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エンドメント(異能力者)

アルシェス・キャット。

私がエデンにやって来て一番、最初に会ったエンドメントが彼であった。

私、というよりも世間が思うエンドメントは暴力的で恐ろしいイメージがあった。私もエデンに行く事が決まった時は、家族からかなりの反発があった。普通の人間がエデンに足を踏み入れるとどんなひどい目に会うか分からない。彼らは我々の知らない未知の恐るべき能力を持っている。そして、その恐怖のイメージこそエデンを外界から隔離させてしまった理由なのだろう。

しかし、アルシェス・キャットは私達が思い描いていたエンドメントのイメージとは全く反対であった。温和で優しい少年。そんな少年がここで暮らせるのか、なぜエデンにやって来たのか、私は疑問に思った。そして、驚いた事に彼はエンドメントでありながらアベルが使えなかったのだ。まずはこの少年、アルシェス・キャット、そして彼のアベルについて語ろう。

「教授!」

イテ。誰かに殴られた。

「教授。早く行きましょうよ。アルシェス君の所へ」

「人が日記を書いてる途中で殴るな。これは後々、偉大なる自伝として後世に語り継がれるものになるのだ」

「はいはい。分かりましたから。でも、もうアルシェス君と会う時間ですよ。研究対象が好意的なのにそれをほっとく訳にはいかないですよ」

「そうだな。でも彼はなぁ・・・」

彼女の名前はミズノイシ。先に述べた私の助手である。しかし、まだ学生だ。

エデンに来たいという人材が少ないのは分かるが、何もこんな子供を助手するとは。上から期待されてないのは承知の上ではあるのだが。

「あれ?教授。今、頭の中で何でこいつなんかが俺の助手なんだ?って思いませんでした?」

言っておくが、彼女も普通の人間だ。決して、人の心が読めたりする能力は持っていない。

「思ってない」

「そうですか。でも、教授の生活力の無さを考えたら当然ですね。私、これでも家事については超一流ですよ。大学のメイド教室でみっちり鍛えられましたからね」

家事については有難いが。しかしメイド教室とは・・・・。一応、国立の研究機関を備える科学の研究でも権威のある大学のはずなんだが。

そんな訳で、エデンに来てからはミズノイシと二人で暮らしている。元々、私は研究一筋で一人やもめだったのだ。それを今更、メイド・・・ではなく、助手をつけられて・・・。言っておくが、私はこの助手と変な関係になってたりはしない。今後もそうなることはないだろう。これを読んでいる方々。そういう展開を期待していたら残念だが、この先を読むことを勧めない。退屈するだけだ。

「いい加減に日記書くのは止めて下さいよ!」

「ま、待て。この一文だけは!」以上締めくくる。


アルシェス・キャット。彼は初日に出会った少年だ。そして、初めて接触したエンドメントであった。

彼は道端で一人、空を見つめていた。

「こんにちは」

私は少年と打ち解けようと思い声をかけた。

「こんにちは」

「え~と、君はこの町の人だよね。やっぱり、そのエンドメントなのかな?」

そう言ってしまい、ちょっとストレート過ぎたと後悔した。

しかし、少年は答えた。

「はい。エンドメントです」

少年は見るからに親切そうであった。しめたと思い、私は次なる質問をした。

「やっぱり、アベルも使えるのかい?」

「・・・」

少年の顔が曇った。今度こそ後悔した。エンドメント達にとってアベルを聞くのはタブーであったかもしれない。しばらく、少年は考え込んだ後、頭を振った。

「実は僕、アベルが使えないんです」

アベルが使えない?どういう事だろう?アベルが使えるからエンドメントという訳ではないのだろうか?

それを少年に尋ねてみた。

「それでも僕はエンドメントなんです。だって、ラティがそう言ってたんだもの」

「ラティ?君の友達かい?」

「はい。ラティは凄いんです。いろんなアベルが使えるし」

どうやらアベルは一人で多くを持つ事が出来るらしい。そして、ラティと呼ばれた者はエンドメントという称号を与える事も出来る。おそらくエンドメント達にとって重要な存在に違いない。彼(彼女?)と接触する事が出来れば、エンドメントの事が詳しく分かるかもしれない。

「自己紹介まだだったね。私の名前はカーミアルト。ここにはエンドメントの取材でやってきたんだ」

研究と言うと警戒されると思い取材という言葉を使っている。どのみち警戒されることには違いないだろうが、下手に自分もエンドメントだと言うと、嘘がばれた時のリスクが大きいのだ。

「僕はアルシェス・キャット」

「アルシェス君。出来たら君や君の友達について知りたいんだが、その・・・協力してもらってもいいかな?」

「はい。大丈夫です」

少年は屈託の無い笑顔でそう言った。それから私はもう一度、アルシェスとそれから仲間達に会う承諾を得た。これから後に分かった事だが、エンドメントの多くはアルシェスとは違う、世間一般が思う凶悪な者であった。実際、私も身包みを剥がされかけた。


「それにしても教授。あの時は危なかったですね。私が居なかったら今頃どうなっていたことやら」

アルシェスに再び会いにいく道中、ミズノイシが例の事件を話し始めた。

「私、これでも柔道、剣道、空手、合氣道の有段者ですよ。そういう意味でも私は教授のお供にピッタリじゃないですか。むしろ勿体無いくらい」

勿体無いなら、他に活躍の場を見つければいい。しかし、実際にここは危険な所だとは私も良く理解していた。アルシェスと会った翌日、私は調査のため手当たり次第に人に声をかけた。しかし、その多くは返事もしてくれなかった。出来るだけ、危険そうな者は避けてはいたが、突然、複数の少年達に囲まれた。

「おい。おっさん。分かってるよな?」

分かりたくもなかったが。これがかつあげだと言う事に。しかし、おっさん呼ばわりは無いだろう。これでもまだ20代だ。

相手は6人。先日のアルシェスに比べて見るからにガラが悪い。しかし、こんなのはエデンの外でも良く見かける、所謂今時の危険な若者だった。だが、アベルが使えるという点では危険度が大きく違う。たとえこの場に警官が居たとしてもこの少年たちは怯む事は無いだろう。

とりあえず、刺激しない事に越したことは無い。私は持っていた有り金を全て放り出した。

「それもだ。脱げ」

服もか。文字通り身包み全て剥がすらしい。今はロングコートがちょうどいい季節だ。真っ裸になったところで、果たしてこの寒さに耐えられるかどうか心配だった。

そんな事を思って私が服を脱ぐのに躊躇していると、少年たちがじわじわと迫ってきた。

「そいつを押さえろ。まだ金目のもの持ってるかもしれない」

リーダー格の金髪の少年が仲間に指示を与え、私は少年達に両手を抑えられた。

「おっさん。外の奴だろ?ちょっと痛い目あっとくか?」

私は必至に頭を振ったが、リーダーの少年は私に近付いてくる。そして、少年は手を前に差し出した。右手には黒いグローブを着けていた。

その時、右手からゴウッと炎が噴き出した。アベルだ。この時、私は初めてアベルを見た。しかし、感動というか恐怖で頭が一杯だった。

「おい。やばいぞ。ソードが来た!」

少年の一人が声を上げた。そうするとリーダー格の少年を含む全員が一斉に同じ方向を向いた。今だ。逃げるチャンスだ。私がその場から走り去ろうとした時、既に少年たちの方が先に駆け出していた。私は唖然として、少年たちが向いた方を見た。どんな強面が来たのだろうかと思ったが、私は拍子抜けした。

そこには彼らと同年代くらい少女が立っていた。しかし、その落ち着いた感じは見た目よりも年上の印象を与えた。ロングヘアの黒髪の美しい少女であった。少年たちがこの少女を恐れて逃げ出したとは到底思えない。しかし、左手にはおそらく本物と思われる日本刀が握られていた。

「大丈夫でしたか?」

「ああ。助かったよ」

「この辺りは危険ですよ。貴方は外の方ですか?」

エデンの住人にとっては私は相当浮いて見えるらしい。

「ここには取材で来たんだ。君たちの事を調べるためにね」

「取材、ですか。貴方方がここに来て何をしようが勝手ですが、御自分の命の心配もした方がいいと思いますよ」

少女は私が外の人間だと分かるなり、態度が冷たくなったように感じた。エンドメントの多くは外の人間を快く思っていないのだ。自分達のテリトリーを侵しに来たと思われてるのだろう。しかし、エンドメント達と信頼関係を築かなければ私の研究が進まない。ここは一人でも多くのエンドメントと知り合いになっておいた方が良い。

「ともかく、助かったよ。本当に殺されるかと思った。あの少年は火を出せるアベルを持っているのかな」

「ええ。ファイアボールって呼ばれてます。外の人間や自分より弱いエンドメントを襲っている最低の奴です。ここにはそんな奴らが多く居る。だから貴方も私達のこと調べていたら命がいくつあっても足りないですよ」

「そうだね。肝に銘じておくよ。ところで君はああいう奴からエンドメント達を守っている、言わばこのエデンの自警団みたいな者かな?」

「そんなところです。でも団じゃない。私は一人で皆を守ってます」

「一人?君は相当強いんだ?」

確かにファイアボールと呼ばれた少年たちが逃げていくぐらいだ。この辺りでは知れ渡っているのだろう。

「少なくともあいつらよりは」

「ここを守っているのは自分の意思でやっているのかい?それともここには組織があって君はその指示を受けて行動しているとか」

「言ったでしょう?私は一人でここを守っていると。自分の意思でやっています。さて、私はそろそろ行かねばなりません。記者さんも取材はほどほどにしてここを離れる事を勧めます」

呼び止めようとしたが、少女はさっさと行ってしまった。やはり警戒心はなかなか解けないようだ。しかし、彼らの中にも正義感の強い者が居て自分達の力で自分達を守っている。彼らの事が少し分かった気がした。しかし、その代償は大きかった。有り金は少年達が持っていってしまったのだから。


ミズノイシと私はアルシェスとの待ち合わせの場所に着いた。

そこには先客が二人居た。一人はあのアルシェス・キャット。ファイアボールの一件があってエンドメントに対する不信感が若干あったが、アルシェスは約束は守ってくれたようだった。そして、もう一人、おそらく彼がアルシェスの言うラティと呼ばれる人物だろう。ラティは背が低く、アルシェスよりも幼く見えたが

目つきは鋭く、私達に対する警戒感を剥き出しにしていた。おそらく今までで一番の警戒心を向けられている。

「あんたがカーミアルトか?」

ラティは鋭い目つきのまま尋ねてきた。

「ああ」

「俺はラクティス・インフェクション。ラティと呼ばれてる。あんた、俺達を取材に来たんだってな?俺達を取材してどうするつもりだ?」

「君たちを外の人間に紹介して外の人間に理解してもらうんだ。そうすれば、君たちもこんな所に閉じ込められずに自由に外に出られる」

私の研究の最終目標である。私の研究が役人達に理解してもらえれば、エンドメント達を保護するきっかけを与えるかもしれない。

「誰が外に出たいと言った?俺達は誰もそんなことを望んじゃいない。俺達は俺達の意思でここに居るんだ」

「やむを得ずここに来た者、連れて来られた者もいるんじゃないか?全員がここに居たいと思っているわけじゃないだろう?」

「そんな奴等は知らない。とにかく俺達はここに居たいんだ。だからあんたに協力する気はない。アル。もういい。行こう」

「ラティ。ちょっと!」

ラティは去っていき、アルと私達の三人が残された。

「教授。交渉下手ですね」

「もっとよく話せば分かってくれるはず・・・」

「僕もそう思います」

「アルシェス君。君はラティと同じ考えじゃないのかい?」

「実は僕は外に出てみたいんです。だからカーミアルトさんの考えは素晴らしいと思います」

「でも、君はむしろ私達に近いじゃないか?外に出たとしても誰も不審には思わない。私にとってはむしろ君がここに居る事が不思議なぐらいだ」

「僕一人じゃ駄目なんです。ラティも外に出ないと。ラティも本当は外に出たいと思っているはずなんです。結局は僕ら外が怖いんです。だからここに居たいなんて嘘をつくんです」

「そうか。じゃあやっぱりもう一度ラティを説得しないとな。彼の協力がないとこれは上手くいかないからな」

「はい。僕の方からも説得してみます」

そして、アルシェスとも別れ、私達は帰路についた。

「いい子ですね。アルシェス君。私もこの数日、他のエンドメント見ましたけど、あんな純粋でいい子いなかったです」

そう。アルシェスは私の言った事に同調してくれた。今のところ、エンドメントの中で唯一の理解者と言っていいだろう。

良い子。というよりは純粋で無垢な子どものような感じであった。まるで何も描かれていない真っ白なキャンパス。そんな子がここエデンに居るのが不思議であった。

ここエデンに数日、滞在して分かった。エデンではエンドメント達は一致団結しているわけではなく、一人ひとりが思い思いに生きている。弱い者を食い物にして自分の事だけを考えている者が大多数だが、それとは逆に弱者を守ろうとする正義感の強い者も居る。出来るだけ他と関わらないようにしている者も居る。そして、多くの者が外の世界を恐れている。外の者がエデンを恐れているのと同じように。

しかし、アルシェスはその中で誰の色にも染まらずにただ純粋に外の世界が見たいと言った。まるで好奇心大勢な子供のように。

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