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冷めた夕食のスープ

「おかえりなさい」

「ちょっと待て、それは……」

 驚いた。扉を片手で押しあけて、そこに立っていたのは、拓斗であった。

すこし息を切らせた様子で、そこに立っていたのだ。

ゆっくりと歩みよると、居場所を目で探した。

「おかえりなさい!ねぇ、もうすぐごはんなのよ」

「え?あ、うん……そうか……うん」

 拓斗がぎこちなく頷くと、庵はニコニコと有紗へはねた。

私には関係ない、というように彼女は黙々と食事の準備を再開した。

今、ニンジンを切るところだ。

「食べて行くの」

「うん、じゃあ……そうする……よ」

 少しひき気味の拓斗の態度があまり気に入らなかった。

なんだそれは、もしかして私のご飯を食べたくないとでも言うのだろうか、

無言のままにそう考えを張り巡らせ、タマネギでやられた目を有紗はショボショボと瞬きを繰り返した。

ちりちりというお湯音がぶかぶかに変わった頃、

「ねぇ、ママおなかへったよぅ、まだなの」

 有紗のスカートの裾をくいくいと引っ張り、申し訳なさそうにつぶやいた。

これはお母さんごっこではないの、急いで作ってるからもうすこしだけ待っててくれ。

庵を向こうへ追いやると、泣きそうな声で

「はやくたべたいなー」


 アクを取り除いて、やっとのことでシチューのもとを投入する。

くつくつと非常においしそうな音と香りを放ちながら、物は熱をさらにあげて行く。

シチューに入れたこの茶色い大きな塊を、そのまま舐めあげてみたら、どんな味がするのだろうか。

もしかしたらおいしいかも、それかかなり濃いものになるだろう。

いや、でも油の塊であるからあまりそういうことはしたくない。

自問自答を繰り返す事、やっとで出来上がりましてお皿に次いだ。

救われたシチューからの美味たるにおいが、ついついよこしまな気持ちを生んでしまう。

すこし指につけて舐めた、結果的に人差し指がヒリヒリとしている。

「わーい、ごはんごはんだー」

 庵だけがその喜びの声をあげている。

あとの二人はなんだか居心地が悪すぎて、口を開けずにいた。

「ねぇ、どうしたのー?たべないの」

「あ、うぅん……じゃあ、いただきます……」


 どうしてこう、うまくいかないのだろう。

庵は幼いながらも幼い思考で懸命に考えた。

どうすれば、有紗と拓斗は仲良くなってくれるだろうか、

自分はあの二人が仲良くなってもらわねばこの先、

とても困る事になるし、そうと解ったり自分のせいでそれが歪めばどうなることだろうか。

せっかくここまで無理をしているのに、どうすれば、どうすれば。

庵はそのまま床の上で寝てしまった

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