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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

え!! 我が国の食糧と財政と防衛と政治とかインフラ諸々ワンマンで担ってる私を追放(封印)ですか!? ~国が立ち行かなくなったから戻ってきてほしいと言ってももう遅い~

(本日は)初投稿です。

「殺せ!」「悪しき女王を引きずり下ろせ!」「正義を執行せよ!」


 窓から外を窺えば、眼下を無数の人々が殺気立って埋め尽くしている。


 もしあの場に飛び込めば、数秒で八つ裂きにされるであろう。


 やれやれ、と私にはもはやため息をつく事しかできない。


 やがて、ドタドタと足音が聞こえてくる。

 城門を突破したか。彼らがここまで来るのも時間の問題だな。


「どうしてこうなったのやら……」


 話せば長くなる。





 *





 私の名はアリアレス。

 この『レィディナ王国』の女王である。


 このクーデターの発端は、一つの根も葉も無い噂だった。


 ――女王は魔法で国民から寿命を奪っている


 というものだ。

 勿論でまかせである。


 とはいえ、そう思うのも無理はない。


 鏡の中の私は、昨日も一昨日も100年前も変わらず同じ少女の姿をしている。


 いつだってずっと同じ容姿で、決して老いる事はないのだ。


 なぜなら私は人間ではない。


 96年前、勇者ルミレスと共に魔王アルナを討った水の大精霊――それが、私なのである。


 私が寿命の無い精霊である事を国民たちに秘密にしていた訳ではない。

 しかし、建国当時を忘れた人々の中には、私がただの人間なのではないかという疑念を抱く者も現れた。


 そこからは酷いものだ。噂にどんどん尾ひれがついた。


 私が戦争を目論んでいる


 国民を選別しようとしている


 私こそが人類の敵(魔王)である


 ……とすら主張するようになった。


 荒唐無稽なおとぎ話も、熱狂する大衆たちの中では真実となり、炎のごとく国中に広がってゆく。


 この戦乱の世の中で、100年近く平和を維持してきた弊害――つまりは平和ボケ。


 言い換えれば退屈、だったのだろう。


 刺激を求める大衆は私という共通の敵を作り上げ、一体感と高揚に酔いしれていた。


 偉大な先人も、こう言葉を遺している。


『大衆は、一時の安心感を得るために安全を捨てるのだ』


 ……と。


「追い詰めたわ! 覚悟しなさいアリアレス!」


 おっと、ついに反乱軍が私の居る私室の扉を蹴破った。


 そして我先に飛び込んできたのは、この反乱を主導する少女――『メリーナ』。

 最初に『女王は国民から寿命を奪っている』と主張したのは、このメリーナなのである。


「絶対に許さないんだから! おじいちゃんの仇!!」


 メリーナの祖父は2年前、82歳で他界している。


 ……普通に大往生じゃないか?


「聞く耳を持たないだろうが一応言っておこう。全て誤解だ」


「うるさいうるさぁい! お前がすべての黒幕なんだってことはわかってるのよ! 証拠だってあるわ!」


「証拠とは?」


「国を守るって言ってたくせに武器や兵器をつくってる! それに毎日寿命を取られた人たちが次々死んでるの!! これが証拠だわ!!」


 ……要するに具体的なデータは無いらしい。


「……武器や兵器は他国への牽制と抑止力にに必要なのだ。

 それから寿命を取られたとは言うが、亡くなった者の年齢層と具体的な数は記録しているのか?」


「うるさいぃ! うるさいんだよぉ! なんか難しい事言って誤魔化そうとしてもあたしにはお見通しなんだからねっ!!!」


 そう言ってメリーナは、私に向けて何かを翳してきた。

 あれは、赤い宝石……?


「これでお前を封印してやるの!」


 メリーナの握る宝石が、突然眩く輝いた。

 これは……魔封じの宝玉か。

 嘗て魔王を封じる為に、ある魔術師が作り出した魔道具だ。こんな骨董品がまだ残っていたとは。


「これは悪い心を持つやつを封じ込める魔法の石よ!」


 私の身体を何本もの光の帯が縛り上げる。

 このまま何もしなければ、石の中に取り込まれ封じられてしまうだろう。


 ……私なら力で封印を拒絶することもできる。

 メリーナもろとも反乱軍を退けることもできる。


 しかし、1度暴力という手段を取ってしまえば2度と信望など得られまい。


 それに、ここまで事態が進んでしまったのは、私の責任でもある。


 ――大衆の愚かさを見誤っていた、私の失敗なのだ。


「いいだろう。その封印、甘んじて受け入れよう」


 私を縛る光の帯が、私を宝玉の中へと引きずり込んで行く。

 視界が半透明な赤色で埋め尽くされる。


 どうやら無事に宝玉の内に封印されたようだ。


 ……ふむ、メリーナが死亡するか意図的に解除しない限りこの封印は解けないか。


 100年近く私はこの国の独裁者だった。

 善政に努めたつもりだが、人々が望むのならば退こうではないか。


 これは私からの親離れの時なのかもしれない。


「お前は殺すにも値しないのよ! そこで私が(・・)真の平和な国を作る所を見ていればいいわ!!」


 ん?


 ……〝私が〟?

 えっ、まさかコイツ王になる気か?







 *






 皆様いかがお過ごしだろうか。

 アリアレスだ。

 あれから4年の月日が経った。


 この国があれからどうなったか。見てもらった方が早いだろう。


 ――国の豊かさの象徴であった城下町は荒れ果て、道はひび割れ雑草が繁茂している。あちこちに骸が転がっていたり、子供たちが枯れ枝のように細い腕で親の死肉を貪っている。

 実に痛ましい光景だ。


 しかし王城の周辺だけは未だに綺麗なままだ。


 どうしてこうなったのか、順を追って話そう。


 まず、メリーナはレィディナ王国の新たな女王となった。


 女王となったメリーナは、私を封じた宝玉をペンダントに加工し、常に身につけて持ち歩いていた。


 私に見せつけるつもりなのだろう、おかげで内側からこの国がどう落ちぶれていったのか全て見れた。


「平和のためにすべての武器と兵器を放棄しますわ!」


 まずメリーナが取りかかったのは、極端な軍縮であった。


 レィディナ王国の周囲の国々では、実に50年もの間戦争が続けられている。


 私は他国からの侵略から国を守るために、精霊としての力を使い戦闘用の魔導人形(ゴーレム)を作り、国境に配備した。それ以外にも核撃魔法の術式を編み出しそれを所持していることを開示したり……。


『攻め込んできたらぶっ殺す!』という抑止力を提示することで、中立国の立ち位置をなんとか獲得したのである。


 おかげで50年間1度も侵略を受けたことはない。


 それを、このメリーナは全て放棄したのだ。

 特に何も考えずに。


 一応、そのおかげで経済は潤った。

 ……防衛費の予算をそっくりそのまま削減したことで、一時的ではあるが余裕ができたのだ。


 しかしこのままでは他国が攻め入るのも時間の問題だろう。


 だが、メリーナが執り行った政策はこれだけではない。

 軍縮の次は、農地の削減だ。


「食べ物なんてこんなに余るくらいあるんだし、畑なんてここまでいらないよね?」


 飢饉等の緊急時に備えておいた食糧の備蓄を見て、メリーナは『余っている』と称した。


 そして、メリーナはレィディナ王国の食卓を支える農地の半分以上を潰すという行動に出た。マジで何考えてるんだ。


「それに……畑を無くせばみんなをお庭のあるおうちに住まわせてあげられるじゃん!!」


 国民の多くは集合住宅に暮らしている。それを狭く息苦しいと感じていたのだろう、メリーナはこれも深く考えずに政策として取りかかった。


 そうしてメリーナ就任から1年後、広大だった農地の半分以上に家々が建てられ始めた。


 国民は大いに喜んだ。

 農家など一部からの反発はあったものの、そういった者たちには10年は遊んで暮らせるほどの大金を与えて黙らせていた。


 ……その金の出所は国庫である。


 更に極めつけはこれだ。


「なんでみんなからお金を奪わなきゃいけないの? 税金なんて意味無いでしょ? 自分のお金は自分のものじゃん!」


 とか言い出して、メリーナ就任から半年後にはレィディナ王国から税金の概念は消滅した。


 余談だが、私が統べていた頃のレィディナ王国の税率は近隣諸国と比較すると極めて低い。

 その理由は、税の代わりに『魔力』を徴収していたからだ。


 徴収した魔力を用いて、医療や軍備、インフラなど様々な運営に使わせてもらった。


 もちろん徴収するのは一定年齢以上の健康な国民からのみである。

 子供や病人、老人は対象から外し、なおかつ健康に影響の出ない範囲でだ。もちろん秘密にはしていない。


 しかし私が封印されたことで魔力徴収の機構はもう機能していない。


 皆が恩恵に預かっていたインフラも、備蓄の魔力が尽きれば使えなくなるだろう。

 その上で税金まで廃止したのだ。メリーナの周囲にはイエスマンしかおらず、誰も彼女の凶行に疑問を抱きすらしない。


 嘗て私を支えてきた宰相や大臣たちは、火炙りにされたか国外へ逃亡している。政治を知るものはもはやこの国には存在しない。


 少しずつ、レィディナ王国に軋みが生じ始めていた。




 ……ここからは2年後の話だ。


 レィディナ王国に、飢饉が訪れた。


 いや、飢饉は厳密には前年にも来ていた。

 夏場に異様な寒波が大陸を襲い、レィディナ王国もその影響を受けたのだ。


 しかしその時は備蓄の食糧を放出することで事なきを得た。

 だがメリーナは、この事を全く問題視していなかった。というか『夏涼しかったね~』程度にしか認識していなかった。


 翌年、夏場の寒波は再びやって来た。

 備蓄の食糧はもうない。


 私が統べていたならば、徴収した魔力を野菜や小麦の生産に回していただろう。農地全体の気温を上げ、寒波の影響を減らすのだ。


 だが、メリーナにそんな事ができるはずもない。


 そもそも、食糧を生産する農地すら潰してしまっている。極僅かな収穫物は、国民に還元されることはなく、メリーナとその側近たちを始めとする富裕層の胃袋に消えた。


 当然国民たちは餓えに喘いだ。

 道行く者たちは皆ガリガリに痩せ細り、この年産まれた子供は半数も生きられない。


「うそぉ、去年はこのドレス入ったのになぁ」


 ……一方のメリーナは、腹の贅肉をギラギラした装飾品どもで誤魔化そうとしていた。


 しかも、だ。

 同時に疫病までもが流行り始めた。


 罹れば激しい下痢と嘔吐に始まり、最期は血を吐いて死ぬ病。

 これが蔓延した。


 我が国の人口は700万人ほど。その内の70万人が、この年に餓えと病で死んだ。


「なんでこんな事が続くのよぉ~!!!」


 メリーナとて何もしなかった訳ではない。


 治癒魔術師や医者などを総動員し、疫病の対応に取りかかった。

 備蓄の魔力を使えば、高位の治癒魔法すらも発動可能となる。初めは余程の重症者でなければ完治することもできた。


 だがしかし、ついに備蓄の魔力が尽きた。患者を治療するための魔法や設備が使えなくなったのだ。

 私が封印されてから、徴収をしていなかったのだから当然である。


 更に極めつけは、国が医療従事者たちへの給料を支払えなくなった事だ。


 メリーナは国庫の金を『みんなお金持ちになったら嬉しいよね~!』と言って、国民たちに配っていた。あと着服もしてた。

 本来ならインフラの維持や公務員の給料などに使うべき金を、である。


 このせいで国庫は僅か2年ですっからかんだ。


「なんで、なんで……なんでなのよぉ……」


 頭を抱えても、メリーナになぜこうなったのか忠言してくれる者はいない。


「メリーナ様のせいではありません」


「きっと隣国の仕業に違いありません」


 イエスマンどもは囁く。『貴女は悪くない』と。

 彼女は反省することすらできないまま、愚行を重ねてゆく。


「そうだわ!お金が足りないならいっぱい作ればいいのよ! あたしったら天才ね!!」


 今度はそんなことを言い出した。

 そして、貨幣を大量に製造し始めたのである。


 更に翌年――国家転覆から3年後、この妙策によりレィディナ王国の経済は大きく持ち直した。

 疫病と飢饉も少しずつ終息の兆しを見せ、国は危機を乗り越えた……かに見えた。


 だが、真の悪夢はここからである。


 突然、あらゆる物価が急上昇したのである。

 この国で日常的に食べられている根菜類は、私が統治していた頃は一個100ボルドー程で購入できた。

 しかし現在は一個5000ボルドーというおかしな値段だ。


 一体何が原因なのか。

 メリーナは原因を突き止めようともせず、再び同じ事を命令した。『ボルドー貨幣と紙幣をたくさん作れ』と。


 だが、物価は下がるどころか数日で更に上がっていった。


 5000ボルドーで買えた芋が、なんと50000ボルドーに跳ね上がったのだ。


 明らかに異常な現象に、さすがのメリーナも原因究明を命じた。


 だが、イエスマンたちはそれでも『貴女のせいではない』と嘯く。




 ――インフレーション。


 何らかの原因で通貨の価値が下がり、高騰を引き起こす経済現象である。


 その中でもこれは、とりわけ極端な現象――ハイパーインフレーションに該当するだろう。


 ちなみにだが、ボルドーは硬貨だけでなく三種類の紙幣も導入している。1000ボルドー紙幣、10000ボルドー紙幣、100000ボルドー紙幣だ。


 特に100000ボルドー紙幣は勇者ルミレスの肖像を使っており、我ながらとても気に入っていたのだが……


 そんなボルドーの価値はもはや、紙屑同然と化した。


 ……それからほどなくして、国民たちは隣国の通貨を利用し始めた。

 当然だ。芋1個に札束を積んで買うよりも、地に足のついたコイン1個で買えるなら私でもそうする。


 中にはレィディナ王国を捨て、他国へ移住する者も現れた。


 国民たちはもはや、メリーナに完全に失望していた。


「ねぇなんで? 誰か教えてよぉ! 何でこうなったの?! あたしが悪いの?!」


「いいえ、メリーナ様のせいではありません」


 イエスマンの口からは、耳触りのいい定型文しか出てこない。


 メリーナ当人も薄々何処かで選択を間違えたのではないか、という疑念を抱いてはいるようだ。しかし、具体的に何をどう間違えたのかはわかっていない様子。


「違うの……違うのぉ……」


 メリーナは初めて、己が孤立無援に置かれている事を理解した。

 イエスマンは決して味方ではないのだ。




 ――国家転覆から4年後。


 隣国『ギルベス王国』が、レィディナ王国へと宣戦を布告してきた。


 レィディナ王国が軍事兵器を用いてギルベス王国の民を傷つけたその報復、という大義名分だ。


 もちろんそんな事実はない。私が開発し配備していたゴーレムや魔導砲といった兵器は、メリーナが放棄してしまったのだから。


 だが、その兵器がギルベス王国の人間を殺傷したという部分だけは真実である。


 あろうことか、兵器を破壊した後にギルベス王国との国境付近の森に投棄したのだ。


 それを接収され、自作自演の大義名分作りに利用されてしまったのである。


 ギルベス王国が侵攻してきた理由だが、至極単純だ。

 私という『抑止力』が消えた事を、確信したのだろう。


「なんで、なんで戦争が起こるのよ!? 悪い兵器も軍も捨てたのになんで酷いことをするのよ!!?」


 そう嘆くメリーナの側に、イエスマンはもはや1人もいない。


 もうこの国は終わりだと悟ったのだろう、彼らはため込んだ宝物を持って恐らく国外へ逃亡した。


「南東の国境にギルベス軍四万! このままでは明日には都市部が壊滅します!!」


「へ、兵を集めて! ありったけ!! 返り討ちにして!!」


 メリーナはごく僅かに残した私兵をかき集め、防衛へ向かわせた。その数はわずか千人。


 翌日――

 送り出した兵士たちがそっくりそのまま死体と化し、そして地方都市が陥落したとの情報がメリーナの耳に伝わった。


「嘘よ……」


 ――無力。


 ――戦う力とは、敵から守る力。


 城から出てみれば、あちこちに飢えて死んだ子が倒れている。金も食べ物も無い。


 ここには、民を守る力も国としての体裁を保つ何もかも残っていない。


 それらは全て、メリーナが自らの意思で放棄したのだ。


 そうして無駄に項垂れるメリーナの耳に、外の喧騒が入ってきた。


「……? 騒がしいわ?」


 窓の外を見下ろせば、たくさんの群衆が城の周りに詰めかけている。


 彼らはギルベス王国の侵攻を耳にし、この中央都市へ避難してきた難民である。


「メリーナ女王! なんとかしてください!」

「国外へ逃げる食いもんも金もねぇんだ!」「女王だろ、助けてくれよ!!」


 メリーナには……何もできない。

 政治の一切のノウハウも無いまま、『なんとなく』で国を動かし続けてきたのだから。


 側近に政治に携わったことのある者がいればまだ幾分かはマシだったかもしれないが、それも彼女の意思で処刑や追放されるなりしている。


 群衆の助けを求める声は、だんだんと理不尽への怒りと不満に変わってゆく。


「そもそもこんなことになったのはメリーナ女王のせいだ!」

「そうだ! 税金を廃止したのも農地を縮小したのも、全てこんな事に繋がっているじゃないか!!」

「アリアレス様を排除したのがそもそもの失敗だったんだ!!」


 怒りは、不満は、伝播する。


「殺せ!」「悪しき女王を引きずり下ろせ!」「正義を執行せよ!」


 窓から見える眼下には、無数の人々が殺気立って埋め尽くしている。


 もしあの場に飛び込めば、メリーナは数秒で八つ裂きにされるであろう。


 やれやれ、と私にはもはやため息をつく事しかできない。


 やがて、ドタドタと足音が聞こえてくる。

 城門を突破したか。彼らがここまで来るのも時間の問題だな。


 どうしてこうなった(・・・・・・・・・)のやら。



「――と、思っていますね?」


 唐突に、メリーナの背後から男の声が聞こえた。


「誰!? あ、あんたは……」


 あの男、確かメリーナを囲っていたイエスマンの1人だ。

 名は、そう……『ペディア』だったか。


「ごきげんようメリーナ女王陛下。どうしてこうなったのか、知りたいでしょう?」


「何者なのよあんたは……」


「スパイでございます。ギルベス王国の」


「っ!! ってことは、全部お前のせいってことね!」


「いいえ、違いますよ?」


 ペディアはぴしゃりとメリーナを窘めた。


「私が行ったのは、あくまで情報収集のみ。四年前のクーデターも、それ以来の国政も、私はあくまで貴女の言いなりに努めてきただけです」


「じ、じゃあどうしてこんなことになってるのよ!!」


「全て貴女のおかげ(・・・)です。アリアレスという怪物が健在ならこう上手くはいかなかったでしょう。

 しかし貴女は、アリアレスを排除してくれた。


 ――それからもあらゆる軍事力を放棄し、税金という国の血液の循環を断ち、食糧を支える農地を捨て去りこの国の強みを全て消す努力を惜しまなかった。おかげで楽にこの国が手に入ります。


 ありがとう(・・・・・)、ギルベス王国を代表して貴女に感謝します。


 ――稀代の愚王メリーナ陛下よ」


「あ、あた、あたし、の、せい?」


 ペディアは言い終えると、何処かへ姿を消してしまった。


 残されたメリーナは、その場にへたりこんで動かなくなっていた。


「アリアレス……アリアレスぅっ!! 出てきなさいよ! 助けてよ!」


 メリーナは私が封印されたペンダントを握り締め、泣きじゃくった。


 ……。


 私に縋るか。


 ――封印の解除方法は二つ。術者の死か、術者が自らの意思で封印を放棄すること。


 今、メリーナは高らかに宣言した。私に出てこいと。


 紅き世界に亀裂が入り、砕けてゆく。


 辺りの空気に自由が満ちてゆく。


 私を縛る封印は今、メリーナの意思で解かれた。


「……メリーナ」


「アリアレス……! お願い、あたしをあいつらから助けて!」


 はぁ。


 〝あたしをあいつらから助けて〟?


「――何を言っている?」


「っ!!?」


 私はほんの僅かに〝殺気〟をメリーナへ向けた。


「我が身可愛さに私に助けを請うとは笑止千万。国を背負う資格など貴様にある訳もない」


 自分が愚かだった、悪かった、国を助けてほしい。


 建前でもそう言うのであれば、まだ力を貸す気にもなっただろう。

 国を想う気持ちがあるならば彼女を『女王』として認めていただろう。


 だが、窮地に立たされた今、メリーナは自分の身の事しか考えていなかった。

 最後まで期待していた私が愚かであった


「お前はこの国の〝王〟なのだろう? ならば最期まで務めを果たし殉じよ」


「おねがい! あたしもう王様なんていやなの!」


 ……大方、その場のノリとキラキラしたイメージで女王になったのだろうな。そこには深い考えもなく、かといって深く考えようともしない。


 メリーナが女王を辞める機会はいくらでもあった。


 飢饉が起きた時も、財政難に陥った時も、疫病が蔓延した時も。自分の身の丈には合わないと知り、退く判断もできたはずだ。しかし、メリーナは目を背けた。


 自らの命に危機が迫ったから王をやめるだと?


「……もはや救う価値すら貴様には無い」


「ま、待って!! なんでもするから、助け――」


もう遅い(・・・・)


 メリーナを無視して、私は窓から飛び立った。

 群衆は私を見上げて各々驚いた様子だが、それも無視して上空へと駆け昇る。



 ――レィディナ王国は、私の気まぐれで死にかけた者を魔法で癒してやった事から始まった。


 その者は元気になると、私の元へ親や子を連れてきてこの地に定住した。


 悪い気はしなかった。


 それから私は困った者がいれば、できる限り助けるようにした。


 そんなことを繰り返す内に、いつの間にか私を慕う者たちが集まっていた。

 それはいつしか村となり街となり、国へと成長していった。


 勇者ルミレスにフラれ、傷心の私を慰めてくれたのがこの国なのだ。



 それを奪おうとする者どもは、許さない。


 遥か遥か上空。空が黒く見えるほどの高度から見据えるは、我が領土を侵すギルベス王国軍ども。


 私がなぜ『抑止力』なのか、痴れ者どもに教えてやろう。


 私は奴等に向け手を翳し――


「――広域水魔撃(アクアアルタ)


 1発だけ、魔法を撃った。


 されどそれで充分。


 天より雨が国中へと降り注ぐ。


 それは、我が国の民にはただの雨粒。


 それは、痴れ者どもには鉛の弾丸。


 降り注ぐ雨が、万のギルベス王国軍どもの脳天を貫き即死させてゆく。


 あえて生かした奴等は急いで退却してゆく。

 そうしておくことで、抑止力()の復活を知らしめてもらうのだ。





 さて。




「あ、アリアレス様がお帰りになられた! これでこの国は救われる……!」


 それから地上へと降りた私が見たものは、私を見上げて手を合わせる大衆と、磔の上にされ変わり果てたメリーナだったものだ。


「アリアレス様! 我らをお救いください!」

「またこの国を統べてください!」


 そんな彼らに、私は――


「私はもう、この国を統べる気はない」


 と答えた。


「い、今の我らには貴女様のように(まつりごと)など執り行える訳がありません……! またメリーナのような者が現れるかもしれませぬ!」


「……そもそも私を政治から引きずり下ろし、メリーナを元首に据えたのは他ならぬ貴様らだ。私からの脱却を望むがままにさせた結果がこれだぞ。それで都合が悪くなったから戻って来いと?」


「そ、それは……」


 やれやれ、『ごめんなさい』も言えんのかこやつらは。


「ギルベス軍を追い払ったのはケジメだ。私はもう2度とこの国には関わらない」


 そう言って、私はこの国を飛び去った。


 ――人間が一概に醜悪だとは思わない。

 だが私は、いささか人間に期待し過ぎていたようだ。



 さて、これからどうしようか。


 しかし勇者ルミレスと別れてから99年か。

 そろそろあの魔王アルナが復活する頃だ。


 ……アイツ、ルミレスにぜってぇ惚れてたよな。許せねぇぜ。まあ私もフラれたんだけども。


 このまま目的もなく放浪するのも癪だ。


 ルミレスの子孫の様子を見に行ってみるのもいいかもしれない。


 私は遥か地平線の彼方にあるルミレスの故郷を目指し、飛んでゆくのであった。





お読みいただきありがとうございます。

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馬鹿共に漏れなくバチが当たっていい気味でした
うーんうーん(汗 ホラー……ホラーですよコレ……(汗 昨今のアレやコレやが頭をよぎりまくって苦笑いが絶えませんでした(汗 いやまあ単にイメージだけで突っ走ってやらかす人っていますから、ファンタジー…
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