表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

 とても暗い気持ちでいた。

やっぱり佳苗に手を引いて行かれたあの事を怒っているのかもしれない。

それとも、その前の帰れなかった時のことも?

これからどうしよう、不安が背後で渦巻く最中、あの少女がにんまりと笑って近づいてくる。

「あ……こないだの」

 有紗は手招きをした。

少女は元気いっぱいにこちらへはねてきた。

街頭の下に立つ。本当に懐かしい香りの少女だ。

「えっと、このあいだの忘れもの……あ、家だからちょっとついてきてくれる?」

 おそい時間であったが、早くあれを渡さなくてはという衝動のほうが強かった。

なんとなくだけど、これを手渡せば拓斗がまた帰ってくれると思ったのだ。

ただ、気まぐれで帰ったのかもしれないけれど。

「ここで待ってて、すぐとってくる」

 玄関の前に少女を立たせて、有紗は家の中へはいって行った。

あぁ、扉を開けたら少女が消えているかも。

すぐに見えなくなっちゃうほど足の速い娘なのだ。

玄関の棚に置いてあるリカちゃんをゆっくり握った。


 少女は大人しく待っていた。

とてもまるく美しい瞳でこちらを見上げている。

小さなブタの人形、リカちゃんを少女に帰してあげた。

でも、少女はそれを拒否した。

「わたしあげるっていったんだけどな」

「え……でも、あなたのものでしょう?いらないの?」

 少女はうんうんと頷いた。

ちょっと困ったが、せっかくなのでもらっておく。

一応気になっていた事を聞いてみた。

「えっと、お名前は?」

「いおり、わたし(いおり)

 庵と名乗るその少女は何かを訴えるような眼で有紗を見つめる。

きらきらと瞳の中でゆらめく街灯の光。

有紗は察した。

「あたし、白石有紗。ありさよ、有紗」

 少女は口を半分開けてうんうんと頷いた。

名前わかりましたよ、ということだろう。

でも何かいいたげな顔だ。でも何も言おうとしない。

人見知りをする子なのだろうか。

「おうちはどこなの?」

 少女は口を開こうとしなかった。

一瞬家がないのかと考えたが、個人情報は漏らさない主義なのかもしれない。

「わかった。じゃあ、えっとー……時間大丈夫なの?」

「帰っていいと?」

 急に少女の口調が変わった。

と思ったら、喋ったのは少女じゃなく、人形のほうだった。

庵と同じ声でしゃべる人形……。

「えっ……」


 一瞬何なのかわからなかったが、あきらかにリカちゃんだろう。

さっきからむず痒いと思ったら、身ぶり手ぶりで喋っていたのだ。

「やっと気付いたんね、庵の声はこのリカちゃんがアフレコしとったんよ」

 え、あの……と少々引き気味に有紗が喋る。

リカちゃんは満面の笑みである。ドッキリ大成功みたいな。

「この子が私をあんたにあげるっていいよるんよ。やけ居候させてもらうけ!大丈夫、一応ぬいぐるみやけ場所とったりもせんし、エサもいらんよ?」

「え……えっと」

 気がつくとまた庵の姿はなかった。

またか、と思った。

なんだかこの変なしゃべり方の人形を押しつけられてる気がしてならない。

「早く帰らんと、晩御飯の時間やろ?」

「そうですね」

 わけのわからないまま有紗は家へもどっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ