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冷たいアスファルト

昨日の放課後も、やはり少女の姿を見る事は出来なかった。

もうどうせなら、ばったり会ったときなんかに家にきてもらって渡せばいいか、なんて。

見たことが無い少女を探すのなんて、難しいかもしれない。

佳苗は有紗以上にやる気だったが、そんな事を思い始めたころである。

「ねぇ」

「……なに?」

 さっそく、朝のHR前にこの事を拓斗に言っておこうと思った。

昨日無理やり佳苗に連れ去られちゃったから、詳細や謝罪の言葉まで言い忘れた。

まだ先生が教室に来るまでには時間もあるし、山田さんの姿も見えない。

「昨日はごめんね。急に佳苗がひっぱっちゃうからさ」

「あーうん」

 いつもは元気いっぱいの少年なのだ。

でも、今日は拓斗の表情が晴れてはいない。

何かあったのだろうか。あまり長話はしない方がいいと思った。

「今日は帰れるから」

「うん、解った」

 あとは帰る時にじっくり話せばいいや。

有紗は席に戻った。

こんどは佳苗までもが曇った顔をした。

「んもう、そんなに拓斗が好きだったの?」

「どうして」

 内心かなりのダメージである。

今まで長い間、拓斗が好きだということは誰にも言ってないのに。

小さな小さな、それは小さな爆弾を一つ投げ入れられたようだ。

それでも、彼女は落ち着いた態度を見せる。ここで焦っては。否定をしなければ。

「いやあ、だって昨日の言い訳嘘っぽかったんだもん。でも、まあ信じるよ。というかいちいち謝らなくたっていいでしょう」

「でも可哀想じゃん。こっちから探してほしいってお願いしたのに」

 佳苗はぶるんぶるんと首を振って

「いーや。好きでもなんでもないんだったらいちいち構わなくていいのっ」

 これは消して有紗に対しての嫉妬心ではない。

佳苗はこういう人なのだ。すこし自己中心的なところがある。

まぁ、確かにまわりは佳苗を中心に動くから、そういう性格になってしまうのは仕方がないのかもしれないが。


 そして放課後である。

空はいつもより早く色を染める。

そろそろ衣替えの時期である。

夏服になったばかりの時はまだ肌寒い。冬服に変わる前まで肌寒いなんてどうかしてる。

いつものように校門で待っていたのだ。

やがて、拓斗と同じ部活の人たちが校門から出てくるのが見えた。

そろそろ来てくれるだろう。まず、少女探しの詳細について何から述べようか。

頭で色々考えながらも、久しぶりに一緒に帰るもので心はワクテカだ。

だが、どれだけ待っても拓斗の姿はない。

どうしたのだろう。だんだん心配になってきたが、なんとなく経験から裏切られて先に帰ったのではないかと疑い始めた。

まさかそんなことはないと思った。だって、帰れないと言った時、なんだか少しさびしそうだったからである。

「あ……」

 その表情、今朝の表情によく似ている。

今日は一緒に帰れると告げた直後の拓斗の顔。

その時の顔と同じだった。これはおかしい。首をかしげた。

きっともう帰ってしまったのだ。有紗は淋しいながらも帰り道を歩いて行った。

ほほをさす空気が冷たい。寒いのはこの夏服のせいだろうか、それとも一人のせいだろうか。

どちらかではない。どっちもだ。

暗いアスファルトに吸い込まれるような気持ちで有紗は歩み始めた。

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