プロローグ
超能力というか、魔法と言った方がいいかもしれない。
最近、そういう類のモノが流行している。
誰が言い出したか分からないが、皆、その超能力みたいなモノをアベルと呼んでいる。
旧約聖書『創世記』に出てくるあの『アベルとカイン』のアベルである。
誰がどういう経緯でそう呼び始めたのか、誰も知らない。ただ、このアベルという超能力が存在しているのは確かなようだ。まだ、科学では説明できていない力であるのだが。
アベルを持つ者はエンドメントと呼ばれる。エンドメントとは『持つ者』を意味する。
持つ者、恵まれた者。そういう意味では確かに『創世記』のアベルである。
しかし、エンドメント達はアベルのように恵まれているようで、恵まれていない。
多くの者がその異能力のために世間から迫害され、逃げるようにして一箇所に集まっていた。
この地区は、通称エデン(これもエンドメント達が救いを求めて名付けたのだろう)と呼ばれている。
エデン一帯は、スラム化しており、行政の眼も届かない地区でもある。
役人達も彼らの異能力を恐れて手が出せないのであろう。故にエンドメント達にとっても自由に暮らせる楽園であることは確かなようだ。
自己紹介をしよう。私の名前はカーミアルト。ここエデンに調査のために来た。
私はエンドメントではなく、普通の人間だ。
彼らの能力、アベルについて研究しにやってきたのだ。彼らは外の人間に対して警戒心が強い。
国が調査を公にしようとすれば、彼らがどんな反発をしてくるか分からない。
そこで、私が単独でここに来た。一人の助手は付けてもらったが。
国の研究という目的は大きなものだが、それ以外に、私は純粋に彼らに興味があった。
彼らの能力だけでなく、その心境、心情についても知りたい。
私はそういう思いを抱いて、ここエデンに足を踏み入れた。
しかし、後に気付く事になる。私はなんと生半可な気持ちでここにやって来たのだろうと。
このエデンは私の想像を遥かに超えた場所であったのだ。