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Housework4 契約期間終了日 耕太への最終課題

翌朝、八時頃。

「耕太お兄ちゃん、おっきろーっ!」

「ぶはぁっ! こら彩奈、そういう起こし方はやめろって何度も言ってるだろ」

「だって一発で簡単に起こせるんだもん」

 耕太は彩奈に水鉄砲を顔に食らわされ起こされた。

「おはよう彩奈」

「彩奈ちゃんおはよー」

 絵実子と育恵もその騒ぎですぐに目を覚ます。

「彩奈、風邪、すっかり治ったみたいだな」

「うん、もうばっちり♪ さっき計ったら三六度四分まで下がってたよ」

「それは良かったな」

「おめでとう彩奈。安心したわ」

「良かったね彩奈ちゃん」

 育恵は彩奈の頭を優しくなでてあげた。

「みんなが優しく看病してくれたおかげだよ」

 彩奈は照れ笑いする。

「みんな今日でとりあえずアタシとお別れだけど、寂しくない?」

「全然」

 耕太はきっぱりと言う。

「もう、耕太君ったら見栄を張らなくても。本当は寂しいって思ってるくせに」

「あたしは寂しいよぅ! 育恵お姉ちゃん、帰らないでぇー」

 彩奈はぎゅっと抱きつく。

「こら彩奈、育恵お姉さん困ってるでしょ。ワタシもちょっと寂しいな」

「アタシこの近くに住んでるから、またいつでも遊びに来るよ」

 育恵はそう伝えて彩奈と絵実子の頭をなでなでした。

「母さん、父さんは?」

「三〇分くらい前に、美術館へ行くって逃げてったわよ」

「やっぱり」

 今朝の朝食も耕太が一人で担当。

今朝は卵かけご飯にお漬物に味噌汁。和の組み合わせだ。

「耕太君、お料理ずいぶん慣れて来たね。お料理楽しくなって来たんじゃない?」

「全然。俺が作るの、今日で最後だからな」

「たまには和風もいいね」

「耕太お兄ちゃん特製の卵かけご飯、梅干しやおネギやシラスも入っててすごく豪華で美味しそう。いただきまーす」

 絵実子と彩奈もけっこう喜んでいた。昨日耕太に残してもらっていたすき焼きも平らげる。

「育恵ちゃんちの朝食は、普段どんなものを食べるのかしら?」

「焼き魚と味噌汁とお漬物とご飯の日が多いですね」

「あら和風なのね」

「アタシのママ、昔から洋風のはあまり作ってくれなくって」

      □

耕太は今朝も一人で食器洗いを担当し、洗濯もこなした。

裏庭に洗濯物を干し終えてリビングへ戻ると、

「耕太、リビングとキッチンと、二階のお部屋全部と廊下に掃除機かけといて」

 母からこんな指令が。

「勘弁してくれ母さん、重労働過ぎだろ」

「母さんは耕太と彩奈と絵実子が学校へ行ってる間、ほぼ毎日やってるのよ。耕太の方が体力あるでしょ?」

「分かったよ。やればいいんだろ」

 耕太は三〇分ほどかけ、頼まれた箇所の掃除機がけをこなしていった。

 息つく間もなく、

「耕太君、トイレ掃除も頼むわね。終わったら言いに来て」

 育恵からこんな指示が。

「あ~、面倒だ」

 耕太はトイレに入ると、便器後ろの棚に置かれた掃除用具のウェットティッシュを手に取る。

「掃除しなきゃいけないほど、そんなに汚れてないよな?」

 不満そうに便器周りを拭いていると、

「あの、耕太お兄さん、これはワタシがやるね。抹茶プリンのお礼」

 絵実子は慌て気味に扉側隅に置かれたサニタリーボックスを手に取り、中の物をゴミ袋に移した。

「ありがとう絵実子、助かるよ」

 耕太は礼を言って引き続き便器周りの清掃作業を進めていく。

 続いて便器の中へ洗剤スプレーをシュッシュとふりかけ、ブラシで黄ばみを擦って水を流したあと、

「育恵ちゃん、これでいいか?」

 育恵に見に来てもらう。

「ダメ。タンクと床と壁もきれいに拭かなきゃ」

「そんなに汚れてないだろ?」

「耕太君立ちションしてるから、耕太君のおしっこが結構飛び散ってると思うわ」

「……面倒くさっ」

 耕太はしぶしぶウェットティッシュで育恵からダメだしされた箇所を拭き取っていった。

「これでいいだろ?」

 もう一度育恵に見に来てもらう。

「うん、合格よ」

「終わったぁ。これでようやく家事から開放される、よな?」

「あと一つ任務があるわ。今度ので最終課題よ」

 育恵からまたも指令が。

「まだあるのかよ?」

「みんなのために、美味しいお昼ご飯を作ること」

「ああ、それね」

耕太は洗面所へ向かい、手洗いを済ませた。

「耕太お兄ちゃん、あたし、もんじゃ焼きが食べたい」

「それなら簡単そうだな。確か材料も揃ってたな」

 彩奈の希望を耕太は快く承諾。キッチンへ向かい、キャベツを切っている最中、

「こんにちはー」

「こんにちは、耕太さんの特製ランチを食べに来ました」

 瑞香と希帆が訪れて来た。

「アタシが耕太君がトイレ掃除してる間に伝えたの。耕太君がお昼ご飯をご馳走してくれるって」

「育恵ちゃん、余計なことしないで。あの、みんな、期待しないでね」

 耕太は迷惑そうにホットプレートで調理作業を進めていく。

「いい匂いがして来たねー」「耕太さん、問題なく調理出来ているようですね」「早く出来ないかなぁ」「耕太お兄さん、少しだけ焦がしてね。ワタシその方が好きだから」「耕太君、早く食べたいわ」

 瑞香、希帆、彩奈、絵実子、育恵はリビングのソファに腰掛けて待機。

「みんな出来たぞ」

 十数分後、いよいよ完成。瑞香達五人はキッチンのテーブル席へ。

 耕太は一皿ごとに分けてみんなの前へ並べていった。

「どうかな?」

 恐る恐る感想を訊く。

「ママのよりは美味しくないけど、美味しいよ」

「とっても美味しかったよ、耕太くん」

「野菜の切り方はまだパーフェクトではなかったけど、よく出来てましたよ。これで明日の調理実習も安心ですね」

「耕太君、四日目でこれなら上出来よ」

「普通に美味しく食べれる出来だったわ。耕太お兄さん、作ってくれてありがとう」

 みんな一応褒めてくれたようだ。

「あら、予想以上に美味しいわ」

 後でつまみ食いしに来た母も含めて。

 昼食後、耕太がみんなの分の食器を洗い終えると、

「これをもって、アタシの耕太君へのイクメン候補育成指導は終了よ」

 育恵からこう告げられ、 

「やっと終わったか」

 耕太はホッと一息ついた。

「耕太君、ここまでよく頑張ったね」

「なでるなって」

「育恵ちゃん、耕太にイクメン候補育成指導してくれたお礼、お小遣いよ」

 母はご祝儀袋に入れられたそれをかざしてくる。

「あの、アタシ、ボランティアなので受け取るわけには」

「まあそう言わずに受け取って」

「あっ、ありがとうございます。お母様、この度は大変お世話になりました」

 育恵は罪悪感に駆られながらも受け取った。

「いえいえ、そんな。うちの方こそ、育恵ちゃんに感謝すべきだと思うわ。いろいろ楽出来たし」

 母は謙遜気味だ。

「お母様、これからは、週一でこのお宅をお邪魔しに来ていいですか?」

「毎日でも来ていいわよ」

「俺は来て欲しくないけどな」

「もう、耕太君ったら。耕太君、今日までやって来たことが無駄にならないように、これからも家事をどんどん積極的に手伝ってあげてね」

「やる気が出ればな」

「やる気出なくても。耕太君、頑張ったご褒美にアタシんちで豪華な夕食をご馳走するね。みんなもおいで」

「育恵お姉ちゃんちに遊びに行っていいの? やったぁ!」

 彩奈は大いに喜ぶ。

 このあと、瑞香と希帆は一旦自分のおウチへ。

育恵はまだ帰らずに、リビングで絵実子といっしょに録画した深夜アニメを視聴したりイラスト交換をしたり、彩奈とテレビゲームで遊んだりして過ごした。

「耕太君、やっぱりもう一つ任務を与えるわ」

「まだあるのかよ」

「これで本当に最後よ。洗濯物片付けて畳んでね。アタシの分持って帰らなきゃいけないし」

「やっぱそれか。はいはい」

耕太は夕方四時半頃に、面倒くさそうにしながらも洗濯物を片付け、きちんと畳む。

「ありがとう耕太君。畳むの上手になったね」

 育恵は畳んでもらった自分の衣服を嬉しそうに手に取り、マイバッグに詰めた。

 そして夕方五時頃。耕太、瑞香、希帆、絵実子、彩奈、育恵の六人再び加園宅にて全員揃ってここを出発。母も招かれたが、豪華な夕食はこれまでの人生で何度も味わってるからという理由で不参加だ。

徒歩二分ほどで大通りに出て、少し歩き進んでいると、

「ねえきみたちぃ、この間会ったよねぇ?」

「あっ、あいつやっ!」

 みんなの背後からこんな声が。

「ん?」

 耕太は後ろを振り返った。

「うわっ、こいつら、この間のチャラ男」

 瞬間にびくっと反応する。

「あの、耕太くん、なんとかして」

「耕太お兄さん、怖い」

 瑞香と絵実子はとっさに耕太の背後に回った。

「わたし達に何かご用でしょうか?」

 希帆はややびくびくしながらも勇気を出して質問してみる。

「あの、俺達に何か用か?」

 耕太も同じように質問した。

「大いにあるわ」

「そこの僕、オレらとちょっと話し合いしようぜ」

 男二人組は怪しげな笑顔を浮かべる。

「あの、えっと」

 耕太は育恵の方をちらっと見る。

「怖そうだから、耕太君がなんとか、してね。男の子でしょ」

 育恵は表情を引き攣らせながら頼んだ。

 男二人組は耕太の方へ近寄って来て、肩をガシッと掴まれてしまった。

(やばい、やばい、やばい。お巡りさーん)

 耕太、心拍数急上昇。

 次の瞬間、

「きみ、カジメンのみならずイクメン能力基礎テストも合格。おめでとう!」

「家事は出来た方がいいよ。就職出来なくても主夫になれるからな」

「えっ!?」 

 男二人組の予想外の言動に、耕太は唖然とした。

「このチャラそうな男、じつはアタシが用意してたの。アタシと同じ大学よ。耕太君が男らしさを発揮してくれるかどうかを試そうと思って」

 育恵はくすくす笑いながら伝える。

「そうなのか」

 耕太は尚も唖然。

「そうだったんだ」

「演技だったのですね」

「ワタシ、すごく怖い思いしたよ」

 瑞香と希帆と絵実子もかなり驚いている様子だ。

「オレ、育恵姉さんから隙を見てナンパしてみてって頼まれて、断れなくて」

「本当はおれ、年上好みだし」

 男二人組は決まり悪そうに打ち明けた。

「このお兄ちゃん達、育恵お姉ちゃんの彼氏?」

 彩奈から興味深そうに質問され、

「違うわ。アタシこういうチャライ系の男の子嫌いだから」

 育恵は爽やかな笑顔できっぱりと否定する。

「なぁんだ」

「オレ彼女おるし。こいつ彼氏いないんだぜ」

「余計なこと言うな」

 育恵は褐色肌の男にニカッと微笑みかける。

「それじゃ、またどこかで」

「まったねー」

 男二人組は陽気に笑い、ここから立ち去っていった。

「育恵さん、立派なイクママになるためにはまずは彼氏を見つけないとですね」

「大学卒業するまでには見つけたいな、生涯のパートナー。希帆ちゃんも、龍作って男の子を早くものにしなきゃ」

「育恵さんの方が先ですよ」

 希帆は照れ笑いする。

「ひょっとして、銭湯に現れた女装のおっさんも育恵ちゃんが用意してたのか?」

 耕太は気になって尋ねる。

「いや、あれは想定外だったわ。全然知らない人よ」

     ☆

 高級住宅街の一角。

「ここがアタシのおウチよ。生まれた時からずっとこのおウチに住んでるの」

 育恵は、『養父』と書かれた表札の前で立ち止まる。

「近っ!」

「学校よりも近い。わたしんちから瑞香さんちよりも近いわ」

「育恵お姉ちゃん、こんな近所に住んでたんだ。あたしのお友達のおウチ、育恵お姉ちゃんちより遠い子もいるよ」

「育恵お姉さんち、こんなに近くだったとは」

「私と耕太くんと希帆ちゃんが小一の時、育恵ちゃんは小五だから、子ども会のイベントとかで知り合ってても不思議じゃないよね」

 意外に感じた他のみんな。

 加園宅から南へ三百メートルほどしか離れていなかったのだ。

 まっすぐ進めば徒歩五分足らずで着く距離だ。

「隣の小中学校区だから、今まで会うことがなかったみたいね」

 育恵はこう呟いて、玄関横の呼び鈴を鳴らすと、

「皆様ようこそ。この四日間、お転婆な娘が大変お世話になりました」

 小顔でぱっちりした瞳、美しく輝く黒髪をフリルボブにしており、とてもお淑やかそうな感じの母。

「育恵がご迷惑おかけしませんでしたか?」

 ほっそりしていて、気弱そうな感じの父。

 両親揃って出迎えてくれた。

「いえいえ、こちらこそ大変お世話になりまして」

 耕太は謙遜の態度を示す。

「育恵ちゃんのご両親、若いね」

 瑞香はそんな第一印象。

「育恵お姉ちゃんのおばちゃんは四〇歳くらいかな?」

「私もそれくらいだと思う」

 彩奈と瑞香は推測してみる。

「これでも来月で五〇よ」

「これこれ育恵」

 育恵の母はホホホッと微笑んで優しく注意。

養父宅は二階建ての和風建築。

お庭には松の木や桜の木などが植えられていて、盆栽も置かれてあった。

みんなは十畳ほどの広さがある応接間に招待される。

「彩奈、般若の面があるけど怖くないのか?」

「耕太お兄ちゃん、あたしそんなのとっくの昔に克服したよ」

「アタシも小学校入る前までは般若怖かったよ。耕太君達は、お抹茶の飲み方知ってるかな?」

「いや、全然」

「わたしは本で見たことはあるけど、経験はないな」

「私も詳しくは知らなーい」

「ワタシも」

「あたしは幼稚園の頃にやったことあるけど、もう忘れちゃった」

「アタシがお手本見せるから、みんな真似してね。将来立派なパパママになるためにはちゃんと出来た方がいいよ」

 抹茶と落雁、羊羹、金平糖などの和菓子を育恵から作法を教わりながら戴いたあとは、鯛、マグロ、ウニ他刺身の数々、さざえの壷焼き、冷奴、茶碗蒸し、天ぷらといった豪華和食を振る舞ってもらい、耕太達は午後八時頃に養父宅をあとにしたのであった。


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