第39話 心を切る文字――SNSの暗闇
夕暮れのインフォシティ広場。
いつものように活気づいていたはずなのに、空気は妙にざわついていた。
中央の噴水前に、突然、巨大な掲示板のような石板が出現したのだ。
そこには無数の言葉が浮かび上がり、行き交う人々が足を止めて覗き込む。
「なんだこれ……?」ミミが眉をひそめる。
「おぉぉ!見ろおぬし、オレの筋肉が最高って書いてあるぴこ!」
確かに板の表面には「ぴこたんの胸板すげぇ!」「力こそ正義!」と賛美の声が並んでいた。
最初は誰もが笑顔になるようなコメントだった。
だが、次第に文字の色が濁り始める。
『ぴこたんの筋肉はハリボテ』
『ミミ、調子に乗りすぎ』
『ルークは真面目すぎてウザい』
言葉の流れは急速に毒を帯び、空気が重苦しく変わっていった。
「ちょっ……なにこれ。
さっきまで褒め言葉ばっかりだったのに」
ミミが後ずさる。
「これは……群衆の心の影が反映されているのかもしれない」
ルークは剣の柄に手をかけた。
「影でもなんでもいいぴこ!
オレの筋肉をバカにするなんて許さないぴこ!」
ぴこたんは胸を張ったが――。
ヒュッ、と音がしたかと思うと、黒い刃が飛んできてぴこたんの胸を直撃した。
「ぐはっ!?“脳筋バカ”だと……!」
言葉の文字が刃の形を取り、傷跡となって突き刺さる。
彼は膝をつき、胸を押さえて苦しんだ。
「きゃっ!」
ミミの肩にも鋭い文字がかすめ、薄く血がにじんだ。
『消えろ』という言葉が彼女の心を切り裂いたのだ。
「これは……ただの言葉じゃない。
人の心を刃に変えている……!」
リナは青ざめて声を震わせた。
言葉の刃が次々と集まり、やがて蛇のような巨体を持つ怪物へと変わった。
鱗は黒い文字でできており、口を開けば罵詈雑言が溢れ出す。
「愚か者ども!価値なき存在!
お前たちなど消えてしまえ!」
それは《罵詈雑言の怪物》。
吐き出す一言一言が毒を帯び、耳にしただけで力が抜けていく。
「う……っ」
ミミは耳を塞ぐが、心まで蝕まれるような痛みに耐えきれず膝をつく。
「私……もう無理……。みんなに嫌われるくらいなら……」
ぴこたんも地面に拳を叩きつける。
「オレの筋肉が……ハリボテだと!?
違う……でも、胸が……痛いぴこ……!」
「言葉は目に見えぬが、剣よりも深く刺さる」
ルークが低く呟く。
「このままでは心が折れてしまう……」
「……違う!」
おぬしが叫び、仲間たちに声を届ける。
「確かに痛い。
でも俺たちは一人じゃない!本当の声を互いに届け合える!」
その言葉に、ミミが涙を拭った。
「……そうだよね。私は弱い。でも仲間がいるなら、立てる!」
ルークも剣を掲げる。
「真実は刃ではなく、信頼で形を成す」
ぴこたんはゆっくりと立ち上がった。
胸にはまだ痛みが走るが、瞳には力が戻っていた。
「オレは脳筋でもいい!
おぬしが認めてくれる限り、筋肉を信じるぴこ!」
怪物ヴァイパーボイスが嘲笑う。
「仲間の声など、無力だ!」
だがぴこたんは胸を張り、声を張り上げた。
「仲間の言葉は盾になる!ならオレは筋肉の壁で受け止めるぴこ!」
「必殺――《心盾筋壁》!!」
ぴこたんの全身から光が放たれ、巨大な筋肉の盾が展開する。
飛んでくる無数の罵倒の刃を、その壁が次々とはじき返す。
ルークとミミの声も加わり、盾はさらに輝きを増していった。
「私たちは弱くない!仲間の言葉があるから!」
「刃は刃で防ぐのではない。心の盾で防ぐのだ!」
ヴァイパーボイスは悲鳴を上げ、黒い文字の鱗が剥がれ落ちていく。
やがてその巨体は霧となって消え去り、広場には静寂が戻った。
「……助かった……」
ミミは小さく笑い、ぴこたんの腕を軽く叩いた。
「ぴこたん、やっぱり脳筋でも頼りになるね」
「おぉ!筋肉は心も守るぴこ!」ドヤ顔で胸を張る。
「いや、それはちょっと違うでしょ」リナが苦笑した。
ルークは真剣な表情で締めくくる。
「言葉は刃にも盾にもなる。
扱い方次第で、人を傷つけも救いもする」
仲間たちはうなずき合い、再び歩き出す。
広場には平和なざわめきが戻っていたが、心のどこかにまだ鋭い痛みが残っている。
それは、忘れてはならない教訓として刻まれていた。
――教訓まとめ――
今回は「言葉の刃」がテーマだったぴこ。
どんなに強い筋肉でも、悪意ある言葉は心に突き刺さるぴこ……。
でも、仲間の“優しい声”があれば、その痛みを包み込む盾になれるぴこ。
みんなも覚えておくぴこ!
1.SNSの言葉は見えない刃。軽く放った一文が誰かを深く傷つけるぴこ。
2.「共感」「励まし」「ありがとう」は心の回復薬ぴこ!
3.ネガティブな投稿を見たら、反応する前に深呼吸ぴこ。
4.自分も他人も守るために――言葉の責任は筋肉より重いぴこ!
ミミ「“優しいコメント筋”を鍛えよう、だね!」
リナ「言葉の選び方ひとつで、世界の温度が変わるわ」
ルーク「無駄な一撃を放つな。真に強き者は沈黙を恐れぬ」
ぴこたん「うむ!オレの筋肉は今日も“言葉のプロテイン”ぴこ!」
「……それ、ちょっと意味違うけどね」
次回予告:
夜の裏市場に、静かなざわめきが広がる。
誰かの名前、誰かの癖、誰かの秘密――
値札をつけられ、見知らぬ手に渡っていく。




