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第12話 尋問

 

 ドレスを巡るドタバタ劇の後、いよいよ本題の尋問となった。

 客間でそのまま尋問という訳もなく、ディラックさんの部屋へ呼ばれた。が、なぜメルクさんまでいるのだろうか?


「カミラちゃんはもう身内も同然です。たとえ相手が息子といえども、1人にはさせられませんからね」


 いやいや、そこは自分の息子を信じてやれよ。そういう厳しいところが、奥手のディラックさんを作ってしまったような気がするぞ。


「母上、これは仕事なのです。困りますから出て行ってください。私は今しがた国王陛下より、臨時ですが騎士団長の職位を受けました。この仕事は陛下よりのご命令なのです。わかってください」

「あら! 臨時とはいえ、ついにお前も騎士団長ですか。それでは、今まで以上にレディに無礼な振る舞いはできませんね。いいですか、カミラちゃんを悲しませたりするような事は、許しませんからね」

「十分わかっています、母上。私とてカミラ殿を詰問するのは辛い作業なのです。出来れば今すぐにでも、ゆっくりお食事にでもお誘いしたいのです」


 うーん、それはそれで俺にとっては辛いのだが……。


 さて、こうして親子で掛け合いをしている間に、何か良い案を考えておかないといけないな。


1、素直に全部話す

2、騎士達が目撃したのは人違いとシラを切る

3、黙秘


 これ以上は思いつかない。今回は目撃者が多すぎるからね……。さすがにとぼけ続けるのは難しい。といって全部話せば魔剣の事もバレかねない。そうなったらブラッドール家の危機にもつながる。やはり黙秘か。これもまたリスキーだな。きっと任務を果たせないディラックさんに迷惑を掛けてしまう。


「ではカミラ殿、まず私が城で見聞した状況と背景をお話しします」


 先に情報提示をしてくれるのか。ありがたい。それ自体がブラフってこともあり得るけどね。


 ディラックさんは、思っていた以上の情報をたくさん話してくれた。中には、明らかに国の機密に関するものもあった。


 話によれば、城の地下には貴族が管轄する研究機関があるという。もちろん、国を平和に保ち、繁栄をさせる大義名分で設立されている。世界中のあらゆるものを収集し、国力向上に役立ちそうなものを解析し、開発に活かすという。


 研究が最初に結びつくのは武器開発による軍事力強化だ。だが、それだけに飛び付かなかったのが、この国の偉いところである。武器は作るが、それを自国の武力とすると同時に、交易を通じて商業としても発展させようとしたのだ。


 つまり、鍛冶技術の向上と量産体制に重きを置いたのだ。もちろん、質の良い武器の輸出はリスクがある。敵になるかもしれない周辺国の武力向上に繋がるからだ。


 だがメンデルは少々違っていた。その圧倒的な鍛冶技術により、どの国にも真似できない高品位の武器を量産した。メンデルの武器を買わないと、各国の武力が保てない状況を作り上げたのだ。しかもメンデルは、大陸でも有数の鉄鉱石の産地でもある。


 メンデルの武器を保有していない国は戦に負ける。自国を守るためには、メンデルの武器を買うしかない。当然、メンデルを攻略して武器を独占すれば良い、と考える国が現れる。


 だがそこからがメンデル王の賢いところだった。メンデル侵略を企てた国の近隣国へ、安く大量に武器を卸すのである。その見返りとして、メンデルを攻めようとする国を牽制する裏取引を行うのだ。これで商業と軍事力を発展させつつ、他国にも攻められないという絶妙で都合の良いバランスを作り出しているのだ。


 メンデルの生命線は、豊富な鉱物資源と鍛冶技術、そして他国の動きや内情をいち早く察知するための情報網の3つである。産業の中心となる鍛冶職人が特別に優遇されているのは、そのためらしい。そして、鍛冶技術の基礎となっているのが、地下研究所の研究成果という訳だ。


「研究所には、触れてはいけないものが2つあります」


 ディラックさんは声を低くして言った。1つ目は”ブラッドールの魔剣”、そして2つ目は”死の獣王 デスベア”なのだという。


 最近その両方に触れてしまったけどね……。城で尋問されていたら、確実に即監獄行きだったな。冷や汗ものだ。


「ここからは、私が見聞した内容です。まず研究所で禁を犯し、デスベアを研究しようと封印を解いた者がいます。犯人は判明し現在投獄しております。封印を解かれ逃げ出したデスベアは、騎士団長、近衛師団長を含む騎士、約300人を殺害し、城内を暴れ回りました」


 騎士が300人も切り結んだのか。それにしてはあの熊、傷一つなかったな。いかに圧倒的な力の差があったかがわかる。


 ディラックさんは話を続けた。


「騎士達の犠牲により、城内訓練場にデスベアをなんとか追い込みましたが、手も足も出ず全員死を覚悟していました。そこに蒼いドレスを着た隻腕の少女が現れました。彼女は、熊の一撃を受けたにもかかわらず、致命傷を瞬時に治癒させ、バスタードソードを取って騎士達を逃がしました。その時、1名の女騎士を置いて行ったそうです。騎士達が応援を呼んで駆けつけると、デスベアが切り裂かれた状態で転がっており、女騎士は、服だけ残して消えていたそうです。そして、隻腕の少女も消えていました。残されていたのは、デスベアを切り裂いたと思われる剣のみです」


「……そうですか」


 俺は平静を装って感情を込めずに答えた。まぁ、やっぱりバレている。状況証拠が揃っている。


「残されていた剣ですが、魔剣化していました。紫色の光を放っていました。私も初めて見ましたが、危険ですので直ぐに城の地下へ封印しました」


 何だって! 俺が使った剣も魔剣になったというのか。おいおい、俺の正体は”魔剣製造機”だったのか? 最初から魔剣だったってことはないよな。拾い上げた時は光ってなかったし。これはますます形勢が悪い。


「これがその魔剣化した剣の柄です。剣を握っていた者の手の跡がくっきりと付いています」


 ディラックさんは俺の右手を取り、その柄の手の跡と合わせた。当然ぴたりと一致する。物的証拠も出てしまった。これは言い逃れできない。もうダメだ。一生監獄行きだ。


 絶望感に襲われた時、なぜか俺の両目からは、自然とポロポロと涙が零れていた。


 悲しいからではない。ビスマイトさんの期待を裏切り、恩を仇で返してしまうかもしれないという悔しさが募ったからだ。自分の力の無さと虚しさに苛まれ、今はブラッドール家への恩義を果たせない事に責任を強く感じる。


 この体になってから、色々な感情表現や反応まで女子っぽくなってしまった。


 俺の涙を見て、ディラックさんは思い切りうろたえていた。


「ど、どうか泣かないでください。私はカミラ殿を責めるつもりはないのです。ただ、あの場で起きた事実を聞いておきたいだけなのです」

「…… 事実を話せば、お父様とブラッドール家に迷惑が及ぶかもしれません」


 俺は正直に答えた。嘘や誤魔化しで塗り固めても、悪化するだけだ。


「大丈夫です。心配ありません。仮にブラッドール家に都合の悪いことを貴女がお話しになられたとしても、私が何とかします」

「それでは、ディラックさんにご迷惑が」

「そんな事はありません! 私はブラッドール家の味方です。貴女の役に立ちたいと思っているのです」

「なぜですか?」


 俺は涙と一緒に出そうになった鼻水を啜りながら言った。


「口約束だけでは、私を信用できないかもしれませんね。……あまり公にはできませんが、この話をしましょう。我が父は、ビスマイト殿と元冒険者仲間で大親友です。つまりシャルルと私の関係と同じです。ブラッドール家とヴルド家は、深い付き合いなのです。その御令嬢を裏切り、ブラッドール家を貶めるような事をしたら、私は父から絶縁されるでしょう」


 その情報は早く提示して欲しかった。だからビスマイトさんも、ディラックさんを信用してさっさと帰ってしまった訳か。ハッキリ言ってしまえば、始めからディラックさんは、身内みたいなものだったのか。


 ちぇっ。これじゃあ泣き損じゃないか。女の涙は嘘で出来ているというけれど、今の涙は全部真実で出来ているぞ。


…… 半分は男の涙だけどな。


 俺は、ディラックさんに城で起きた全ての事を話した。もちろん、彼は半信半疑だったようだが、物的証拠も状況証拠も、すべてが一貫していて矛盾するところがない。


「では、あのナイトストーカーもカミラ殿が?」

「はい。でもその一件で、私に吸血鬼の疑いが掛かってしまいました」


 ケッペンが起こした事件についても、詳細に洗いざらい話した。


「うーん、私の足りない頭では、カミラ殿に起きた現象を説明できません。ご自身では何か思い当たるところはありませんか?」

「わかりません。何せ私はブラッドール家に来る前の記憶を失っているのです」

「そうですか……。ますます調査が困難になりましたね」


 ディラックさんは必死で考えを巡らせているようだった。それだけ俺の身に起きたことを、真剣に考えてくれている証拠だ。


「謎はたくさんありますが、一つ言えることがあります。貴女とブラッドール家が、罪に問われることはないということです」

「でも魔剣とデスベアに関わった人間は投獄されるのでは?」

「それは研究者に対する刑罰です。一般市民を対象にした法ではありません。しかもカミラ殿の場合、治安を乱すナイトストーカーを処断し、あまつさえあの”死の獣王”を止めてくれたのです。本来なら勲章ものです。褒められることはあっても、罪に問われる事などありません」

「……そう、なんですか?」

「ただ、どうしてカミラ殿が魔剣を生みだせるのか、そしてデスベアの血に触れても平気なのか、そして再生能力と怪力はどこから来るのか……。これらの事実を隠しながら、言い逃れできるようにしておかないといけません。良からぬ事を考える輩が出て来るかもしれませんから」

「良からぬ事ですか?」

「貴族や軍人、役人にもいろいろな人がいましてね……。簡単に言えば、カミラ殿を利用して私腹を肥やそうとする者や、立身出世を狙う者が大勢いるということです」


 やはり政治の世界は怖い。関わりたくないぞ。今俺がこの体でこの世界に存在する理由も、要は下らない政争が原因だからね。日本(あっち)は企業で、メンデルは貴族議会という違いはあるけど、もうこりごりだ。


「ご心配には及びませんよ。この事は、身内だけの秘密とすることを誓います。他に漏らすことはありません。ですがお願いが2つあります」

「は、はい、なんでしょう?」


もしかして”お前の力を利用するのはヴルド家だ! はぁっはっはっはー” なんて言い出したりしないよな。信じてるぞ、ディラックさん。


「1つ目は、カミラ殿の力の理屈を考えることです。本当である必要はありません。もっともらしい適当な理屈さえあれば良いのです。ですが少々急がねばなりません。城の騎士達や役人達、国王陛下にも報告をしなければなりませんから」


 なるほど。嘘でもいいから、何か言い訳の材料を作っておけって事か。それはサラリーマン時代に上司の尻拭いを散々したので慣れている。慣れたくなかったけどね。何とかなる……と思う。


「2つ目はどのような?」


 ディラックさんが話す事を躊躇している。顔にはまだ迷いと焦りが浮かんでいる。言い難い話しなんだろうか。


 突然、俺の前に跪き、頭を深々と下げた。


「ど、どうしたのですか? 頭を上げてください。頭を下げて御礼をするは私の方なのに……」

「いえ、これからするお願いは1つめのお願いと関連するものです。かなり無茶なお願いです。無理を強いることになりますので、頭を下げてお話しいたします」

「は、はい……」

「カミラ殿の出生を、このヴルド家の親類ということにして欲しいのです。そして、ヴルド家で幼少より厳しい剣の修練を積み、剣豪となった貴女は、野に下り大きなトラブルに巻き込まれ、不運にも奴隷となってしまった。そこからブラッドール家に養子に入ったことにして欲しいのです」

「え、あ、はい……」


 一瞬何を言われているのか理解できなかった。だが、ディラックさんが必死で上手いシナリオを考えてくれた事は凄くよく伝わってきた。ここまで自分の家を犠牲にしてまで、俺を庇ってくれるのか。人の愛情と恩義、また受けてしまったな。この人、いやこの家にも俺は返すべきものができてしまった。


 あまりに温情溢れる扱いに、俺はまた涙を零してしまった。どうやらこの体の持ち主は、泣き虫だったようだね。


 その時、バタンと部屋のドアが勢いよく開いた。


「よく言いました、ディラック! そうです、カミラの出生は我がヴルド家です!」


 そこに仁王立ちしていたのは、出て行ったハズのメルクさんだった。清々しい笑顔で手を腰に当てて決めポーズをしている。とてもこの年齢の人の振る舞いではない。若い。


「母上、立ち聞きしてましたね?」

「当たり前です。出て行けと言われて私が素直に聞くとお思いですか?」

「……全部聞いてましたか?」

「もちろんです。事情はわかりました。お父様への説得は私に任せなさい。我が家の者の口裏合わせも今すぐに行っておきます。お前も早々に動きなさい」


 すげぇ。この人すげぇよ。ホワホワした天然ボケの有閑マダムだと思ってたけど、その正体は出来る女管理職って感じだ。


「わ、わかりました。ではまずビスマイト殿へこの件をお伝えします。もちろん、カミラ殿の秘密についてもビスマイト殿にお伝えすることにします。それは良いですね?」

「はい。お父様には、いずれすべてをお話ししなければと思っていましたので」

「結構。では即行動に移します。カミラ殿は事態が収拾するまで、この屋敷に留まっていてください。ご心配は不要ですよ。早ければ数日中には帰れます」

「ええぇ~ そんなに早く帰っちゃうのー? もっと居てくれていいのに」

「母上、わがままを言わないでください。カミラ殿はブラッドール家を継ぐために、やることがたくさんあるのですよ」


 このお母さん、さすがだな。つかみどころがないけど、愛らしい。ストレートに素が出ているけど鋭い人って感じだ。


「しっ! 母上、カミラ殿、静かに!」


 さらに驚きの事態が発生した。クローゼットからゴソゴソと音がするのだ。どう考えても何か生き物が入っているとしか思えない。


「誰ですか、そこに居るのは!」


 ディラックさんは、机の上にあったショートソードを抜いてクローゼットを思い切り開け放った。


 そこにはビスマイトさんと同い年くらいであろう、紳士が服に埋まっていた。


「よ、よお!」


 とのん気な声を上げた。


「はぁー…… ”よお”じゃありません、父上。こんなところで何をやっていらっしゃるのですか!?」

「だってビスマイトの娘が来るって言うから、儂だって気になるじゃないか。でも挨拶しようと思っていたらメルクがカミラちゃんを独占してるから、出て行き難くてな。聞けば、お前が尋問するというので、この部屋でやるのだろうと踏んで隠れておったんだよ、ハハハハハ!」

「笑って誤魔化さないでください。話は最初から最後までお聞きになってましたね?」

「おう。全部聞いたぞ」

「カミラ殿申し訳ございません。こんな我が家なのです。どうか気を遣わず気楽になさってください。そしてお見苦しいところをお見せして失礼いたしました。お許しください」

「とんでもありません。叔父様は、私の事を気にかけてくださったのですよね。感謝こそすれ、失礼だなんて勿体無いお言葉です……」

「ほほう、ビスマイトのヤツから聞いていた通りだ。良くできた娘だ。それに何と言ってもカワイイからの。挨拶が遅れたの。儂はニールスという。よろしくな」


 直球だ。この人も素で喋ってるよ。気さくを通り越している。初対面でも誰でも友達になっちゃうタイプかな。だがこれで、話は早くなった。何せ当主その人がずっと話を聞いていたんだから、一気に口裏合わせが捗る。


「では各自動いてください。お願いします」


 そこからの動きは本当に早かった。


 ヴルド家の使用人全員を集めて事情を話し、俺に対する態度を徹底するよう言い含めた。


 そしてディラックさんの父、ニールスさんは、自らビスマイトさんの下へ馬を飛ばし、説明に向かった。実はこの2人、月に1度は酒を酌み交わすために街で会っているというのだ。ニールスさんは貴族の中でも元騎士団長という肩書きで面が割れている。通常、貴族が自ら街へ降りるのはお忍びだ。市民に身分格差を意識させず、かつ貴族から知識や情報が漏えいするのを防ぐためらしい。だからお忍びの早馬は、お手の物という訳だ。老いているとはいえ、元冒険者だしな。


 さらにヴルド家の兄2人には、執事さんが直に馬を飛ばして、留学先へ向かった。彼の繰馬術をもってすれば、3日で着くだろうということだった。あの無口な執事さんにも、凄いスキルが備わっていそうだ。


 万全を期するため、兄たちに事情が伝わる3日間、俺はここで過ごした方が良いということになった。


 それにしても手際が良い。諜報活動も任務とするこの国の騎士は、情報戦にも慣れているのだろうね。軍の規模はどのくらいかわからないが、武に頼った動きはもちろん、スパイのような隠密行動にも相当強そうだ。さすが、鍛冶の国と同時に情報の国でもある。


「カミラ殿。ヒントになるかどうかわかりませんが、デスベアに関して、知っているすべてをお話ししておきましょう。もちろん、私は研究者ではありません。詳細なところまではわかりません。その点はご容赦ください」


「ありがとうございます。助かります」


 俺は思わずディラックさんの手を握っていた。

 あざとくてすまない……。でも今の俺にはこれくらいしかできないからね。


 ディラックさんからの情報はかなり多かった。城の研究者達に聞いた知識を、惜しみなく教えてくれたみたいだ。本当に良い人だな、この人は。


 それによれば、デスベアは絶滅した種であり、この大陸にはもう生息していない。モンスターの中でもかなり特異な存在で、群れを作らず単独行動の非常に希少な存在だという。


 それが本当なら、俺の見た”夢”は何だったのだろうか?


 デスベアにはいくつか通り名がある。最も使われている通り名は”死の獣王”である。体液と牙、そして手足の爪に猛毒がある。毒だけではない。数万種類の病原菌が体液中に繁殖しているという。そのため、この熊にかすり傷を負わされただけで、ほとんどの生き物は数分以内に絶命する。治療法はない。仮に解毒ができたとしても、感染した病原菌があっと言う間に体に回る。体に回った病原菌は、不治の病を発病させ、例外なく死に至らしめるという。


 そして特徴的なのが、再生能力と際立った戦闘力の高さだ。パワーとスピードはあの吸血鬼の王、バンパイアロードに匹敵し、再生能力はそれをさらに上回るという。


 死の獣王と戦い、仮に爪や牙の攻撃回避して、剣撃が当てることができたとしても、即死させない限り斃す事は難しいのだ。傷は直ぐに再生してしまう。仮に即死させることができたとしても、空気中に舞った血の飛沫を吸い込んだだけで、普通の人間は死亡してしまうのだ。


 その生態も謎に包まれている。冬眠状態に入ると何千年も生きると言われている。城の地下に封じていたデスベアも、運よく冬眠状態で発見された個体だったという話しだ。


 このデスベアに遭遇したら、どんな生物であろうとモンスターであろうと全力で逃げるしかない、と言われている。未だに保有している毒の成分は不明で、含まれている病原菌もほとんど解析されていない。400年前、突如この大陸から居なくなったのだという。


「これが私の知っているすべてです。城の研究者に聞けば、もう少し何かわかるかもしれませんが……」

「いえ、もう十分です。私も自分なりにデスベアと、この力の関係について考えて見ました。失くした左腕と深い繋がりがあると思います」

「一体どういうことですか?」

「まだ考え中です。明日までお時間をください。話を整理してお伝えできると思います」

「わかりました。もう今日は遅いですから夕食にしましょう。後でカミラ殿の泊まられる客人用の部屋をご案内させます。まずは腹ごしらえと行きましょう!」


 ディラックさんが白い歯を出して笑う。俺を和ませようとしてくれているんだな。何とかしてこの人の優しさに応えたい。いや、人として応えなければならないだろう。


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