コピーキャット(まねっこ)
アルはラズリーに手を引かれアジトへと戻ってきた。
なぜかカーミアルトも二人に混ざっていた。いや、カーミアルトにとってはエンドメントを知る絶好の機会だった。これを逃す手は無い。
3人がアジトに入ったとき、ラティはラズリーが出て行ったときと同じように重役椅子にふてぶてしく座っていた。あたかもずっとそこに居たかのように。
「ラティ・・・」
アルは恐る恐るラティの元へと歩み寄る。
「僕もエンドメントなんだ。だから僕はラティ達の仲間なんだ。ほ、ほらこんな事も出来るし!」
アルはさっきやったのと同じように炎を出そうと手を差し出した。
しかし、何度やってもさきほどのような炎を少しでも出す事は出来なった。
「おかしいなあ。さっきは出来たのに。ホントなんだ、ラティ。信じてよ」
「ああ。信じるよ」
「え?」
「ていうか知ってるよ。俺には千里眼もあるんだ。だから離れた所でも何でも分かる。ファイアボールを倒したみたいだな」
「すごい。ラティはそんなアベルも持ってたんだ」
ラティは先ほどその場に見ていたということをあえて黙っていた。
「アル。ごめんな。さっきは仲間じゃないって言って悪かった。お前は俺達の仲間だよ。そうさ。アベルなんて関係ないよな」
「いいよ。別に」
どうやら二人は何やら揉めていたようだったが、今は仲直り出来たようだ。
「良かった。二人とも」
ラズリーは二人を見てそう言った。この少女もアルとラティのエンドメントの仲間なのだろう。
アル達にはあとどのくらい仲間がいるのだろうか?
「でも、どうして出来なくなったんだろう?さっきまで出来たのに」
「アル。お前のアベルはおそらくあのファイアボールの炎のアベルを真似したんだろう」
「真似?」
「ファイアボールの炎を受けてからお前のアベルが発動した。おそらくお前のアベルは相手のアベルを自身に受けることによりそのアベルを発動できるんだろう」
「そ、そうなの?僕には全然実感は無いけど」
「しかし、条件が厳しいんだろうな。今、発動できないって事は、特定の状況が必要ってことだな」
なるほど。ラティが言うにはアルのアベルは他人のアベルを盗むという事である。しかし、特定の状況下でないと発動できない。これを確かめる方法はある。
「確かめる方法は・・・ラズリー」
「な、なに?」
ラズリーが突然呼ばれた。
「アルにお前のアベルを発動してみろ」
「え?それは・・・」
「いいよ。ラズリー。僕も確かめてみたい。でも手加減してよ」
「う、うん。アルちゃんがそう言うなら」
ラズリーは恐る恐る先ほどのように手をアルに向けて差し出した。
そうすると、部屋の中(おそらく暖房がかかっている)にも関わらず、空気が冷えていくのを感じた。
ラズリーの冷気はアルを包んでいった。アルは寒さで凍えている。
「もういいよね?」
ラズリーは手を下ろした。部屋は次第に以前の暖かさを取り戻してきた。
「どうだ?アル。これが出来そうか?」
「どうかな」
アルはラズリーがやったのと同じように手を差し出した。しばらくその状態が続いた。
しかし、部屋は暖かさを取り戻していくだけで、冷気はまったく感じられなかった。
「駄目か」
「なんでだろう?やっぱりあれは偶然だったのかな」
アルは落胆していた。
「条件があるんだろう。仕方ない。そのアベルは強力なんだ。そんなに簡単には使えないって事だな」
「うん・・・。じゃあさ!僕のアベルに名前をつけてよ。ほら。必殺技っぽく。何か強そうな名前が無いかな?」
「アル・・・。お前なあ」
ラティとラズリーはアルの子供じみた発想に呆れていた。
名前か。子供の頃は何か必殺技とかに名前を付けていたものだ。
「しょうがないなあ。名前ねえ・・・。コピーキャットってのはどうだ?」
「キャット?コピーキャット?」
「まねっこって意味だ。アルシェス・キャットにちなんでコピーキャットだ。そのままだけどな」
「コピーキャット。いいね!気に入った。ありがと。ラティ」
アルは大事なものをもらった子供のようにはしゃいで喜んでいた。
その日はもう遅くなっていたし、エンドメントの調査は中断した。どうせいつだって出来る。
ラティも私がアルをファイアボールから守ったこと(結局は守られたのだが)で大分警戒心を解いてくれたように見えた。
また後日、来てもいいと言ってくれた。もちろん、アルは大歓迎だと言ってくれた。
今回の事件を通して改めてエンドメントは恐ろしい存在だと感じた。ファイアボールのような凶悪な者もいる。
しかし、このアル達3人は外の人間と何ら変わらない普通の子供達だ。アベルが使えるという点を除いては。
この事を外の人間にも分かってもらう必要がある。彼らに普通の生活を送らせてやりたい。今回の事件を通して私はその気持ちを一層強くした。