第44話 ネットと選挙 ――『みんな』が決める未来
インフォシティの空に、鐘の音が鳴り響いた。
「選挙まで、あと三日!」
都市中に魔導スピーカーの声が流れ、市民たちは一斉に振り返る。
中央広場の巨大スクリーンには、候補者たちの映像が次々と映し出されていた。
ある候補は清廉な笑顔で「街を安全に!」と訴え、
別の候補は熱い口調で「経済成長を!」と叫ぶ。
空気はまるで祭りのように高揚し、人々は熱気に包まれていた。
「おおお、筋肉推しの候補はどこぴこ!?
筋肉党はないのかぴこ!?」
ぴこたんは目を輝かせ、スクリーンに映る候補者の腕を食い入るように見ていた。
「筋肉党なんて聞いたことないよ……」
ミミは溜息をつきながら端末をスクロールする。
「でも、なんか最近私のSNS、
同じ候補者の応援動画ばっかり流れてくるんだよね。
“この人しかいない!”みたいに……。
逆に別の候補を悪く言う記事もすごく多いし……。
正直、何を信じたらいいのかわからなくなってきた……」
ルークが険しい表情を浮かべる。
「それが“ネット選挙”の落とし穴だ。
印象操作やフェイクニュースが簡単に拡散され、人の心を操る。
アルゴリズムによって“見たいものしか見えない”世界に閉じ込められることもある……」
リナは冷静に付け加えた。
「投票は街の未来を決める契約。
情報が歪められたまま決断すれば、契約そのものが不正確になってしまうわ」
群衆の声が高まり、空気がざわめきに包まれていく。
「○○候補しかいない!」
「△△候補は裏切り者だ!」
「みんな言ってるぞ、間違いない!」
ぴこたんは目を丸くして辺りを見回した。
「お、おぬし!みんなすごい熱気ぴこ!
この流れに乗るしかないぴこー!」
「いや落ち着け!今のは“流されてる”だけだ!」
おぬしは慌てて制止する。
その時、広場の地面が震え、光のチラシが宙を舞った。
空気を裂いて現れたのは、巨大な化け物――《選挙幻影獣》。
そいつは巨大な口を持ち、吐き出すたびに無数のビラがばらまかれる。
「○○候補、必勝!」
「△△候補、裏切りの証拠!」
「世論調査:支持率90%!」
ビラは空中で光の幻影となり、人々の頭の中に直接刷り込まれていく。
「な、なんだあれは……!?」
ミミが後ずさる。
ルークは剣を構えた。
「あれは情報の魔物だ。
人々の感情を煽り、“みんな言ってる”という幻影を作り出す」
リナは険しい顔で囁く。
「……偽の世論調査に、匿名アカウントの大合唱。
広告の裏では莫大なお金が動いているはず」
「フハハハ!」
キャンペイナーが咆哮した。
「市民よ、考える必要などない!
みんなが支持している候補に投票すればいい!
大衆の声こそ真実! 流れに逆らう者は愚か者だ!」
群衆が次々と叫び始める。
「そうだ! みんな言ってる!」
「疑うやつは敵だ!」
ぴこたんは目を輝かせて拳を握る。
「おぬし! すごいぴこ!
みんなが言ってるなら間違いないぴこな!」
「だから落ち着けってばぁぁ!!」
幻影獣の周囲に、SNSのタイムラインのような光の帯が浮かび上がった。
そこには短いメッセージが次々と流れていく。
《#○○候補しか勝たん》
《△△候補は闇の手先》
《みんな知ってる事実!》
無数の匿名の声が波のように押し寄せ、群衆の思考を覆い尽くす。
ミミが必死に叫ぶ。
「待って!でもこれって本当に“みんな”なの?
もしかしたら同じ人が何百ものアカウントで……」
しかし群衆の耳には届かない。熱狂と怒号が街を支配していた。
「くっ……!」
ルークは剣を高く掲げ、魔法を解き放った。
「《検証の術》!」
光の剣が走り、ビラや幻影を貫く。
一部のビラが破れ、偽の数字や歪んだグラフが露わになった。
「支持率90%」と書かれたグラフは、実際には母数10人の偏った調査にすぎなかった。
おぬしも魔法を放つ。
「《真源光索》!」
光の糸がビラを伝って伸び、偽の情報源を指し示す。
背後には怪しげな闇商会の印が浮かび上がった。
「な、なんだぴこ!? 全部仕組まれてたぴこか!?」
リナは群衆の前に立ち、手に公式の刻印が押された書簡を掲げた。
「市民のみなさん!
本物の選挙管理局からの情報です!
投票方法や候補者の公示は、ここに正しく記されています!
偽の広告や噂ではなく、公式の情報を信じてください!」
群衆の一部がハッと目を覚ます。
「……本当だ、公的な印がある」
「公式の情報を見なきゃ……」
しかし幻影獣はなおも咆哮する。
「違う!考えるな!流れに乗れ!大衆の声に従え!」
ぴこたんが拳を握りしめ、前に飛び出した。
「うおおお! 今こそオレの出番ぴこーーー!!」
筋肉が光り輝き、広場全体を照らす。
「必殺――《筋正拳投》ッ!!」
渾身の拳が光のチラシを次々と粉砕し、幻影獣を直撃する。
キャンペイナーの巨大な口が裂け、吐き出していた幻影の群れが一気に霧散した。
「ぬぐおおおおっ!? 民意は幻影! 幻影こそ力……!」
最後の咆哮を上げ、幻影獣は光の粒となって消え去った。
静寂が広場を包む。
群衆は呆然としながらも、少しずつ冷静さを取り戻していった。
「……危なかった。誰かの噂に流されるところだった」
「自分で考えて投票しなきゃ」
ルークが静かに剣を収める。
「民主の力は正しい情報と冷静な判断にかかっている。
流れに飲まれず、自ら選ぶことだ」
ミミは頷きながらつぶやいた。
「情報が多すぎても、最後に選ぶのは自分……。
それを忘れちゃいけないんだね」
リナは微笑みつつも真剣に言葉を重ねる。
「投票は街と未来の契約。
自分で調べ、納得して署名するようなもの。
誰かの声に任せるんじゃなくて、自分の意志で選ぶのよ」
「よぉぉし! オレは筋肉党に投票するぴこー!」
ぴこたんが高々と拳を掲げる。
「そんな党はない!!」
全員から総ツッコミが飛び、広場に笑いが広がった。
――教訓まとめ――
今回のテーマは「ネットでの選挙と選挙活動」だったぴこ。
選挙の季節が来ると、ネットの海も一気にざわつくぴこね。
誰が正しいかよりも、“どんな情報を信じて動くか”が試されるぴこ。
AIでも広告でも、「多数派っぽい空気」を作るのは簡単ぴこ……。だからこそ、自分で確かめて、自分で選ぶ筋肉が大事ぴこ!
みんなも覚えておくぴこ!
1.SNSや広告より、選挙管理委員会・公的機関の発表を確認ぴこ。
2.「みんな言ってる」「拡散されてる」情報ほど、出所と根拠を見直すぴこ。
3.投票は“いいね”ではなく“意志”。自分の考えで選ぶことが未来を鍛えるぴこ!
ミミ「情報の量じゃなく、信頼で選ばなきゃね」
ルーク「真の民意とは、冷静な選択の積み重ねだ」
リナ「未来は“考える人”の手の中にある」
ぴこたん「うむ! 筋肉も投票も、自主鍛錬ぴこ!」
「……投票用紙に筋肉って書いちゃダメだからね!」ミミが全力でツッコんだ。
次回予告:
一夜にして積み上げた信用が崩れ去る――。
“炎上”という火の粉が、ブランドの看板を照らし出す。




