ほっぺのいろはしあわせのいろ
「庵、庵……?」
ゆっくりと目を開く。
薄暗い室内に、あたたかな光が窓から注ぐ。
頭がすごく重い、どうやらわたしもげんかいのようだ。
庵がそう背水の陣で目をもう一度閉じたときだった。
「えっ、ね、寝てしまうのですか」
ごめんなさい、わたしはもうここにはいられない。
「それは困るんだけど……ちょっと」
それはもとはあなたがいけなかったのです。
「起きてってお願い!」
もうおそいのですよ。
「何騒いでるんだよ、お前」
「あっ、そっかぁ」
庵は眼を見開いた。
そこには自分を除く有紗と拓斗の姿があった。
なんだか二人は優しい目の色をしていたから、きっと、良かったんだと思う。
「歩けない……かなぁ、よっしじゃあ」
有紗はぐるりと首をまわして拓斗を見た。
ふわりというよりパサッといった具合だが、長い髪も一緒に動く。
一瞬どうして見つめられているか解らなかったが、照れで赤面する前に悟った。
あぁ、なるほどそういうことか、と。
「落とさないでね、可哀想だから」
「んなこと解ってるって」
首の後ろと太ももに手をまわすと、軽々と庵を持ち上げた。
妙な温かさを庵は感じた。
頬が赤いのは、照れとか、そういうことではない。
体が熱を帯びているからだ。それと、
不覚にも懐かしさを感じた興奮からである。
「大丈夫……かな、あたし人間を看病した事無いんだけど」
「俺だってないよ、どうしよう……」
あぁ、しあわせですね。
庵はそう思い、安心して目を閉じた。
夜、ひんやりと冷えた床の上で寝てしまったためだろう。
風邪をひいたのだ。
可哀想に、と頭をなでる有紗と、落ち着かない様子で室内をうろつく拓斗の姿を見て、庵はきゅんきゅんとした。
それほど高めの熱でもないだろう、拓斗はかなり心配をしているようで、
薬は無いよなぁ、病院も無いよなぁ、何すればいいのかなぁ、風邪ってうつしたら治るのかなぁ、
本当に幸せだなぁ、そう感じて再び固くまぶたを閉じた。