第十二章
「どうしてよ」
山田真由は一歩川辺陽に歩み寄ると大きく背伸びをして見せた。
嗚呼、言うんじゃなかったと陽の顔は後悔のいを出青ざめていった。
小さくいっぽ、川辺陽は下がった。
魅力的な髪がこれまた魅力的にしんなりと揺れた。
「いえ、貴女が進むならそれでいいの……でもね、彼は貴女を視界にいれたりしてないんですよ」
「わかってる。だから、振り向かせようじゃないの」
「……なるほどですね、失礼いたしました」
思わず丁寧な言葉遣いになる自分にびっくりである。
だって、クラスメイト相手にこんなにおびえたことなんて。
さらに不気味な微笑を表す山田真由に、下手に口を開けては危険が訪れると真実を悟った気持ちでいたのだ。
あぁ、こわいこわいと周りの女子もひそかにささやいていた。
「本人に聞こえちゃうからー……やめなよ」
そんな川辺陽の声でさえも、山田真由と言うこの女は聞こえなかった。
問題はないだろう。みんなの笑い声が大きく大きく広がっていく。
この教室を包み込むんじゃないかとね。
山田真由に向けられたのはそのごく一部だけであったが。
やがて、次の授業が開始された。
ノートに文字を書き、黒板を見上げるたびに彼女の事を思うのだ。
白石有紗、自分をどう思っているのだろうか。
もしかして嫌われているのかもと。
手がなかなか進まなくなる。
彼は授業中、積極的な方だったために、先生が心配して顔色を何度か伺ってきたりした。
大丈夫な訳ないではないか。
正気に戻り、シャープペンシルを走らせるも、どうも動かない。
この後も彼の頭は大きな白と黒の渦にのまれかけることとなった。
一つの案が浮かんだ。
有紗の様子をやはりゆっくり見ていよう。
なんとなく、彼女との帰りが心地よすぎて身を引く事が出来ないのだ。
ここで身をひいてしまってはなんだか後悔をするような。
運命的なもので結ばれたようなものだ。実際そうかもしれないとどこかで思っているわけなのだが。
最近部活をさぼり気味だ。有紗と帰る事が楽しいから。
そんな理由ではない。
一緒に帰るのをいい事に、理由にしてサボっているだけなのだ。