第38話 いいねの牢獄――止まらない快楽
鏡の回廊を打ち砕いた後も、空気には妙なざわめきが残っていた。
広場の片隅で砕け散った鏡の破片が光を放ち、ひとつに集まっていく。
やがて、それは黒い枠の魔導端末
――スマホに似た不思議な道具となり、ぴこたんの手の中に収まった。
「おぉっ!?なんだこれ……」
驚く間もなく、端末が震え、甲高い音を響かせる。
ピロンッ!ピロンッ!
画面には文字が次々と流れ出す。
『ぴこたんの筋肉最高!』『胸板厚すぎ尊い』『今日も腕が光ってる!』
「お、おぉぉぉ!?すごいぴこ!
見ろおぬし、世界中がオレを崇めてるぴこぉぉ!」
ぴこたんは目を輝かせ、端末を抱きしめる。
筋肉をほめられるたびに頬がゆるみ、腕をぶんぶん振り回してマッスルポーズを決めた。
「ちょっと……何これ。私の端末にも……!」
ミミの手元にも小さな鏡が変化して、色鮮やかな掲示板を映し出していた。
『ミミちゃん可愛い!』『ミミ様しか勝たん!』『推し!』
目を丸くしたミミは、夢中でコメントを追い始める。
「わぁ……!すごい、すごい!
私こんなに人気者だったの!?返信しなきゃ……!」
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数時間後。
気づけば夕陽が沈み、広場の屋台はすっかり片づけられていた。
だがぴこたんとミミはまだ端末に釘付けだ。
「やばいぴこ……筋肉投稿に“いいね”が千件超えたぴこ!」
「返信しても返信しても、また新しいコメントがつく……止まらない!」
二人の目は赤く充血し、足元には冒険の装備が散らばったまま。
リナは腕を組んでため息をつく。
「商会の伝票、もう三つも期限を過ぎてる……!
これじゃ信用を失うわ」
ルークも険しい顔だ。
「鍛錬の時間をすべて奪われている。これでは剣が錆びる」
おぬしは二人を揺さぶった。
「ぴこたん、ミミ!いい加減やめろって!」
だが返事はない。
通知音が鳴るたびに、二人の指は自動的に画面をなぞっていた。
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そのとき。
鏡の回廊の奥から、ひときわ艶やかな笑い声が響いた。
「うふふ……やっぱり、人は“快楽”に弱いのね」
姿を現したのは、きらびやかなドレスに身を包んだ魔女のような女。
指先からは光の糸が伸び、端末とぴこたんたちを繋ぎ止めている。
彼女の名は――《囁きの魔女》。
「私はあなたの欲しいものを次々に届けてあげる。
“いいね”も“褒め言葉”も、永遠に……」
彼女が呟くたびに、画面は新しい投稿で埋め尽くされる。
「終わりなんてないの。もっと、もっと、あなたは欲しがるわ」
両手をかざすと、魔女の周りに情報の奔流が渦を巻いた。
《無限スクロール》――どこまでも続く果てしないページ。
《通知連鎖》――途切れることのない着信音。
ぴこたんとミミの瞳は完全にその渦に囚われていた。
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「ぴこたん!」
おぬしは必死に叫んだ。
「筋肉って、休む時間があるから育つんだろ!」
その言葉に、ぴこたんの指が一瞬止まる。
「……や、休む……?」
ルークも剣を構えて声を張り上げる。
「鍛錬も同じだ。剣は休ませねば折れる。
鍛えと休養のバランスを失えば、戦士は自滅する!」
「私も……」ミミが小さく呟いた。
「可愛いって言われ続けるの、最初は嬉しかったけど……
だんだん空っぽになってく……。
叱ってくれる人も、ツッコミもないなんて、つまらないよ……」
その声に呼応するように、端末の画面に小さなひびが走った。
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「やめろ……!私の甘美な世界から逃げる気!?」
リコメンダが怒りの叫びをあげる。
光の糸がさらに強く仲間たちを絡め取ろうとする。
だがぴこたんは顔を上げ、拳を握りしめた。
「オレは……批判も筋肉に必要だって学んだぴこ!
快楽だけじゃ鍛えられない!
なら、筋肉パンチで時間を取り戻すぴこ!」
「必殺――《時断筋砕》!!」
拳が放たれると、周囲の時計が止まったように静寂が訪れ、
次の瞬間には端末ごと光の糸を粉砕していた。
リコメンダは悲鳴をあげ、情報の渦に飲み込まれ消え去る。
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やがて、仲間たちは広場に座り込んでいた。
夜は更け、静かな風が頬をなでる。
「はぁ……現実に戻ってきた……」
ミミは額の汗を拭った。
「“やめられない”って、本当に怖いんだね」
リナは真剣な顔で言う。
「仕事も人間関係も、現実をおろそかにしてしまう。
依存は生活を壊すわ」
ルークも頷く。「己を律すること、それが真の強さだ」
ぴこたんは筋肉をぐっと見せつけた。
「うむ!
筋肉も情報も、休ませるのが大事ぴこ!過負荷はケガのもとぴこ!」
「それは……ちょっと違う気もするけどね」
ミミが笑い、皆で顔を見合わせた。
笑い声が広場に広がり、ようやく心の平穏が戻ったのだった。
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――教訓まとめ――
今回は「SNS依存症」がテーマだったぴこ!
褒められるのは気持ちいいけど、そこに“時間”と“心”を全部あげちゃうと、いつの間にか筋肉も現実も萎んじゃうぴこ。
いいねより、いい眠り。これが真のマッスルバランスぴこね!
みんなも覚えておくぴこ!
1.SNSの「無限スクロール」と「通知連鎖」は、意図的に人を縛る設計ぴこ。
2.「やめたいのにやめられない」なら、依存のサインぴこ!
3.スマホを置いて、現実の空気や人の声を感じる時間を作るぴこ。
4.筋肉も情報も、休ませると強くなる。過負荷はケガと後悔のもとぴこ!
ミミ「“通知オフ”って、意外と勇気いるけどスッキリするね」
リナ「SNSも商売も、ペースを守るのが長続きの秘訣よ」
ルーク「剣も心も、鍛えすぎれば折れる」
ぴこたん「うむ!オレは今日から“デジタル筋休日”ぴこ!」
「……つまり寝落ちね」
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次回予告:
SNSの光が消えたあとに残るのは、静かな闇。
誰かの言葉が、誰かの心を刺す。
その“投稿ボタン”を押す指の先に――刃がある。




