直談判
魔導師協会総本部前門、ここは魔導師協会に所属する者すべてが出入りする総本部の玄関である。
もちろんあらゆる物資もここから搬入される。
・・・・・・が、それ故この場は魔導師協会総本部の中でも有数の警戒体制がしかれている場所でもある。
「こんにちはー!魔法道具の納品に来ましたー!」
荷物がどっさりと積まれた台車を引いた少女が前門を訪れていた。
少女は各地から送られてくる様々な魔法道具を集め、それをこの魔導師協会に持ち込む一種の運び屋だ、そしてこの日も彼女は集まった魔法道具を手に総本部を訪れたのだった・・・・・・が
「・・・・・・って、あれ?返事なし?こんにちはー!!!誰もいないのかな?あれ、でも門開いちゃったよ」
少女の呼びかけに全く答えを返さなかった前門だが、その門はなぜかたやすく開いた。
「ま、いっか。・・・・・・って、あっれ、中に入れない?あぁ、なんか結界張ってあるな」
とはいえ魔導師の総本山、魔導師協会総本部である。
そう簡単には進入できぬよう結界が張ってあるのは必然ともいえるだろう。
「・・・・・・。えいっ!てやっ!そぉい!!あ、ラッキー壊れた♪しょっぼいなー協会の結界って。まぁいいや、おじゃましまーす」
少女は結界破壊し、門を潜っていった。
一応明記しておくが、決して魔導師協会の張った結界は弱かったわけでも、彼女が大結界を破壊できるほどの力を持った攻性魔導師だったわけでもない。
だがしかし、なんの因果か少女の集めた魔法道具の中には魔導阻害系統の、しかも第一級に分類される魔法道具があったため、結界は破壊されてしまったのだった。
だが、彼女はこの時知らなかった。
この魔導師協会総本部の中で今繰り広げられている争いに巻き込まれることになるとは・・・・・・
†
「こっちはオレに任せろ!あぁ、そっちは頼む!」
本部内は異常な状態だった。
「くっ、ダメだ!抑えきれない!!」
「諦めるな!くそっ、結界魔導師の応援はまだこないのか!?」
「なんでも外の大結界が破壊されたらしい!そっちの修復に回っちまってこっちにゃ回ってこないだろうよ!」
「大結界が!?やつらそこまでするか・・・・・・!!」
本部中央通路は正に戦場だった。
攻性魔導師たちは必死に不慣れな結界魔法を展開し押さえ込み
しかしそれを破壊せん勢いで前へと進んでくる。
「あの〜・・・・・・」
「なんだ!今は話してる余裕なんてないぞ!!」
「手が空いてるなら他のところに力を貸してやってくれ!」
「いえ、そうではなくてですね・・・・・・」
「くそっ、保たねぇか!?」
「気張れ!ここを通したら後がねぇんだ!」
「ですから私は・・・・・・」
「まずい!突破されるぞ!?」
「えぇい!最悪、麻痺系か痙攣系の攻性魔法を使ってでも止めろ!!」
「聞いてくださーい!魔法道具の納品に来ましたー!!」
「「「「魔法道具だと!?」」」」
「わひゃっ!?」
ここにきて、やっと少女の声は結界を張っている魔導師たちに届いたのだった
「魔法強化系の魔法道具はないか!?」
「いや、むしろ結界装置はないのか!」
「もう身体強化系でも構わん、強化系はないのか!」
「つーかお前等聞くのはいいが結界きちんと維持してくれー!!」
怒濤の如く四方八方から注文がくる、だがいかんせん少女は魔導師ではないのだ
詰まるところ、彼女は魔法道具の効果や系統なぞ、知るわけもないのだった。
「えっと、私には分からないので勝手に持っていってくださーい!元々納品しますか使っても大丈夫だと思います!!」
戦場さながら切羽詰まった状態に少女も機転を利かせたのか、そんなことを言った。
†
「会長!奴ら、もうそこまで迫っていますよ!」
重厚な扉を乱暴に開け走り込んできたナイスミドル、この魔導師協会副会長はデスクに向かう会長に叫んだ。
「もうすぐここまでやってきます!西洋魔導師が必死に止めていますがもう時間の問題かと・・・・・・!」
「まぁまぁ副会長、そう慌てることもないでしょう?彼らだって訴えたいことがあってこんなことをしているんですから、ここまで来ても問題ありませんよ」
バンッ!!
扉を蹴破らんばかりの勢いで開け、大量の人が流れ込んでくる。
扉の前には副会長が居たはずなのだが……
「あらあら、東洋魔導師の皆さんどうしたのかしら?」
会長の言葉に、人垣の中から一人の男が前に出る。
東洋人独特の黒髪に、黒曜石のような黒い瞳を持った若い男だ。
「会長、このような武力行使に出たことをお詫びします。ですが我々にも願いがある……それを、叶えてくだされば我々はすぐに引きましょう」
まず男は、静かに、だがはっきりとそう言った。
男の後ろにいる多くの東洋魔導師たちも、黙ってそれを見守っていた
「それで、貴方達の願いとは何かしら?」
「我々の願いは唯一つ……」
「お前らいい加減にしろ!お前らなんでこんなことを……!!」
そこで追ってきた西洋魔導師たちが会長室に入ってくる。
「お米が食べたい!!」
空気が凍った気がした
だが東洋魔導師たちは真剣なようで会長の返答を待つ。
「米……そう、貴方達の故郷の主食だものね。私たち西洋の者には分らなかったわ……でもね」
「我々東洋の主張を受け入れないのか!?」
「それ、私じゃなくて厨房長に言ってくれないかしら?私はそこまで干渉していないから厨房長に言えばすぐに取り寄せてくれると思うわよ?」
再び、空気が凍った気がした。
誰も、何も言うことができなかった
何も言わなかっ「すいませーん。魔法道具の納品に来たんですけどいろいろ大変みたいなのでサインだけもらえますか~?」
「あら、いつもありがとう。今日も台車一杯に?」
……空気を読まず入ってきた少女に、会長は勿論空気など読まず対応する。
「えぇ、たくさん集めてきましたから!あ、サインどうも。これが納品リストです。それじゃありがとうございましたー!」
「…………ま、まぁなんだ、元気出せよ?俺も米食ってみたいからさ、厨房長に一緒にいいに行こうな」
「………………あぁ」
いろいろありましたが、今日も魔導師協会は平和です。