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確信へと

今日も変わらぬ朝が始まった。

いつものようにゆっくりと朝食とシャワーを済ませた。

それから長く、量の多い髪の毛の湿り気と、時間との葛藤も済ませた。

これだから毎日のように友達とも待ち合わせに遅れるのである。

だってしょうがないではないか。昨日は頭痛に襲われ入浴なんてできなかったのだから。

悪化するわけではないが、入る気がしなかったのだ。

でも綺麗なものを見た。今日の夜明けすぎだろうか。

青い空に白い雲、雲には日の光が映りこみ桃色になっていた。

桃色と言っても朱味(あかみ)を帯びたもので、それはケチャップとマヨネーズを混ぜたような色だった。

本当に群青色の空と同じくらい美しいものだった。

「へーえ、よく起きれるよね。というか、そんな早起きしてるのにそんなに遅れちゃうの?」

 佳苗は両腕をばたつかせながら言う。

重たい荷物を片手に持ち、その荷物ごとブンブンと。

「いやぁ、なんか最近寝てる途中で目が覚めるんだよね。夜明けぐらいに。二度寝したから」

 落ち着いた声でそういうと、重たそうに体をかたむけ荷物を背負う。

教室に入れば、荷物をこれまた重たそうにどすんと落とす。

ここに座ってもまた佳苗と一緒である。くじでたまたまそうなったのだから。

いままで結構長い付き合いだったと思うが、こう毎日長時間一緒にいると飽きてくる。

なんとなく解らないだろうか、少し距離を置いた方が居心地がいい。

一日中一緒にいても飽きない人間は、ごくわずかしかいない。

どちらかと言えば、積極的に喋ってくる方よりこちらから離しかけて仲良くなった友人のほうがいいのだ。口数の少ない有紗にとってその存在は希少価値なものであったが。


 佳苗は色々な昔の話をしてくる。

たとえば、幼稚園時代の話とか。

ほとんどの場合有紗の記憶の方がついてこれてないが、共感してほしいとおもうネタほど佳苗は知らない事が多い。

たとえば、クラスの竹中(たけなか)くんの弟がうさぎに指をかまれたとか。

「だって佳苗違うクラスだったじゃん。たんぽぽぐみだったでしょう?佳苗はすみれぐみだったよ」

 あー、そっか。そんな会話を数ヶ月後にまたすることがある。

もちろん他の幼馴染と話すことだってあるが、唯一クラスが一緒なのは佳苗だけなのだ。

「そしてさーあ、アリちゃんの落書きまねしたけど……あ、後ろ後ろ」

 佳苗に言われて有紗は後ろを振り向いた。

少し不気味に拓斗が立っていた。

どうしたのかといつものように訊いた。とはいえ、自然体ではなく少し固まって。

「えっと……今日さぁ、一緒に帰れる?」

「え……ちょ……」

 教室でどうどうと言われてしまった。

もちろん、他の生徒のざわめきであまり外には聞こえなかった。

佳苗以外には。

「ねぇねぇ何の話ー?」

「え……」

 ここでようやく拓斗も気がついたようだ。

本当に解りやすい物で、みるみるうちに顔が赤く染まっていった。

佳苗はもうわかりきった顔で微笑んでいる。

有紗は自分だけでも平常心に、頭を回転させてなんとか言い訳を思いついた。

「えっと、女の子一緒に探してもらおうと思って」

「ふぅん、どうして?拓斗に関係が?」

 えっとねぇ、そのー……だってねぇ?

何の話をしているのか拓斗には解っていないだろうが、有紗は必死に同意を求めた。

戸惑いながらも首を上下に振った。

「女の子とあった日にたまたま道で一緒になってね、別れた後に女の子が……」

「はいはい、あいにくだけどアリちゃんは早苗がもらうからあ」

 え、と小さな息を漏らした。

有紗の腕はぐいっと佳苗の胸に押し寄せられ、拓斗はまだガチガチのままであった。

ニコニコと笑い佳苗は腕をひいていく。

「手洗いに行くよ、アリちゃん」

「えぇ……ちょっおま」

 2人の後ろ姿をただ茫然と拓斗は眺めていた。

なんだかグサリときた。

あの2人の態度。なんだかおかしい。

あぁ、そうかぁと確信した。

有紗と佳苗の性格からしてきっとそうに違いない。

1つの考えが大きく刻まれると同時に、小さな力を背中に感じた。

「ねぇ……何の話だったの?」

「いや、なんも」

 山田真由は心配そうな顔をして拓斗を見た。

拓斗は何もなかったかのように席に着いたが、すこし名残惜しそうな顔で山田真由は立ち尽くしていた。

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