表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/32

ほっぺのいろはしあわせのいろ

「庵、庵……?」

 ゆっくりと目を開く。

薄暗い室内に、あたたかな光が窓から注ぐ。

頭がすごく重い、どうやらわたしもげんかいのようだ。

庵がそう背水の陣で目をもう一度閉じたときだった。

「えっ、ね、寝てしまうのですか」

 ごめんなさい、わたしはもうここにはいられない。

「それは困るんだけど……ちょっと」

 それはもとはあなたがいけなかったのです。

「起きてってお願い!」

 もうおそいのですよ。

「何騒いでるんだよ、お前」

「あっ、そっかぁ」

 庵は眼を見開いた。

そこには自分を除く有紗と拓斗の姿があった。

なんだか二人は優しい目の色をしていたから、きっと、良かったんだと思う。

「歩けない……かなぁ、よっしじゃあ」

 有紗はぐるりと首をまわして拓斗を見た。

ふわりというよりパサッといった具合だが、長い髪も一緒に動く。

一瞬どうして見つめられているか解らなかったが、照れで赤面する前に悟った。

あぁ、なるほどそういうことか、と。

「落とさないでね、可哀想だから」

「んなこと解ってるって」

 首の後ろと太ももに手をまわすと、軽々と庵を持ち上げた。

妙な温かさを庵は感じた。

頬が赤いのは、照れとか、そういうことではない。

体が熱を帯びているからだ。それと、

不覚にも懐かしさを感じた興奮からである。

「大丈夫……かな、あたし人間を看病した事無いんだけど」

「俺だってないよ、どうしよう……」

 あぁ、しあわせですね。

庵はそう思い、安心して目を閉じた。

夜、ひんやりと冷えた床の上で寝てしまったためだろう。

風邪をひいたのだ。

可哀想に、と頭をなでる有紗と、落ち着かない様子で室内をうろつく拓斗の姿を見て、庵はきゅんきゅんとした。

それほど高めの熱でもないだろう、拓斗はかなり心配をしているようで、

薬は無いよなぁ、病院も無いよなぁ、何すればいいのかなぁ、風邪ってうつしたら治るのかなぁ、

本当に幸せだなぁ、そう感じて再び固くまぶたを閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ