第四章
「へぇ、そんで返せないままアリちゃんは持ってるワケだあ」
「そうそう。ほんとどこの家の子だったんだろう。あの時間からして近所の子だと思うんだけど」
有紗はいつものように前の席の子と話していた。
西村佳苗。幼馴染だった。
短くてサラサラな髪の毛をすばやくはらうと、佳苗は鉛筆を左右に振りながら言った。
「あの近辺にそんな子みたことないんだけど?」
「んー、どっか遠くから来た子なのかなぁ」
「髪がすごく長くて、小学生前後でえ……佳苗、そんなの見たことなあい」
そっかそっかと笑って、有紗はシャーペンを握る。
彼女の趣味は、ノートのはしっこにどうでもいい落書きを見事に施すことである。
授業中はいつも暇つぶしとして絵を描いている。
それなりに絵は上達したものだ。とても美術の時間に役立つようなクオリティでもないが。
「今日部活も休みだし……女の子探しにいこっかな」
「え、探すんなら佳苗も一緒にいいかなあ?ちっちゃい子って見てると和むんだよねえ」
もちろん、有紗は了承するとさっそくそれを告げる。
今日の3校時眼は美術の時間だ。移動教室だ。
となると、隣の席は拓斗に決まっている。
今日は一緒に帰れないから。
スケッチブックのはしに薄く書いて指をさした。
「なんで?」
小声で拓斗が言う。
声に出しては周囲に聞こえるし、先生に怒られてしまうのに。
有紗は再びスケッチブックのあきのスペースに、忘れ物あずかった女の子をさがしに。と書いた。
「あっそう。で、誰?」
「えっと……わかんない。けど近所の子だろうと思う」
字を書くのは早くない。
口で言った方が早い。
有紗はさっき書いた文字を消しながら言った。