美しいもの
永遠を願う話
「君との婚約を破棄したいんだ」
私の眼の前に座る婚約者が、私の目を見ずにそう言いました。
そんな婚約者の隣で、膨らんできたお腹を撫でながら満足気に微笑む異母妹の姿を見た私は、ほぅ。と一つ息を吐いたのでした。
私の異母妹は美しい。
母が亡くなってから一年後、父が連れてきた美しい愛人親子。
初めて異母妹に会った時、息をするのを忘れた。
透き通る白い肌、光を反射して輝くピンクブロンドの髪、目を惹く若葉色の大きな瞳、そして艶のあるぷっくりとした唇。
声も、鈴を転がしたように可愛らしい。
きっとどんな人も、彼女を一目見たら虜になるだろう。そんな確信があった。
―――そしてやはり。
私の婚約者も、そんな彼女の虜になったようだ。
美しい人。
誰からも愛される人。
あぁ、なんて……。
「本当に美しいね。流石は私の娘だ」
そう言いながら、父は私によく似た横顔でほぅ。と溜息をつく。
「それは私に対して? それともこの子?」
笑いながら聞き返すと、父は注視していた顔をこちらに向け「もちろんお前だよ」と優しく微笑んだ。
我が家の人間は美しいモノが好きだ。
花や蝶、骨董品に絵画。
建物、景色。世の中には美しいモノが溢れている。
美しいモノは良い、心を豊かにしてくれる。
だが、その美しさは時に失われる。
どんなに大切にしていても、モノはいつか劣化する。
それが更なる美しさを生み出す事もあるが、全てがそうとは限らない。
だから私達は、美しさを守るのだ。
美しい愛人、美しい異母妹、美しい姪。
時を止めた彼女達を見ながら、私も感嘆の息をはく。
あぁ、出来る事なら。
まだ姪が腹の中にいた時の、全能感を漂わせたあの美しい顔も残したかった。
「あの男はどうする?」
父に問われ、私は気を削がれた事にムッとする。
「あの子との子が出来た時点で、元婚約者様は実家からは放逐されたのでしょう?」
当たり前だ、あの子は籍を入れていない愛人の子。
婿入り予定の男が、ただの平民と子を成したのだから。
「美しかったけれど、私の好みじゃなかったわ。お父様にあげる」
そう返すと、父はふむ。という顔をしつつも満更ではなさそうだった。
「東の島国では、カラフルなタトゥーを施した肌を剥いで保存するそうだよ。」
「あら、素敵じゃない。東の島国なら、私、桜って花が好きだわ」
父の言葉にすぐに反応する。
あれは本当に見事だった。
「いいね、それにしよう」
そうして二人で顔を見合わせ、私達はまた美しいモノが見られると微笑むのだった。




