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脳筋戦士ぴこたん、今日もネットの罠に釣られる! 〜やらかすたびに強くなるリテラシー勇者冒険譚〜  作者: ぴこたん
第一章 基礎編

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第9話 アーカイヴ聖堂の決断――ベアメタル鏡写しとVM転位(前編)

インフォシティの朝は、いつものように光に満ちていた。

市場の露店が並び、パン屋の香りが風に乗って漂う。

ギルドの石段は訓練場へと続き、その前で新人冒険者たちが掛け声を上げていた。

筋肉自慢のぴこたんが「スクワットは心の更新パッチぴこ!」と謎の標語を叫んでいる。


「また始まった……」ミミが笑い、ルークは肩をすくめる。

おぬしは水晶板に予定を書き込みながら、今日はギルドの古文書庫へ行く段取りを確認していた。蔵書の目録と街の記録石のスナップを採る――いつも通りの、退屈だけど大事な仕事のはずだった。


そのときだった。風向きが変わった。

空の色がほんのわずか、灰へ寄る。通りの喧騒が薄皮一枚はがれたように遠のき、魔導ランタンが小さく瞬いた。誰かが落とした木箱が、音もなく地面に着地する。


「……今の、聞こえたか?」

ルークの声は低く、周囲に散る魔力の気配を探っている。


次の瞬間、街中の石板に走る細い亀裂のようなノイズ。

会計書、契約書、地図、写真――ありとあらゆる記録が、一頁ずつ白く溶けていく。文字が砂のように崩れ、絵が霧に戻り、数字はゼロになる。市場の露店主が悲鳴を上げた。


「目録が……」「口座が真っ白だ!」「私の家計簿がぁぁ!」


ぴこたんの水晶板に保存された「マッスル写真年鑑」も、サムネイルが一斉に白紙へ変わっていく。

「ひ、ひぇええぇぇぇ!?オレのマッスルが……消えていくぴこぉぉ!!」


街の空気が冷え、風の音が消えた。

石畳の隙間から黒い霧が立ちのぼり、縫い合わさるように一つの影を形作る。痩せこけた手、歪んだ冠、裂けた口の奥は底なしの闇。影は囁いた。


「残らぬ記録に意味はない。消えよ。忘れよ。無に帰れ」


データ喰らいの亡霊――《ロストリーパー》。


---


「来たか……」おぬしは息を呑み、ルークと視線を交わす。

「あれは“消去の嵐”の本体。記録そのものを食う魔物だ」

ミミが青ざめて言う。「やだやだやだ、私のアルバムも、研究ノートも……!」


ロストリーパーは片手を掲げ、街の上空に薄い波紋を広げた。波紋が降りてくるたび、看板の文字が消え、商人の伝票が白くなり、吟遊詩人の譜面が空白へ変わる。波紋は記憶の層へ染みて、やがて“存在したこと”をも削ごうとしていた。


「止めねばならぬ」ルークが剣を構える。「が、切っても切れぬ。これは“記録層”への侵食……防ぐ盾では足りん」


「ならば――戻すぴこ!」

ぴこたんがいつもの調子で吠える。「消されたなら、もっと強いマッスルで上書きするぴこ!」

「上書きって言ったって、素材がなければ……」ミミが涙目で抗議する。


おぬしは頷いた。「“素材”はある。――バックアップだ。復旧のために、日々刻んできた“街の影写し(イメージ)”が」


ルークの眼が光る。「アーカイヴ聖堂へ」


---


アーカイヴ聖堂。

インフォシティの中心から少し地下へ降りた場所に、白い大理石の円堂がある。天井は浅いドームで、中央に巨大な鏡が据えられていた。鏡は水面のように揺れ、時折、街のどこかの瞬間を映し出す。


ここには三系統の魔法が流れている。

主記録(今の世界の姿)、影写し(定期的に写し取った“イメージ”)、そして遠隔保管(街の外、峠の向こうにある保管庫へ送られた写本)。

司書たちが毎晩祈り、石板に刻むのは、忘れないため、戻るための準備だった。


「間に合ってくれ……」おぬしは主祭壇の手前で両手を広げ、鏡に触れる。

鏡面にさざ波が立ち、記録の目録が浮かび上がる。時刻、写しの種類、範囲――まるで街全体のフルバックアップ(全体像)と増分(変化したぶんだけ)のカタログが星座のように並ぶ。


ミミが顔を上げる。「ある?昨日の夜、わたし、研究ノートの更新したばかりなんだけど!」

「ある。昨夜の“増分”と、一昨日の“全体フル”。これで――戻せる」


「待て」ルークが手を挙げる。「復旧は“どこ”へ?今の市中は侵食を受けている。現地へ直接戻せば、また食われる」


おぬしは頷いた。「だから“別の器”へ。ベアメタル鏡写しで作ったイメージを、新しい箱に“まるごと”宿す。

――VM(仮想器)への転位で、場所すら越えて再起動する」


「ベアメタル……転位……?」ぴこたんは首をひねる。「筋肉で例えてほしいぴこ!」


「はいはい」ミミが微笑み、ぴこたんをなだめるように手をひらりと振って制した。

「“ベアメタル鏡写し”ってのは、筋肉だけじゃなくて筋肉を動かす神経も、反射も、クセも、ぜーんぶ“まるっと写し取る”感じ。

VM転位は、その“まる写しのぴこたん”を“別の身体”にスポンと入れて立ち上げる魔法、ってこと」


「すごいぴこ!つまり――“器が壊れても、魂の写しがあれば、どこでも復活できる”ってことぴこな!?」

「そう」おぬしは頷く。「だからこそ、復旧が本体だ。写すだけでは足りない。戻せてこそ意味がある」


そのとき、聖堂の扉を叩く音。

外はもう白い砂嵐のようだ。ロストリーパーの波が、聖堂の壁へもじりじりと近づいている。


---


聖堂の空気が一瞬、きしむように揺れた。

鏡の周囲を巡っていた光の糸がぷつりと切れ、外の白い砂嵐の影が、聖堂の床をじわりと染めていく。

ロストリーパーの囁きが、壁越しに聞こえた。

「ここも、いずれ白くなる……記録の避難所など無意味……」


司書たちが息を詰める。祈りの声が震え、鏡面の光が不安定にまたたいた。

おぬしは深く息を吸い、仲間たちを見回した。

「……準備は整っている。だが、これからが本番だ。

 影写しの力を引き出し、街を“戻す”戦いが始まる」


ぴこたんは拳を握りしめ、ミミとルークも無言でうなずく。

聖堂の扉が軋み、砂嵐の音がひときわ大きく響いた――。


---


ここまで読んでくださってありがとうぴこ。

今回は前後編の前半で、インフォシティに異変が起きて、アーカイヴ聖堂にたどり着くまでを描いたぴこ。

後半ではいよいよロストリーパーとの本格的な対決と、バックアップ魔法の真価が明かされるぴこ!

もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいぴこ。

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