揺らぎの心
「よかったじゃん」
昨日の夜の出来事を、さっそく佳苗に報告した。
でもどんな子だったんだろう。
佳苗はきになるようでその子の特徴を色々と聞いてきた。
今日一日はとてもハラハラする。
だって、学校までリカちゃんがついてきてるのだから。
なんだろう、過去にこんなアニメを見た気がする。
喋る、生きているぬいぐるみを鞄に忍ばせて毎日学校に通うってやつ。
それほどハマったもんじゃないけど、周りの子たちは好んでいたな。
「あーあ、ほんとつまらんとこやねぇ、学校ってのはさぁ」
どこかの方言で喋る人形……変な人形だ。
有紗はリカちゃんに向かっていった。
「だから喋っちゃいけないって。バレたら先生に没収されると思うんだけど、というかなんでついてきたの?」
「あー、もうしゃーしいやっちゃねぇ。それはリカがかってにここに入ったからやろ?朝にちゃんと荷物確認線といけんよ。朝のおはようも言ってくれんかったし。そんでもってねぇ、夜中から此処におっ」
うるさいのでチャックを閉じた。
しゃあしいのはそっちではないか。
そろそろ放課後である。不安である……。
今日は一緒に帰ってくれるだろうか。また帰られてしまうだろうか。
今日はもう夕暮れのうちに帰ってしまおうと思った。
昨日もどうせいなかったのだろう。今日学校では一度も話しかけてくれなかったし。
やっぱり、嫌われたのだろうか。どうしてだろうか。
やっぱり根に持っているのだろうか。帰れなかった事を。
でも、彼はそんな人ではなかった。
とてもやさしい人だったのだ。普段は意地悪だけれど。
明日は何か言ってみよう。もう帰ってくれないのか訊いてみよう。
他に好きな人でもできたのだろうか。
そういえば、まだ自分のものにはしていなかったな。
ほとばしるような独占欲じゃないけど、やっぱりさびしい。
そんな事を考えていたが、結局黄昏の幕を空は張る。
重い鞄を持ちあげて、ゆっくりと歩いていく。
今日は赤く染まったアスファルトだ。
いつかの自分の気持ちのように、純粋で朱色の切ない色だ。
心にしんみりなんてそれはないかもしれない。
なんだか何も入れない領域を心にまいてしまったようだ。
なんだか口を開くのが嫌になってきた。
憂鬱なのだろうか。こんなことでそうなってしまうのか。
幼い自分を笑い物にしながら、有紗の長い影は揺れていた。
こんなことがあと数日続いたのだ