1.虐殺
戦場に血にまみれた2人の男が転がっている。
フリフリのドレスを着た華奢な少女が短杖を構えた。
少女は慈しむように言った。
「そう……家族がいるのね、でも手加減はできないの。これが戦場の悲しいところ。ごめんね、死ね」
戦場、いや処刑場の空気があたりに満ちる。その場の空気は、呼吸をするだけでも胸が締め付けられるほどに重苦しい。
次の瞬間、少女、いや"悪魔"が持っている短杖が振り下ろされる。
刃も銃口もなく、重くもない短杖が、なぜ人を殺せるのか。男がそれを疑問に思う暇さえ与えず、グシャリという音を立てて"悪魔"は男を殴り殺した。
"悪魔"がもう一人の男の方を向く。
「あなたは逃がしてあげるわ。行きなさい」
「えっ?あ、はい!」
その男が逃げ出そうとすると、突然足が吹き飛んだ。
男は苦悶に顔を歪めて叫んだ。
「おい!逃がしてくれるんじゃ……この悪魔!」
「その顔いいわねえ。そういうのが見たかったのよ。生きたまま放置してあげるわ。逃げたかったら這って逃げなさい。応援してるわ。」
男の顔からサァと血の気が引いた。男は"悪魔"に目をえぐられ、絶叫とともに絶命した。
"悪魔"はその首を容易くもぎ取る。
静寂があたりを支配する。雨があたりを打ち付ける。
"悪魔"の持つ生首が血を滴らせた。
「うぇっ、ドレスに血が付いちゃった。いつもはつかないのに……まあいいや、そろそろ帰ろうっと。"戦利品"もできたことだし。ああ、ラントに会いたいなぁ」
そう言うと"悪魔"たる少女、レインは歩き出した。
ドレスは血にまみれ、赤く染まっている。
☆★☆★☆★☆★☆
兵舎の一室に、軍服を着た青年――ラントが立っていた。
バン!
扉が勢いよく開き、レインが飛び込んできた。
「ラント~! 会いたかったよ~!」
「ああ、そうだな……って、おい、血まみれじゃないか。またやったのか?それにその生首はなんだ。もうやめてくれよ……洗ってやるから着替えて持ってこい」
「だって、いつもは首をもいでも血が付かないのに、今日はついちゃったんだよ」
服についた血を気にするように言ったレインは、ラントの目の前で事もなげにドレスを脱ぎだした。
「おいおい何をやってるんだ! あっちで着替えてこいよ……」
「いいじゃん、誰もいないんだよ?」
「俺がいるじゃないか」
「別にいいじゃん。ラントにみられて不都合なことはないし」
レインが首元のスカーフをはぎ取り、肩から胸にかけての布をはがす。
本来、縫い合わされていて剥がれるはずのない布地が、いとも簡単にはがれていくのを見て、ラントは首を傾げた。
実際はレインがただ引きちぎっているだけなのだが、ラントにはなぜかそれが、ひどく神秘的なものに見えた。
だが、そんな見惚れるような瞬間も束の間。ドレスの下につけている鋼板もまた、血にまみれているのが目に入る。
「うっ……とにかくあっちで着替えてこい!」
「仕方ないなー。わかったよ」
兵舎にはいつのまにか血のにおいが立ち込めていた。




