鎧が……あの、その、そのような大胆な……」


 自分の腰回りを見ると、シャルルさん作の鎧が金属疲労で壊れ、床に剥がれ落ちているじゃないですか!? バンパイアロードの攻撃をたくさん吸収してくれたからね。でも今壊れるのかよ……。ということは、つまり俺は今、下半身スッポンポンだよ!


「ディラック様、見ちゃダメですー!」


 レイさんが必死でディラックさんに覆いかぶさって、目を塞いでいる。


 その後俺が最も女の子らしい悲鳴を上げたのは、もう二度と思い出したくない黒歴史にカウントされている。


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