ファイアボール(火の玉ボーイ)
廃墟ビルの1フロア。ここが僕とラティのアジトだ。
エデンは昔、この町の産業の中心地だったみたいだ。だからこういう廃墟のビルが多くある。ここを改造すればどんなスイートルームにも負けない凄いアジトになる。
冷蔵庫、テレビ、洗濯機。何だってある。ここでは何も不自由する事なんてない。・・・でも、外の世界にはもっと何でもあるのだろう。
僕とラティは生まれたときからこのエデンで育ってきた。正確には物心ついた時にはここに居たというべきかな。親の顔も分からない。おそらく自分の子供がアベルを使えると分かってここに捨てたのだろう。ラティはそう思っている。でも、僕はそんな親を恨んではいない。というか、顔も分からない見ず知らずの人間を恨みようが無い。
ラティとは兄弟のように育ってきた。ラティはエデンに残された書物でたくさんの知識を得ている。元々、頭が良かったのだろう。その点では、僕は全然駄目だ。しかもアベルすら持っていない。でも、これまで二人で上手くやってきた。これからも上手くやっていけるだろう。僕たちにはその確信があった。でも、外の世界を見てみたい。
あの外から来た人を見てそんな思いが浮かんできた。ラティとなら外の世界に出たって上手くやれる気がする。これまでもラティと二人で色んな困難を乗り切ってきたのだから。
「ラティ・・・」
ラティは元々そのフロアの重役が座っていたと思われる豪華な椅子に腰掛けて窓の外を見ている。そうやって居ると偉くなった様な気がするってラティは言っていた。
「外の世界を見てみたい、だろ?実は俺はテレパシーも使えるんだ」
「嘘!?初めて聞いた」
「ああ嘘だ」
こうやってラティはいつも僕を騙す。
「でも、お前の顔を見れば、テレパシーなんぞ使わなくても思っている事なんてお見通しだ」
ラティは相変わらず、僕の顔を見ずに外ばかりを見ていた。こういう時は大概ラティは自信が無いときだ。
「良いじゃないか。あのカーミアルトとかいう奴に外に連れて行ってもらえばいい。基本的にはお前と同じ人が良さそうな奴だ。悪いようにはならんだろ」
「じゃあラティも一緒に・・・」
「無理だよ。俺はエンドメントだ。外の奴らが黙っちゃいない」
「僕だってエンドメントだよ」
「違う。お前はエンドメントじゃない」
「え?」
これまではラティから僕はエンドメントだと聞かされてきた。ずっと小さいときから。
エンドメントじゃない、なんて言われたのは初めてだ。
「だってお前はアベルが使えないんだろ?だったらエンドメントじゃない。分かりやすい話だ」
「そんな・・・。ラティはずっと僕がエンドメントだって他の人達にも言ってきたじゃないか!」
「だけど、現にお前はアベルが使えない。これは事実だ。だからエンドメントじゃない。お前はここエデンに居ちゃいけないんだ。分かったらさっさとあいつの所へ行けよ」
「ラティ・・・。酷いよ。今までずっと一緒にやってきたじゃないか。それを今になって仲間じゃないなんて・・・」
「ああ。お前はもう俺達の仲間じゃない。外の人間だ。分かったらとっとと出て行け」
「ラティ・・・」
ガチャと廃墟ビルの扉が閉められた。それは長年住んで来た家から追い出されたということだ。僕はエンドメントじゃない。外の人間・・・。
そんな考えが今まで頭を過ぎらなかったといえば嘘になる。いつもそんな思いが頭の片隅にあった。自分はラティ達の仲間じゃないじゃないかという気持ちがいつもあった。
でも、そんな考えはラティの言葉でいつも吹き飛ばしていた。お前もエンドメントだといつもラティは言ってくれたのだ。
しかし、もうその心の柱が折れてしまった。後は崩れるだけ。ラティの言葉がどれだけ救いとなっていたか今となっては良く分かる。僕はエンドメントではない。
冷たい風が吹く道を一人アルシェスは歩いていた。
アルとラティのアジトにて、一人の少女が今しがたアルシェスが出て行った扉を勢いよく開けた。
彼女の名はラズリー。アルシェスやラティと同じエンドメントである。
「アルちゃんにラティちゃん。たくさんクッキー焼いたからあげる。よく分からない木の実で作ったから味には自信ないけど」
「ん?ラズリーか・・・」
「あれ?アルちゃんは?お出かけ中?」
「アルなら出て行った。もう帰ってこない」
「アルちゃんがもう帰ってこない?どういうこと?」
ラズリーと呼ばれた少女の顔が真剣になる。
「どうもこうもあいつはエンドメントじゃないんだ。俺達の仲間じゃない」
「ラティちゃん。何でそんな嘘つくの?何があったの?」
「特に何も。ただちょうどエデンの外行きの列車が来たんだ。これを逃すことは無いだろ?お前も外に出たければ乗せてもらえばいい。ただエンドメントに対しては寛容ではないと思うがな」
少女はしばらく黙ってラティの顔を見ていた。そして、振り返った。
「アルちゃんが私達を置いていくはずない。ラティも分かってるでしょ?アルちゃんはまだエデンに居る。ラティに見捨てられたと思ってるだろうから。連れ戻してくる」
少女はバタンと扉を閉めて外に駆け出して行った。
ラティは相変わらず豪華な椅子に座って外を眺めていた。
「アルが見捨てられただと?見捨てられたのはどっちだよ・・・」
「教授。最近寒くなってきましたね」
「ああ。あのファイアボールのアベルが欲しいくらいだよ」
ミズノイシと二人で暖炉を囲っている。研究所から持ってきた物資として燃料があった。それで暖を取っている。
「ラティ君どうします?あれだったらもう諦めて別を当たってもいいんじゃないですか?」
「いや。まだ脈はある。ちょっとしたきっかけでもあればなぁ」
他を当たってもどうせ同じようになるだろう。ラティ達の警戒心を解くには時間が必要なのだ。
じっくりと時間をかけて信頼関係を築けばよい。
「ちょっと頭を冷やしてくる」
「気をつけてくださいよ。また襲われても知りませんよ」
「ああ。危なくなったら逃げるさ。逃げるが勝ち」
「情けない事を偉そうに言わないでください」
確かにミズノイシの言うとおり前みたいに襲われるのはもうこりごりだ。出来るだけ近所を散歩する事にした。
しかし、住まいからちょっと出歩いた所でいきなり災厄と出会ってしまった。
「あれは・・・火の玉ボーイ」
火の玉ボーイ、もといファイアボールが前方に居る。しかし、幸運なことに相手はまだ気付いていない。
そして、ファイアボールの前に二人の人影があった。
あれは・・・アルシェス・キャット。
アジトから出て、何処に行くというあても無く歩いていた。アルはラティに見捨てられたと思い呆然となっていた。
「よう。アル。今日はラティと一緒じゃないようだな」
「ファイアボール」
ファイアボール。この辺りで弱いエンドメントを襲っては金を奪っている奴だ。ラティもファイアボールには気をつけろって言ってたっけ。
でも、もうラティの仲間じゃないんだ。そんな事はどうでもいいか。
「なんだあ?喧嘩でもしたのかよ。ま、こっちにとっちゃ厄介な奴がいなくて好都合だけどよ」
「ファイアボール。もうこんな事止めなよ。皆に嫌われちゃうよ」
「嫌われるぅ?何言ってんだお前?エンドメントが誰に好かれるってんだよ」
そうだ。僕も誰にも好かれてないんだ。
「どうでもいいけど。自分の立場分かってるんならとっとと出せよ」
「ごめん。僕、今何も持ってないんだ」
全部、アジトに置いて来てしまった。こんな事で出て行くなんて何してるんだろう。まあアジトにだってほとんどお金と言えるものは無いんだけど。
ゴウッとファイアボールの腕が燃え上がった。
「それじゃあ仕方ねえな。お前で憂さ晴らしして、お前をダシにラティにでも金を出させるか」
ファイアボールが詰め寄ってくる。でも、もうどうなってもどうでもよく思えてきた。
「アルちゃん!」
僕とファイアボールの間に誰かが割り込んだ。
「アルちゃん。大丈夫?何もされてない?」
「うん。ラズリー。どうしてここに?」
「ラティに聞いたよ。家から出てったって」
「そうだよ。僕はもうエンドメントじゃないんだ。ラズリー達の仲間じゃない」
「アルちゃんがエンドメントじゃなくても、仲間である事に変わりないよ。ずっとそうだったじゃない」
「仲間・・・」
「きゃっ!」
炎の玉がラズリーを掠めた。
「おいおい。人を無視してくれるなよ。ラズリー」
「ファイアボール。あんたまだこんな事して。恥かしくないの?」
ラズリーはファイアボールを睨みつける。
「まったく。お前だって昔は俺達と仲良くやってたじゃねえかよ。俺のところから出て行ったと思ったら、こんな奴らとつるみやがって」
ラズリーとファイアボールが知り合い?初耳だった。
「私は・・・こんな事してない」
「嘘つくなよ。アルをこっちに渡せよ。そしたら前みたいに可愛がってやるからよ」
「ふざけないで!二度とあんたの所なんて行くものですか」
「やれやれ。今の彼がお気に入りみたいだな。しょうがない。もっかい力の違いってやつを見せてやるよ!」
轟々と先ほどより一段と大きな火柱がファイアボールの両手から上がった。
「アル。下がってて」
ラズリーは両手を広げた。見た目は何も変化が無いように見えたが次第に周辺の気温が下がっていくのが感じられた。ラズリーのアベルは冷気を操る。周囲の温度を下げたり、触れたものを凍りつかせたりする。
ファイアボールの両手の炎が縮まっていった。
「おおっ!?ラズリー。相変わらずクールだな。しかしなあ。俺の炎を消す事なんざ出来ねえだろよお!」
一時は弱まっていたファイアボールの炎はまた勢いを強め、先ほどより一段と激しくなった。
周囲の温度もどんどん上がってきている。ラズリーの表情からは苦悶の色が見て取れた。
「アルちゃん。逃げて。私の力じゃファイアボールを抑えきれない」
「ラズリー・・・」
逃げる。いつもそうだった。ラズリーやラティに助けられてばかりで僕は何一つ出来なかった。
確かにこれじゃあラティにも仲間じゃないと言われても仕方ない。誰も助ける事は出来ないのだから。
「アルよお。お前も男見せてみろや。こそこそ女の尻に隠れてばかりで恥かしくねえのか?」
「アルちゃん。挑発に乗らないで。ラティなら助けてくれる。だから逃げて!」
「じゃあそろそろ行くぜえ!」
ファイアボールがラズリー達に向かってきた。と、その瞬間、燃え上がっていた炎がおさまった。
そこにはびしょびしょになったファイアボールが唖然として立っていた。
「今のうちだ!二人とも逃げろ!」
アル達とはファイアボールを通して反対側にあの数日前に出会った外の人間がバケツを持って立っていた。
「やっぱり、文字通り焼け石に水か」
我ながら上手い事を言ったと思ったが、それもつかの間、ファイアボールの両手から炎が噴き出した。その炎はファイアボールの周りの水分を一気に蒸発させた。
「てめえ。よくも・・・」
アルシェス達がファイアボールに襲われそうになっている所に遭遇し、慌ててバケツに水を汲んできた。
ちょっとでも効果があるとは思ったが、ファイアボールに気付かれ怒らせるだけだったようだ。しかし、二人から注意がそれたのは確かだ。
ファイアボールが迫ってくる。絶体絶命。あの侍少女が来てくれるなんて都合のいい展開はもう無いだろう。
ファイアボールが片手を前に突き出しカーミアルトに照準を合わせた。
「只の人間の分際でよくもやってくれたなあ。死ね!」
ファイアボールの手から火の玉が噴き出しカーミアルトに向かって飛んできた。
大火傷は免れないだろう。もしかしたら本当にここで死んでしまうかもしれない。
だから余計な事はするなって言ったんですよ、ミズノイシの声が聞こえた気がした。
火の玉が直撃する瞬間、カーミアルトは恐怖のあまり目を閉じた。
「・・・あれ?熱くない」
恐る恐る目を開けた。眼の前にはあのアルシェスという少年が倒れていた。全身が燃えている。アルシェスが庇ってくれたのだ。
「アルシェス君!」
火の勢いが強く近付く事が出来なかった。
「カーミアルトさん・・・。大丈夫・・・ですか・・・」
この期に及んで人の心配をしているのか。
「待ってろ。すぐに消してやる」
バケツを持って水を汲みにいこうとした。
「大丈夫です。カーミアルトさん・・・。僕の事は気にしないで・・・」
気にしないでって言っても燃えているではないか。しかし、アルシェスはなんと火達磨になった状態で起き上がったのだ。
「大丈夫です。なんかあんまり熱くないんです。なんだか・・・心地よいぐらいなんです」
アルシェスを包み込んでいる炎は激しさを保ったままだったが、不思議な事にその炎によりアルシェスの服や肌が焼けているということはなかった。
これにはさすがにファイアボールも驚いていた。
「な、なんなんだお前?熱くないのか?」
「熱い?熱いといえば熱いよ。なんだか気持ちが高ぶってくるみたい」
アルシェスは燃え上がったままファイアボールと向かい合った。二人とも轟々と燃え上がっていた。しかし、ファイアボールの両手が燃えているのに対してアルシェスの炎は全身に及んでいた。
「そ、そうか。お前も炎のアベルを使えるんだな。だからそんな状態でも平気なんだ」
「僕がアベルを使える?何言ってんの?僕はエンドメントじゃないんだよ。アベルが使えるわけ無いじゃないか」
「ふざんけんな!俺が一番炎を使いこなせるんだ!」
ファイアボールの炎を纏った拳がアルシェスの顔面を捉えた。
バシッと鋭い音が響きアルシェスは後方へと吹き飛ばされた。
「へへ。やっぱりな。いくら炎を使えようとも生身が弱けりゃ意味がねえ」
アルシェスはその場に倒れこんだ。そこへファイアボールが追い討ちに来て、アルシェスに跨り顔面を何度も殴った。
「アルちゃん!」
ラズリーは駆け寄ろうとしたが、二人の炎に近付く事が出来なかった。むろん、カーミアルトも同様である。
「弱え。弱えぞ。アルよお。さっきの威勢のいい炎はもう出せないのかあ?」
確かにアルの全身を包んでいた炎はみるみる勢いを失っていった。
「おらおら、なんとか言えよ!」
アルシェスは顔を両腕で庇ったまま、バシッ!バシッ!とファイアボールの連打を受けているだけだった。
誰が見てもアルシェスが不利な状況だった。
「痛い・・・」
「あぁ?」
ファイアボールの連打が一時収まった。
「痛いなぁ」
「あぁん?まだ足りねえってのか?そんならこれでどぉうだっ!」
ファイアボールが燃え上がる拳を振り上げた。
「アルちゃんっ!!」
ファイアボールの拳がアルの顔面を砕こうとする瞬間。
「だから痛いって言ってるだろう!」
アルシェスは怒声と共に全身から炎が噴き出しファイアボールを吹き飛ばした。
アルシェスの髪は赤く染まりその怒声に応えるように逆立っていた。その顔も普段の温和なそれとは似ても似つかぬ鬼の形相となっていた。
「アルちゃん・・・もしかしてキレた?」
もしかしなくてもアレは切れている奴の顔だ。こうなった奴は手のつけようが無いのを私はよく知っている。ラズリーも普段とは違うアルシェスに戸惑っているようだ。
アルシェスはズンズンと進みファイアボールの前に立った。
「アルぅ!てめぇ、いきがってんじゃねえぞ!コラァ!」
ファイアボールは拳を振り上げたが、その手はバシッとアルシェスに掴まれた。ゴウッとファイアボールの手が燃え上がった。
「熱ぅ!!放せ。てめえこのやろぉ」
アルに掴まれ燃え上がる手を必至に振りほどこうとした。
「ファイアボール。君はその炎で多くの人間を苦しめたんだ。その報いは必ず自分に回って来るんだ」
「何言ってやがる。ふざけんな!何しやがる、てめえ!」
アルはファイアボールの顔を正面から覗き込んだ。そして、冷ややかな声でこう囁いた。
「地獄の業火でその身を清めよ」
「や、やめろぉぉぉ!!」
アルはただファイアボールを見ているだけだったが、ファイアボールの顔はみるみる苦痛に歪んでいった。
「うぐぐぅぅ・・・。ぐわぁぁぁ!!」
アルは何もしていないに関わらず、ファイアボールは一人で苦しんでいる。まるで炎で炙られているかのように。
しかし、炎はアルの周りだけで燃え盛っており、逆にファイアボールの方の両手は完全に鎮火してしまっていた。
「や、やめてくれぇぇぇ・・・。分かった。俺がわるかったぁ・・・。アルぅ・・・」
「駄目だよ、ファイアボール。君はそう懇願する相手に何をしてきたか覚えてないのかい?」
アルの鬼の形相はもはや無かったが、その顔には不敵な笑みを浮かべていた。
「ファイアボール。その地獄の苦しみを皆に与えてきたんだ。その分、自分に跳ね返ってきてるだけなんだよ」
アルは諭すようにファイアボールに話しかけている。ファイアボールは苦悶の表情を浮かべていた。
「うぐ・・・うぐ・・・ぐはぁぁぁぁ!!」
ファイアボールが口を開けた瞬間、口や両目、両耳から大量の炎が噴き出した。
しばらく、ファイアボールの断末魔の叫びと溢れ出す炎が続いた。
やがて、全てを出し切ったファイアボールはまさに魂も抜けたようにその場にバタリと倒れてしまった。
「死んだのか?」
その頃にはアルシェスたちの周りの炎はすっかり収まっていたので、私とラズリーは二人に近付く事が出来た。
「アルちゃん・・・」
ラズリーが呼びかける。
「・・・ん?」
アルシェスが振り返った。そこには先ほどの鬼の形相も不敵な笑みも感じさせないいつも温和なアルシェスの顔があった。
「ファイアボールは?」
「大丈夫。気絶してるだけ。炎使いがあれぐらいじゃあ死なないよ。僕はただ炎がどんなに人を苦しめるか思い知らせただけ」
「アルちゃん。これってアルちゃんのアベル?」
アルシェスはしばらく考え込むように黙っていた。
「分からないんだ。ファイアボールの炎を受けてからいきなりこんな事が出来るようになった」
「そうだよ。これはアルちゃんのアベルだよ。やっぱりアルちゃんはエンドメントだったんだよ。私達の仲間だったんだよ」
「そっか。そうだね」
そう応えるアルシェスはその言葉とは裏腹に浮かない顔をしていた。
何はともあれ脅威は去った。私はアルシェスに助けられたのだ。これは偉大なる前進である。エンドメントを研究する偉大なる第一歩となるであろう。
「アル・・・」
ファイアボールの断末魔が聞こえた。
ラティは一人離れた所でアル達の一部始終を見ていた。
そう。ラティはラズリーの出て行った後、追いかけていた。こういう事があるかもしれないと予測していたのだ。
案の定、アル達はファイアボールに襲われていた。アルがファイアボールの攻撃で吹き飛ばされた時、助けに出るつもりだった。
ラティの目前では想像を遥かに超えた事が起こっていた。
ラティは信じていた。おそらくアルは自分達と同じエンドメントではないのだ。それでも彼らの仲間である事には違いは無かったはずだった。
しかし、あの炎。明らかに異能力だ。しかもあのファイアボールや自分のよりも強いアベル。
おそらくだが、ファイアボールのアベルに反応して発現したのだろう。
自分の助けに出る幕が無くなった。しかし、ラティは高揚としていた。そして確信していた。
あのアベルは必ずやこの世界を変えることが出来る、と。