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ドアノッカー

作者: 173

 幼い彼女はドアノッカーに憧れを抱いていた。ヨーロッパの家の戸にある、ドアをノックして来客を告げるためのあれだ。

 初めて見たのは確かディズニーのクリスマスキャロルだった。ビデオで見て以降、ピカピカ光るドアノッカーをコンコンと慣らすのが彼女の夢だった。

 しかし残念なことに彼女の家にはドアノッカーはなかった。彼女は何度か両親にねだったが、いつも曖昧なうちに流されてしまった。彼女はめげずに自分でドアをノックしてみたが、彼女の細い腕では軽い音しかしなくて、それを非常に残念に思っていた。


 祖母の家を訪れたときのことだ。彼女は祖母の宅のトイレに素敵なものがあることを発見してしまった。それは備え付けの金属製のタオルかけだった。壁からちょびっと突き出した突起に彼女の顔くらいの大きさがある銀色の輪がついている様は、丁度大きなドアノッカーのようだった。さらに、そのときはたまたま祖母がタオルをかけ忘れていたようで、彼女の邪魔になるものは何もなかった。

 彼女は大喜びで輪の部分を握り、壁をコツコツと二回叩く。やはり軽い音しかしなかったが、彼女は大層喜んだ。

 もう一度コツコツと二回叩く。今度は少し重い音になった気がする。そうだ、大人がやるように、ちょっと早いスピードで叩いてみよう。


 コンコン。


「どうぞ。」


 彼女はきょとんとした。今、女の人に「どうぞ。」と言われた。ここはトイレの中で、勿論彼女しかいない。両親や祖母は居間で談笑していたし、それ以外に人はいないはず。

 彼女はもう一度壁を叩く。コンコンと音が響くだけで、今度は誰も「どうぞ。」とは言わなかった。


 彼女はそれからしばらくトイレに入る度にノックを繰り返していたが、それ以降声が聞こえることはなかった。

 あれは何に対しての「どうぞ。」だったのだろう。

トイレって怖いですよね。

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