第58話 炎上ビジネス ――故意に注目を集める悪質手口
インフォシティの南側、商店街の通りには早朝とは思えないほどの行列ができていた。
まだ店のシャッターが開ききっていないのに、ざわざわとした熱気が街を満たしている。
行列の先頭には、どぎつい赤色の看板が光っていた。
「なにこの看板……
“バカでも飲めば天才になれるジュース”?」
「『ライバル商会をぶっ潰せ!』って書いてある……
煽りすぎじゃない?」
言葉と同時に、通りすぎる市民の眉がひそめられ、しかし足は止まる。
嫌悪と好奇心が綱引きするように、ざわざわと人が増えていった。
「なんかムカつくんだけど……逆に気になるよな」
「これ話題になってるし……試しに買うだけならいいかも?」
その様子を横目に、ぴこたんたちが近づいていく。
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「ふっふっふ、なるほどぴこ。
わざと怒らせて注目を集めてるぴこね!」
胸を張るぴこたん。その横でミミは小さくため息をついた。
「うん……これ、炎上商法だよ。
わざと反感を買って、“拡散”されることを狙ってるの」
リナは腕を組み、冷たい視線で店先を観察していた。
看板の派手さだけではなく、周囲に貼られた煽り文句、
口コミを装った紙片まで細かくチェックしている。
「短期的には話題も売上も稼げる。でもね――
信用を削り取る危険なやり方よ。
一度ついた不信は、後からでは取り戻せないわ」
ルークは通りの空気を感じ取りながら、剣の柄に手を置いた。
市民の声が次第に熱を帯びていくのを感じているのだ。
「怒りと興味を同時に煽る……その背後には必ず魔が潜んでいる」
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その時だった。
店の奥から、突然空気が揺れ、熱が込み上げてきた。
看板の裏に積まれていた炎の結晶が砕け散り、
炎をまとった影がゆらりと立ち上がる。
「ちょ、なにアレ……?」
ミミが後ずさる。
炎は集まり、やがて人型となった。
燃え盛る火柱が腕となり、口元は嘲笑とも怒号ともつかない歪んだ形にねじれている。
「我は《フレイム・バズラー》。
怒りと嘲笑を燃料に、力を増す炎上の魔――!」
叫びとともに、群衆のざわめきが一気に熱を帯びた。
「なにあの店主!絶対おかしい!」
「でも見てよ、SNSでももうバズってるって!」
怒りの声、皮肉の声、そして興味の声。
そのすべてが炎の魔物の体に吸い込まれ、火勢がさらに大きくなっていく。
《フレイム・バズラー》は笑った。
「もっと怒れ!もっと広めろ!その熱が我を無限に燃やすのだ!」
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ルークが一歩踏み出し、声を張った。
「炎上は偶然ではない!
仕組まれた罠――“怒りを使った集客”だ。気を抜くな!」
リナは巻物を開き、炎の光に照らされながら数値を見せる。
「見なさい。この急激な売上の伸び……
でも三ヶ月後には信用を失って客離れ。
“話題性”に頼った店の末路は、いつも同じなの」
ミミは人々の間に走り、声を張り上げた。
「みんな!一回立ち止まって!
シェアする前に、“これ誰の得?”って考えて!」
しかし人々の指は止まらない。
怒りを投稿し、皮肉をつぶやき、スクショを貼る。
その一つひとつが燃料となり、《フレイム・バズラー》の炎が巨大化していく。
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「もう止めるしかないぴこ!」
ぴこたんが飛び出し、全身を輝かせた。
「《心盾筋壁》!」
光の筋肉の壁が広がり、群衆を包んだ。
怒りの炎が壁にぶつかるたび、バチッと音を立てて弾かれていく。
「ふん、そんな光で炎上は防げぬ!」
《フレイム・バズラー》はさらに火力を上げる。
ぴこたんは歯を食いしばった。
「うおぉぉ……思ってた以上に熱いぴこ……!」
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「冷静さを取り戻せ!」
ルークが剣を掲げ、《冷静結界》を展開した。
ひんやりとした風が吹き、
群衆の胸の奥にこびりついていた焦燥と怒りがすっと溶けていく。
「……あれ?なんで私、こんなに怒ってシェアしたんだろ」
「別に関係ないのに、つい……」
ミミの声も群衆に届く。
「炎上の“熱”は魔物の餌なんだよ!
怒りのシェアは、相手を喜ばせるだけなの!」
一人、また一人とスマホを下ろし始める人々。
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「今だぴこっ!!」
ぴこたんが拳を握りしめ、地面を蹴った。
「必殺――《痕跡破砕拳》!!」
光の拳が炎を割り、
巨大な火柱を貫いて、中心にある黒い核へと叩き込まれた。
「ぐぉぉぉ……!怒り……もっと……!」
炎の魔物はひび割れ、
吸い込んでいた“怒り”や“嘲笑”が煙となって空へ散っていく。
やがて魔物は、炎とともに消え去った。
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静寂が戻り、商店街には涼しい風だけが吹き抜けた。
「怒りで広めてたけど……結局、相手の思う壺だったんだ」
「炎上に加担するって、こういうことなんだね……」
ルークは剣を納め、静かに告げた。
「炎上は一夜で利益をもたらすが、信用は永久に失われる」
リナも頷く。
「個人でも企業でも、信頼こそが最大の資産よ。
それを削る戦略は、必ず自分に返ってくる」
ミミは拳をぎゅっと握った。
「わたし、もう怒りでリツイートしないようにする!」
「ふっふっふ、オレは筋肉でしか炎上しないぴこ!」
ぴこたんのドヤ顔に――
「「それはそれで危ないわ!!」」
仲間全員のツッコミが炸裂した。
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――教訓まとめ――
今回のテーマは 「炎上ビジネス」 ぴこ。
怒りや不快感を“わざと”生み出し、話題をさらって一気に売上を伸ばす――
そんな危険な手口は、便利さよりもずっと速く広がるぴこ。
でも覚えておいてほしいぴこ。
炎上で得られるのは“一瞬の注目”だけ。
失われるのは“信頼”という、二度とすぐには戻らない大切な資産ぴこ。
怒りをシェアする手は、いつの間にか相手の利益のために動いてしまうものぴこよ。
みんなも覚えておくぴこ!
1.炎上商法は「わざと不快にする」戦略。乗らないのが最強の対策
2.怒りやモヤッと感は“誰の得か?”を一度考えてからシェア
3.短期の話題より長期の信頼がブランドを育てる
4.“共感の拡散”と“怒りの拡散”はまったく別物。後者は魔物の餌ぴこ
ルーク「怒りは鋭いが、判断を鈍らせる。冷静さを手放すな」
リナ「信頼は積み上げるもの。壊れるのは一瞬よ」
ミミ「ムッとしても深呼吸。感情はシェアしなくていいんだよ」
ぴこたん「オレの筋肉は自然発火ぴこ!……って、なんでみんな引いてるぴこ?」
「「引くに決まってるだろ!」」
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次回予告:
都市の中心、《中央アーカイブ》に忍び寄る“見えない改ざんの影”。
書き換えられる記録、揺らぐ真実――インフォシティの基盤が今、崩れ始める。
ぴこたん一行は、嘘を量産する多頭の魔物に挑む――。




